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うどんと景勝地

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 与島パーキングエリアは瀬戸大橋のほぼ中央に位置する。大型車や小型車が多く止められる広い駐車スペースがあり、瀬戸内海を見渡す事のできる展望台、そしてそこから瀬戸大橋を見上げる事もできる。
 その一画に雪乃は車を停めた。疲労感はさほど無かったが、やはり地面に足を降ろすとそうでもない。ぐ、と背筋を伸ばすと身体の節々がバキバキと音を立てている様な気がする。

「おおきい! ひろい!!」
「ああほら走り出すんじゃない。他の車に轢かれてしまうぞ!」

 少女は今にも走り出しそうだ。その襟首を青年がヒョイと掴んで引き留める。
 シロ、と安直な名前を付ける程に真っ白だった青年が今は真逆の真っ黒だ。黒い髪に黒い瞳、黒で揃えたジャケットとパンツ。唯一白いのは中に着ているシャツだけで、美形だからこそ余計に着飾る必要も無い、というのを体現している。

「ん? どうした? 久々に見るこっちの姿にさては見惚れたな?」

 その自信満々な姿がまた余計に雪乃を苛つかせるが、すでに周囲の視線は青年と少女、そして雪乃に飛んでいるのだからまあ彼の自信も当然である。

「……黙っていればそれなりにそれなりなのになあって思ってただけ」
「黙っていなくてもそれなりだろう? なあ?」

 小さな手を引いて歩きながら青年は視線を下に向けた。少女はそんな声など聞こえていないくらい興奮しているのか、周囲をキョロキョロと見回している。

「橋が一番良く見えるのがあの展望台だから、ちびちゃんはシロと二人で先に行っててくれる?」
「はあい。おねえさんは、いきませんか?」
「私はちょっとゴミを捨ててくるから」
「野暮な事を聞くんじゃない。ゴミ捨てという名目でトイ」
「デリカシー!!」

 こうやってすぐに反応をしてしまうから青年が余計に面白がってからかってくるのだと、雪乃だって充分に理解している。以前の職場や、それこそ今の職場でだって別に男性に指摘された所で「そうでーす」と軽く返しているのだ。しかし、どうにも青年相手になると子どもの様な反応をしてしまう。まずもって相手が子どもじみた言葉ばかり投げてくるのだから、この返しは仕方ないのだと雪乃は思いたい。
 ひとまず二人と分かれて雪乃は運転中に飲みきって空になったペットボトル、眠気覚ましに口にしていた飴の袋をゴミ箱に捨てる。そのままトイレにも寄るが、これは普通の人間なのだから当然の事だ。脳内でチラつく姿がイラッとするが、その感情は手を洗う水と共に排水溝に流す。

 外へ出るとこのほんの少しの間に停車中の車が増えていた。展望台も賑わっており、親子連れの姿も見かける。

 さて、と雪乃はそんな人の多い場所に迷わず足を進める。どれだけ人が多かろうと、見つけやすいのはありがたい、かもしれない。
 やたらと声を掛けられるか、それとも遠巻きにチラチラと見つめられるか。今日の青年は前者であった様で、数人の女性客に囲まれている。それでも普段と違い、ナンパ目的の若い女性ではなく、観光に来た年配の女性客と楽しそうに話をしている。
 青年曰く、本来の姿よりも今の様に黒い髪の時は見た目の魅力を下げているそうだ。それでもこうやって人の輪に囲まれる事が多々あるのだから恐れ入る。
 近付く雪乃に気が付いたのか、青年が軽く手を挙げる。殊更眩しい笑顔を向けてきた。当然ながらに周囲の女性陣から黄色い声が飛ぶ。

「あらぁ、あの方奥さん? 可愛いわねー!」
「よかったねえお嬢ちゃん、お母さんきたわよ」
「ごめんなさいね、とっても素敵な旦那さんと可愛いお嬢さんだったからついつい構っちゃって」

 気の良い人達なのが分かるだけに雪乃はただ笑って受け流すしかない。ただでさえ誤解を生みやすい状況の三人組だ。そこに火に油を注ぐ勢いで青年が行動するものだから、誤解は深まる一方である。

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みんなの感想(1件)

Hk
2023.01.03 Hk

西日本エリアの旅、いいですね〜!!
神様が出てくるの楽しみにして更新追いかけます!( *´艸`)

新高
2023.01.03 新高

ありがとうございますー!!!!!もう少ししたら自称・神様との初遭遇回なので、明日か明後日にはそこまでまとめて更新できるよう頑張りますー!!!!

解除

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