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しおりを挟むしかし不愉快なのはセレスも同じだ。勝手に憐れまれ、恩返しの真っ最中である教会を悪と断じ、秘密を抱えてはいたけれどそれでもそれなりに交流を深めてきた相手に不信感を抱かせる物言い。わりと今の時点でセレスの忍耐は限界だった。
「たしかにビックリしましたし、王太子殿下の護衛だなんて思いもしませんでしたよ! だってあの人この二年間ずっと教会に顔を出してたんですよ? 騎士様がそんな暇だなんて思わないじゃないですか! いや警邏隊の人だって暇じゃないですけど!! ってちがう、そうじゃなくて、そうなんだったらせめてこれで最後ですねって言う時に教えてくれてもいいんじゃない!? ってはなりましたけど!」
言う必要が無かったから、というよりも。隙あらばセレスをからかって遊ぶ彼の性格からして、これは単にセレスを驚かせたいというくだらないにも程がある理由からだろうと思う。きっと、おそらく、そうに違いない。
「でも本当に必要なことなら言うだろうし、実際そうだし、そんな人が言わなかったのならわたしには特に必要のない話というだけです。なので、その必要のない話をわざわざあなたから聞く気はありません」
「それ程までに彼を信じているんですか?」
「そりゃあなたよりは信頼できますよ」
またしても言い過ぎた。青年の顔が見る間に険しくなる。あまつさえ、紳士にあるまじき舌打ちをしセレスに向かって忌々しげに言い放つ。
「こっちが優しくしてやってる間に従ってればいいものを……調子に乗りやがって」
「従おうにも、初手から胡散臭さ全開だったし、口を開けばボロが出るし。それを取り繕うのも下手くそだし、むしろどうやって口車に乗れと? って感じなんですけど」
「随分と口が達者じゃないか聖女様。そうやって祈りを求めるって大義名分掲げた連中相手に、もう一つの達者な技をお披露目してやってたんじゃないのか?」
下卑た笑いを浮かべて青年はセレスの身体をねっとりと見つめる。
「男を虜にするには貧相な体つきだが、その分締まりがいいなら別の話だな」
「そうやってすぐそっちの方向で侮蔑の言葉投げてくるのって逆に語彙力少なくないです? あと短絡的。もう少し煽りの種類増やしましょうよ」
「お前……!」
「ええええこの程度の煽りで頭に血が上るのあんまりにも三下ぁっ!」
「その口今すぐ閉じねえと酷い目に遭わせるぞ!!」
「脅しの仕方も三下以下だな」
突如割って入る声。それと同時にセレスの視界は真っ黒になった。驚きで思わず身体が傾ぐが、その背を優しく支えられる。
「ご無事で何よりです」
耳元でそう声を掛けるのはヘルディナだ。ああ良かった、とセレスは安堵の息を吐きつつ頭に掛かったマントを引き剥がす。
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