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神様と行く、うどんの旅とその切っ掛け
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しおりを挟む「ただの人間同士でもこうだってのに、おれみたいな神格を持った存在がその力を使ったらどうなると思う? 無力な人間相手ならわざわざ力を使うまでもない。その名を呼ぶだけで魂ごと縛り付けてしまう事ができるんだ。おれだけじゃないぞ、神格がない奴ら、それこそ君がずっと口にしている妖怪連中だって、なんの力も持たない人間なら簡単に縛る事ができる」
流石にこいつら程度じゃ無理だが、といつの間にか雪乃の肩にまでよじ登っていた小さいの、の一つを青年は摘まみ上げた。
「年季の入った妖怪連中なら余裕だぜ? 君レベルでも知っている名前があるだろう? そういう連中に名前を知られるとあっと言う間に隷属、どころか魂ごと縛り付けられて二度と人の子としては生まれ落ちないだろうよ」
「とりあえず……名前がバレないようにしなきゃなのはわかった……」
「ああ、それだけ分かれば上等だ」
青年の手が雪乃に頭に伸びる。そのまま優しく宥める様にポンポンと叩かれると、知らず強張っていた雪乃の身体から力が抜けホッと溜め息が漏れた。
「――でもこれやっぱり元をただせばアンタのせいなのに! 安心してしまった自分が悔しい!!」
「そこに関してはほんとうに悪かった。すまん」
「謝罪が軽い」
「お詫びに君が名前を付けてくれていいぞ」
「え? なんの?」
「おれの名前」
「嫌」
頭で理解するより先に拒絶の言葉が出てしまう。その気持ちに嘘偽りは無いので訂正はしないが、しかし疑問は浮かぶので雪乃は青年に尋ねた。
「なんでアンタの名前? 元々の名前があるでしょ?」
「有りはしたが、今は無いに等しいからなあ」
人として生きていた名前がそのまま青年の神としての名前となった。彼を祀って信仰してくれていた村人達がいたあの頃は、ずっと。
「人間の信仰心が力なんだと言っただろう? しかし戦やら天災やらで村を離れて行く連中が増えて……おれの力ではどうにもできないデカい戦なんかもあったし……」
人が離れれば伝承も途絶える。いつしか青年は忘れ去られた神となり、今ではその霊力は僅かしか残っていない。
「忘れ去られてもう何百年だ。おれ自身も何と呼ばれていたか覚えていないくらいなもんだから、いっそ君が新しく名前を付けてくれよ」
「……私に対するお詫びじゃなかったの? それじゃアンタに対するご褒美じゃない」
「おいおいおい、おれの話を聞いていたか? 名前の話をしたばかりだぞ?」
「その顔がさいっこうに腹立つなってことしか今は浮かばない」
「三国一と言われたおれの顔だ、存分に見つめてくれつつ話を続けよう。人間が神の名を呼んだ所でどうこうなるもんじゃあない。君がおれに名前を付けても本来なら何も起きないが、君には小さいのが世話になったし、おれも数百年振りに楽しませて貰ったからな。それとさっきの件での詫びだ。だから、君に関してだけは縛られてやろう」
どうだ、嬉しいだろう!? とでも言わんばかりの青年の自慢気な顔が目の前一杯に広がる。雪乃はじわじわと眉間に皺を寄せつつ短く簡潔に答えた。
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