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しおりを挟む「だってその方が聖女サマ俺の言う事訊いてくれるでしょ?」
「……はい?」
言葉の裏に、これからいつもの流れが来そうな気配をひしひしと感じる。アンネだけではなく、カイまでいるから自重せねばと思いはするが、そんなセレスの努力を吹き飛ばしそうな表情をシークが浮かべているので無駄な努力となるやもしれない。
「貴女が狙われているから、絶対に一人にならないでください。不審な奴が近付いてきても相手しちゃ駄目ですよ、なんて言ったら余計に一人で突っ走るでしょ聖女サマ」
「そんなこと……!」
ない、とは言い切れないのが悔しい。いや、流石にセレスだって自分の力量は理解している。あの時シークと話をしたように、あくまで自分が出来るのは逃げる為の護身の術であって、相手を倒したりする様な物ではない。だから、一人で立ち向かうだとか、どうにかしてやろうだなんて思わない、はずだ。
「でもまずもって最初の時点で『じゃあ参加するのは止めて教会に引き籠もってます! 誰が来ても外には出ませんから大丈夫です!』くらいは言うでしょ?」
腹が立つ程にシークの自分へ対する解像度が高い。それは言う。絶対に言う、とセレスは唇を噛み締めつつも頷いた。
「絶対に一人になるな、ってのは守ってはくれるでしょうけど、でももし万が一、一人になった時に、ってのは怪しいと思うんですよね。誰かに声を掛けようと思っても、手近な所にいなかったら『まあ良いか』でそのまま連れ出されそうだなと」
それもまさにその通り、とこれまた頷く。全ては「アンネのため」と思っていたからこそ、中庭に誘われた時に、近い所に誰もいなかったからセレスはわざわざ喉が渇いたと言って侍女の傍へと向かったのだ。
「自分の為に、って言っても聖女サマは半分くらいしか訊いてくれないだろうけど、アンネ様の為だと言えば絶対に守るだろうなと思ったんです」
「わたしへの理解度が高すぎじゃないですか!?」
「この二年間貴女の事だけを見てきたんですから、そりゃこれくらい把握しますよ」
「なんだか言い方が気持ち悪い」
「いっそ清々しいくらいに俺への言葉が辛辣」
通じねえなあ、とシークは笑うが、セレスはすでに脳の許容量が一杯すぎて何も理解できない。
「とまあ、だいたいこんな感じなんですけど聖女サマ、理解してもらえました?」
「まったく……これっぽっちも理解したくはないんですけどぉぉぉぉぉ……」
ぐおおおお、とセレスはアンネにしがみつく。今度はアンネが背中を優しく撫でてくれ、それだけでもセレスは泣きそうだ。
「…あの人は最終的にどうなるんです? レノーイの王太子なら…そのまま帰すんですか?」
セレスの問いにまさか、とシークは鼻で笑う。
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