上 下
19 / 26
神様と行く、うどんの旅とその切っ掛け

19

しおりを挟む



「いらない」
「別に荒縄で縛るってわけじゃないぞ! 神であるおれが、君の願いに対しては可能な限り力を貸してやろうというそういう比喩的表現でだな」
「なんであろうといらない。受け取り拒否よそんなもん!」
「ああーこまったなー、霊力が足りないなー、名前を付けてもらって存在を少しでも認めてもらわないと送るだけの力がわかないなー」
「そんな露骨な手に引っ掛かるわけないでしょ!」
「とはいえ力が足りないのは事実なんだなあ」
「アンタ今の今までそんなこと言ってないじゃない!」
「ああ、今初めて言ったからな!」
「どこの詐欺師よ!」
「なあにそうたいしたもんじゃない。その辺の犬猫に名前を付ける気楽さで構わないぜ」
「あああああもうなんか本当に腹立つったらないんだけど!」
「腹でも減ってるんじゃないか?」
「ああ言えばこう言う……! ええもうアンタなんか白よ! シロ!」
「――シロ?」
「犬とか猫に付ける感じでいいんでしょ!? だったら見たままでわかりやすいの一択よ!」
「シロか……お、おお……」

 あまりにも適当すぎたかと思えば、何やら青年は感激しているようだ。何故に、と雪乃は逆に不安になってしまう。てっきり「安直すぎ」だのなんだのと言われるかと思っていたのだが。

「ねえ、これでアンタの言うこときいたんだからいい加減元の所に帰して!」

 嫌な予感がまたしても雪乃を襲う。横に置いていたバッグを手に取り急ぎ立ち上がる。が、ずっと座りこんでいた状態から急に動いたのがまずかったのか、雪乃は足の痺れにバランスを崩し転んでしまう。その拍子にバッグの中身まで散らばってしまい、雪乃は慌てて起き上がると中身を集める。なんでこのタイミングで、と雪乃は半泣き状態だ。しかし悪い事は重なるもので、ぶちまけたバッグの中身、の、さらに財布の中身までもが散っている。ファスナーで閉めるタイプの長財布。普段なら開けっぱなしの事なんてないというのに。

 小銭や紙幣は飛び出てはいない。外に散ったのは財布に入れていたポイントカード類だけだ。小さいの、達も手伝ってくれてすぐに回収できたが、最後の一枚がまさかの青年の足元にあるのに気付いた瞬間、雪乃はピシリと固まった。

「……見た……?」
「――すまん」

 雪乃が転んだ上に財布の中身をぶちまけたのが、いっそ青年の思惑によるものであればよかった。しかし青年が心底気まずそうな顔をしているのでどうやらそうではないらしい。



 最後の一枚。
 まさかの運転免許証が原因となり、雪乃は名前どころか住所も生年月日も生年に知られるはめになった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

付喪神、子どもを拾う。

真鳥カノ
キャラ文芸
旧題:あやかし父さんのおいしい日和 3/13 書籍1巻刊行しました! 8/18 書籍2巻刊行しました!  【第4回キャラ文芸大賞 奨励賞】頂きました!皆様のおかげです!ありがとうございます! おいしいは、嬉しい。 おいしいは、温かい。 おいしいは、いとおしい。 料理人であり”あやかし”の「剣」は、ある日痩せこけて瀕死の人間の少女を拾う。 少女にとって、剣の作るご飯はすべてが宝物のようだった。 剣は、そんな少女にもっとご飯を作ってあげたいと思うようになる。 人間に「おいしい」を届けたいと思うあやかし。 あやかしに「おいしい」を教わる人間。 これは、そんな二人が織りなす、心温まるふれあいの物語。 ※この作品はエブリスタにも掲載しております。

視える宮廷女官 ―霊能力で後宮の事件を解決します!―

島崎 紗都子
キャラ文芸
父の手伝いで薬を売るかたわら 生まれ持った霊能力で占いをしながら日々の生活費を稼ぐ蓮花。ある日 突然襲ってきた賊に両親を殺され 自分も命を狙われそうになったところを 景安国の将軍 一颯に助けられ成り行きで後宮の女官に! 持ち前の明るさと霊能力で 後宮の事件を解決していくうちに 蓮花は母の秘密を知ることに――。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

【完結】月華麗君とりかへばや物語~偽りの宦官が記す後宮事件帳~

葵一樹
キャラ文芸
【性別逆転・ツンデレラブ(?)バディミステリ】 病弱な帝姫の宮。姫の寝台の上では小柄な宦官が下着姿の姫君に追い詰められていた。 とある事情から自分に成りすませと迫る姫君に対し、必死に抵抗する宦官の少年へ女官たちの魔の手が伸びる。 ★ ★ ★ ★ ★ 「ちょっと待て! 俺は女装なんかしねえぞ!」 「いい加減観念しろ。なんでもやると言っただろう」 「そうはいったが女装は嫌だ!」 「女装女装って、お前、本当は女じゃないか」 「うるせえ、この腹黒女装皇子!」 ★ ★ ★ ★ ★ 宦官のはだけた胸元にはさらしに巻かれたささやかな胸。 姫君の下着の下には滑らかな胸板。 性別を偽って生きる二人の互いの利害が一致するとき後宮に渦巻く陰謀が牙を剥く。 腹黒「姫」に翻弄されながら、姫の命を狙う陰謀に巻きこまれていく白狼。 後宮に巣くう敵を二人は一掃できるのか――。

処理中です...