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「グレン様を朝お見送りして、夜にお迎えするのだって私の大切な仕事ですし、それ以上に楽しみなんです」

 だからこそ、今日は事前に帰宅の予定を告げられていたから、なんとしても起きて待っていたかったというのに。

「すっかり寝てしまっていました……」
「……俺の真似をポリーとしながら?」

 押し倒されたままグレンは手を伸ばす。フェリシアの頬に触れ、落ちてきた髪をそっと耳元へと掛けてやる。そうすればより一層はっきりと彼女の顔が目に映り、自然と笑みが零れた。

「その話を蒸し返します……?」
「そうだな、気にはなるけど、今は流してもいい」

 なにしろそれ以上に嬉しい言葉を聞かされているのだから、ここは大人しく引くのが吉だろう。

「俺もフェリシアに見送られて、そして出迎えてもらえるのが何よりも嬉しいよ」

 それが許される関係を結ぶ事ができた幸運は何物にも代え難い。

「今日はお迎えできなくてごめんなさい」
「君が待ってくれている時間に帰宅できなくてすまない」
「ぅ……ぁ、あの、ですねグレン様」
「うん、なんだろうフェリシア」
「……わた、しだって、その……グレン様にたくさんさわ……って、ほしいですよ私だって触りたいし! でも今日はだめです少しでもお休みして欲しいんですそういうことはグレン様のお仕事が落ち着いてからたくさんしましょう!!」

 随分とぼかした言葉だらけではあるけれど、つまりは彼女もグレンとそうなる事を望んでいるわけで、けして拒絶しているわけではないらしい。真っ赤になった顔がこれ以上はないほどに赤くなっているのがその証拠だ。

「だから今日はもうおやすみなさいです! 寝ましょうグレン様!!」

 フェリシアはグレンの身体から降りると横に転がった。そのまま背中を向けて小さく丸くなる。その様子に笑いが込み上がるが、グレンはそれをひとまず治めてフェリシアの肩に手を伸ばす。

「フェリシア」
「……なんでしょう……」
「本体はいらない?」

 本体? とフェリシアは首だけで振り返る。そんな彼女にグレンは軽く両手を広げてみせた。意図が伝わったのか、またしてもフェリシアは顔を赤くするが、ややあって身体をグレンの方へ向けるとおずおずと近付いてきた。

「いります……」
 
グレンの胸元に額を寄せ、ぎゅ、と背中に手を回してくる。その可愛らしさにグレンは一瞬息を詰めるが、息を吐きながら彼女の身体を抱き締めた。

「おやすみフェリシア」
「はい、グレン様もおやすみなさい」

 互いに温もりを感じながら、緩やかに眠りに落ちていった。

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