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神様と行く、うどんの旅とその切っ掛け
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しおりを挟む広島で一泊していて良かったと雪乃は心の底からそう思う。
「長い……いやたしかに地図で見た通りなんだけど! それにしたって長い!!」
広島を抜け岡山に入ったものの、そこから先が何しろ長い。「まだ岡山なの!?」がすでに何回続いた事か。九州であればとっくに隣の県に入っているはずだ。
「あー……でもあれかな……熊本から鹿児島に行く時もこんな感じだっけ……」
熊本も縦に動くとなると距離が長い。トンネルが続くものだから景色も楽しめず、やたらと疲労感だけが増す。あげく、鹿児島に入る最後の関門といわんばかりにトンネルが連続するのだから堪ったものではない。ちょうど疲労を感じ始める日奈久辺りから鹿児島に入るまでが雪乃は苦手だった。
「それでもアレがましに思えるくらいのこの長さぁっ!」
あげく広島を走っていた時よりもトラックが多い。そこにさらに自家用車も増え、バンバンと車間距離を詰めてくるものだから雪乃は気が気ではない。
「この車間は! 安全のために空けてるんであってアンタを入れるためじゃないのーっ!!」
車内でそんな絶叫をあげつつ、雪乃はひたすら安全運転に心がけた。
ようやく広島を抜けるとそこから名神自動車道に変わる。看板に表示される「赤穂」や「宝塚」の文字に雪乃は興奮を抑えきれない。知っている地名だけれども知らない土地。ここまで来たんだ、という喜びが苛立ちも吹き飛ばす。京都に入った時はその喜びは最高潮だった。
「あああああ京都だーっ!! すごい! 看板に芸者さんのイラストがついてる!!」
宝塚でも似た感じのイラストが描かれていたのを思い出す。すごいすごい、と何がすごいのか良く分からないけどとにかくすごい! と雪乃の機嫌は最高潮だ。車線は三つに増え、インターチェンジは複雑で、京都なんて「右回り」「左回り」とルートが分かれていて思わず「どっちよ!!」とキレたりもしたが、それでも雪乃は楽しかった。これぞ一人旅の醍醐味、誰にも気を遣わず、時間にも縛られずに好きに動き回る事ができる。
そうして走り続け、ようやく滋賀の県境を越えると雪乃は即サービスエリアに車を寄せた。 大津サービスエリアから琵琶湖を楽しめると知って、居ても立っていられなかったのだ。
「……海じゃん」
初めて目にした琵琶湖。日本で一番大きいと子どもの頃の授業で習った、様な気がする琵琶湖を前にして、雪乃の口から飛び出た感想はこの一言だった。
「いや海じゃん。どう見たって海!」
対岸は辛うじて見えるけれど、左右の端は全く見えない。
「海ですよって言われたら信じちゃうくらいの海っぷり」
買ったばかりのパンと紅茶のペットボトルを握り締め、展望台のベンチに腰をおろしてひたすら目の前の海、にしか見えない湖を眺め続ける。快晴に恵まれたおかげでこの季節にしては気温が高く、時折吹く風が逆にほてった身体を冷ましてくれて気持ちが良い。
「あー……このままお昼寝したい」
慣れない道を走った疲労は今になってじわりじわりと雪乃の身体に広がっている。ひとまずの目的地に着いたという安心感もあり、瞼を閉じればそのまま眠りに落ちてしまいそうな程だ。
しかし雪乃はその誘惑を懸命に振り払う。そう、ここはあくまで「ひとまずの」目的地であり、最終目的地では無いのだ。
「ここからだと一時間もかからないのか」
携帯の地図アプリで場所を確認する。サービスエリアからの景色は帰りも楽しめるのだから、ここはさっさと下道に降りてそこでしか見る事のできない景色が見たい。
食べかけのパンを紅茶で流し込み、最後のひと踏ん張りだと雪乃は勢いよく立ち上がった。
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