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 それが本当なら動機があまりにも残念すぎる。しかしどうやら本当の様なので、リサはただ唸るしかない。

「でも最近は貴女より語学力が上の方がいいと言われ……ちょっと、今、猛勉強中です」
「そんなに真面目に受け取らないでくださいね!? どちらかと言うと与太話の範疇ですよそんなの!」
「貴女に好かれる可能性があるなら少しでも実行したいんですよ」

 ぐ、とリサは言葉に詰まる。口説かれている。それはもう猛烈に口説かれているからして、これまでそんな経験など無かったリサの乙女心は大騒ぎだ。短くはない間を共に過ごしてきたおかげで、彼の為人はそれなりに理解している。生真面目で、気遣い屋で、ステンやティーアは当然ながら、仮初めの妻だったリサにも常に真摯でいてくれた人だ。
 そんな相手に全力で口説かれているこの状況。リサの心の天秤はほぼ傾いている、けれど。

「……一つだけお伺いしたいんですが」
「なんでしょう?」
「あまりにも過分な言葉をいただいていて、正直気持ちの整理ができていないんですけど……それでもどうしても気になっている事がありまして」
「はい」
「……その……私をす……好き、だと、仰るなら、どうしてそんなに眉間に皺……険しい顔をなさるんです、か?」

 若干和らぎはしているが、それでも今もディーデリックは顰めっ面のままだ。いくら好きだと繰り返されても、あまりにも言葉と表情が離反しすぎていて聞いている側が混乱してしまう。そんな当然と言えば当然のリサの突っ込みにディーデリックは言葉に詰まる。それと同時に、一旦は和らいだはずの眉間の皺がまたしても深くなり、唇をきつく噛み締め、何事かに耐えるかの様に瞳を閉じた。

「あの……言いにくい様でしたら無理には……」

 思わずそう声を掛けてしまうほどの苦悶の表情。だがディーデリックは覚悟を決めたのかくわっと音がしそうな程目を大きく開き、そしてリサに告白する。

「貴女と一緒にいられるのが嬉しすぎて、気を抜くとにやけそうになるのをずっと耐えているからです!!」

 予測不能の答えが真っ正面から飛んできた。最早事故だ。リサは大きく仰け反ってソファに背を預ける。両手でしっかり顔を覆い、叫びそうになるのを必死に堪えるが、抑えきれないか細い悲鳴が指の間から漏れる。
 無理、こんなの無理、と身悶えるしかない。いっそ清々しい程のくだらなすぎる理由。そんな事で自分は五年もの間顰めっ面しか見る事ができなかったのかという怒り。そしてそれ以上に、あまりにも可愛らしいというか、思春期かと叫びたくなるほどの彼の一途な想い。 そこにトドメと言わんばかりに、およそ初めて目にするディーデリックの赤面である。首筋から耳の端まで真っ赤にしたその姿は、リサの心臓を打ち抜くにはあまりにも威力がありすぎた。
 ふあああああ、と気の抜けた叫びと共にリサの身体がズルズルと横に流れ、ついにはソファに倒れ伏す。


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