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小話

その後の思春期夫婦・1

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 意識が浮上する。瞼は閉じたまま、けれども意識だけはどんどんと覚醒していくのを感じながら、リサはふと違和感に襲われた。

 なんだろう、なんだか、とてもよくない感じがする――

 天啓、虫の知らせ、野生の勘、などの言葉が次々と脳内に流れる。つまりはあれだ、このまま目を覚ましてしまうとロクな事にならないと、某の存在がじゃんじゃかとリサに警鐘を鳴らしている。
 そういえば今日の枕はとても固い。リサはふかふかとした枕が好きで、それを愛用しているというのに一体どうしたというのだろうか。けれどじんわりとした温もりは身体に心地よくもある。あとほんのりと鼻を擽るこの香りも謎だ。でもこれは好きかもしれない。なんだか落ち着くような、それとは真逆にちょっとそわそわとしてしまうような、そんな不思議な香りをそういえばあの人もしていたなあ……などと思った途端にリサのは一気に目覚めた。
 意識は完全に起きた、が、瞼は頑なに閉じたまま。眉間に皺を寄せてまでして、絶対に開けてなるものかと強い意思を示す。身体は寝起きのクタリとした柔らかさを失い、緊張でガチガチに固まる。呼吸も出来るだけ殺しながら、リサは昨夜の記憶を懸命に呼び起こす。

 昨夜は王宮での夜会だった。そこに国王の寵姫、としてではなく、王妃の語学の教師として、そして改めてディーデリックの妻としてリサは参加をした。正直面倒くさくてご遠慮申し上げたいものではあったが、立場上そうはいかないし、なによりティーアが「お姉様がいてくださらないと寂しいわ」などという強力なお強請りをしてきたのでリサに拒否権などなかった。
 そうして参加した夜会はしかし、リサが思っていたような不愉快な出来事もなく、終始穏やかであった。リサの隣に常に立つ夫が容赦なく周囲を威嚇していたおかげであるが、王妃が勧めてくれる果実酒に舌鼓を打っていたリサはその事には気が付かなかった。

 そう、果実酒、とそこでリサの記憶は怒濤の勢いで蘇る。

 南方の海に面したユーゲン国。そこの特産である黄色の柑橘系の果汁をふんだんに使ったそれを、リサは大層気に入った。口当たりが甘いのに爽やかで、スルスルと飲めてしまう。特段酒に強いわけでは無いが、かといってすぐに潰れてしまうほど弱くも無い。今日は王宮の一室に泊まる事になっているし、なによりディーデリックが傍に居てくれるという安心感から、リサはつい飲み過ぎてしまったのだ。

「リサ、少し顔が赤いですよ。もう飲まない方が良いのでは?」

 そう夫から忠告までされていたというのに。
 ティーアと話をしていて、いつかユーゲンに行きたいですね、と盛り上がった所まではなんとなく覚えている。その頃にはもうふわふわと身体が揺れ、眠気にも襲われていた。それでも楽しい気分を抑えきれず、何度目かになるグラスを傾けようとして――

 ふらついた身体をディーデリックに支えられ、「もう限界でしょう? 部屋へ行きますよ」と耳元でそう声を掛けられた。


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