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「初めの頃はまだ良かったさ。もっと二人は仲良くしたらいいのにとか、そんな可愛らしい話だったからな……それがどうだ、年月が経つにつれてディーの恋心に気付き、お前の鈍さにやきもきし、一進一退どころか零進二退じゃないかと突っ込みたくなる程の進まなさ! おかげでコッチは毎晩ベッドの上でお前とディーの仲をどうやって取り持つかとその話ばかりだ!!」

 間にテーブルがあれど、ただそれだけの距離だ。いくら耳を塞いだ所でステンの声はリサの鼓膜を揺らし、そして気力をゴリッゴリに削っていく。

「この一年はもうずっとあれだからな、『今日のお姉様とディー』と言ってお前ら二人の仲の進捗状況を報告され、それに満足したティーアが眠るのをひたすら見守っていた」

 ぐおおおおお、と地の底から沸き起こる様な低い声がリサの口の端から漏れている。ステンはそれを華麗に流し、手元にあるティーカップに口を付ける。王妃が特に好んで飲んでいる茶葉で、今ではすっかりステンもその味を楽しむ様になった。
 茶を飲み、気を落ち着かせたステンは改めてリサに言葉を向ける。

「……この状態でティーアに手を出せるわけがないだろう」

 ひあああああ、とか細い悲鳴が床に落ちるのに合わせてリサの身体も横に倒れた。国王どころか、人前でソファに倒れるなど礼を欠くにも程があるが、最早リサの精神力は零に等しい。とてもではないが体勢を保ってなどいられない。

「たしかに成長したティーアに対して、これまでのある意味保護者としての立場だとかその感情だとかをどうしたらいいのかで、ヘタレと罵られても仕方のない対応をしていたが……そこにトドメの毎晩の夫婦会議がきてみろ! なあ! こら! そんな俺に対して何か言う事は!?」
「――お詫びのしようも無く……」
「もう一声」
「……ごめんなさい」

 よし、とステンの満足気に頷いた。

「もういい。これでお前からの詫びは受け取った。起きろ思春期の奥方」
「いや良くないですよね!? ちっとも受け取ってなくないです!?」

 ガバリと跳ね起きると同時にリサは言い返すが、ステンは何処吹く風で一枚の書面をリサの前に差し出す。

「……なんですかこれ?」
「本来の用件がこれだ」


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