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神様と行く、うどんの旅とその切っ掛け
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しおりを挟む「あっっっっぶな! なんだ君!? 正気か!? それとも馬鹿なのか!? 本気で名乗るやつがあるか!!」
聞いてきたのそっちじゃん! と叫びたいが何しろガッツリと口を覆われているので雪乃の言葉は届かない。モゴモゴと微かに息が漏れる程度だ。
「異界の物を口にするべきじゃないってのは知っているくせに、自分の名前はあっさり口にしようとするとか……知識の偏りが酷すぎじゃないか!」
そんな事は雪乃は知らない。出された茶を飲まなかったのは日本の神話だけでなく、西洋の神話でも似た様な話があったなあとぼんやり覚えていたからだ。しかし名前を口にしてはならないという類いの物を雪乃は知らない。
青年が抑え付ける力は存外強く、雪乃は段々と息苦しくなってくる。もしやこのまま窒息死、と嫌な考えが過り雪乃は解放を求めてバシバシと青年の腕を叩いた。それでようやく青年も気付いたらしく、雪乃の口を覆っていた手を離す。
新鮮な空気が美味しいと感じる。それほど呼吸を封じられていたのかと思えば青年に対する怒りも増すが、向こうは向こうで眉間に皺を寄せて見下ろしてくるのでなんとなく気まずい。
「まあな、話題を振ったのはおれだからそこについては悪かった。けど、まさかあんな迂闊にも程がある事をしでかすとは思わなかったんだよ!」
「……そんなに駄目なことなの?」
本人が言う通り切欠は青年だ。しかしあまりの剣幕に雪乃はそれに対する文句よりも疑問が先に立ってしまう。
「そうだ。言霊、は分かるか? 言葉には力があるってやつだが」
「聞いたことは、ある……けど」
「名前ってのはそれを得た時点で個を示し存在を示す。存在を示すって事は魂を示すって事になる」
ううん、と雪乃は怪訝な顔をしてしまうが、青年は「その辺の認識はざっくりで構わない」と話を続ける。
「例えば……そうだな、君の職場の上司とか、そういった権力のある人間が君の名前を呼べばすぐ反応してしまうだろう? 勿論社会的立場によるものがってのが大きいが、それも一つの言葉の力が宿ってるって事だ。友人や恋人、親兄弟、そういった人間の言葉も同じ。どうしても話を聞いてしまう時があるのは、そこに言霊が宿ってるってわけさ」
それで、だ、と青年は少しばかり前のめりになって雪乃に顔を近付ける。
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