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おまけ

6(完)

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「グレン様?」

 ミランダの猫なで声が純粋に気持ちが悪い。すごい猫の被り方、とミッシェルが今度は真逆の意味での尊敬の眼差しでいれば、グレンがそっと耳打ちでもする様に身体を屈めてきた。

「彼女はフェリシアの友人だったろうか……?」
「――え……えっ!?」

 まさかの覚えてすらいない、という事実に驚くミッシェルに、しかしグレンは己の勘違いを進めてしまう。

「申し訳ない、フェリシアとの結婚式に参加してくれたご令嬢は覚えてはいるんだが、それ以降の友人をまだ把握できていなくて」
「あ、違う違いますよグレン様! その方まったくこれっぽちもフェリシアの友人じゃないです! もちろん私の友人でもありません!!」

 ミランダが友人だなんて冗談じゃない、とミッシェルははっきりきっぱり否定をする。カッ、とミランダの顔が怒りに赤く染まるがそんな事に構ってなどいられない。

「夜会でお会いした時に、たまに、偶然、声をかけてくるだけの知人よりもっと遠い感じの方です」

 あまりの言い草ではあるが、ミッシェルの言葉にグレンは特に深く考えたりはしなかったようだ。というかまあ、友人でないのならこれ以上具合の悪そうな妻を放ってまで相手をする必要はないと、そう判断したのだろう。フェリシアを両腕で抱き締め、ミランダに向けて必要最低限の笑みを向ける。

「話の途中を遮って申し訳ない。妻の体調がすぐれない様なので、これで失礼する」
「っ……いえ、奥様のことお大事になさってくださいませ」

 貴族の令嬢としての矜恃なのだろう、こちらも最低限の笑みを浮かべてミランダは足早に去って行った。
 嵐の様な一時だったと、そうぼんやり見送るミッシェルの耳に、突如途切れ途切れの異音が届く。驚いて振り返れば、豪奢な服に身を包んだ青年が上体を折り曲げてヒイヒイと笑っている。
 ぎゃあ、と叫びそうになった声をミッシェルはこれまた必死に飲み込んだ。フェリシアもグレンの腕の中でビクン、と大きく肩を揺らしている。この場において、一番華やかな衣服に身を包んだ人物など数える程しかおらず、そしてこんなにもグレンに対して気安い態度でいる相手など、第二王子のフレドリック以外に存在しない。

「すご……っ、おま、え……雪解け……っ!!」

 あ、やっぱりフレドリック様も雪解けって思うんだ、とミッシェルの思考は逃避に向かって一直線だ。やはり氷の騎士様のこんなにまでダダ漏れの姿はそう評するのが一番なのだろう。

「なんですか」
「なんですかって……お前のフェリシアの記憶が戻って、ようやく夜会に参加というのにいつまでたっても挨拶に来ないから、こちらから出向いてやったんじゃないか」
「ああああの、ふ、フレドリック様今回は本当にご迷惑をおかけしました!」
「いや、迷惑などではないよ。君が元気になって良かった……というか、おい、こら、グレン! いつまでそうやって夫人を腕の中に閉じ込めておくつもりだ」
「フェリシアの体調があまり良くないので。倒れたら大変でしょう」
「私には隙あらば夫人に触れていたいだけの様に見えるが?」
「そう思われるのなら、そうなのでしょうね」
「お前なあ……」
「少し部屋をお借りしても?」
「ああ、それは勿論」
「だ、大丈夫です! グレン様わたし大丈夫ですよ!! ほら、元気で」
「無理は駄目だフェリシア。君になにかあったら俺は生きてはいけない」

 真顔でそんな事を口にするのだから、周囲でずっと耳立てていた女性陣からは黄色い悲鳴が上がる。ミッシェルとフレドリックは揃って「うわあ」という言葉しか出せず、フェリシアに至っては至近距離で喰らったために本当に意識を軽く飛ばしてしまった。
 




 その後、グッタリとした愛妻を大事そうに抱えて別室へ消える氷の騎士の話は瞬く間に社交界で話題の中心となり、最終的にとある作家の手によって書籍となって広く世に知れ渡る事となった。




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