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 警邏隊の、ちょっと、いやかなり口の悪い、あと性格も悪いんじゃないかと思いたくなる鉄灰色の髪を持つ彼の人。その正体を知りたいかと問われれば首を縦に動かしはするが。けれどもそれは

「本人に聞くからいいです」
「――は?」

 まさかそう返されるとは思っていなかった、と言わんばかりに青年が固まる。セレスにしてみればむしろその反応に固まりそうだ。

「いや……いや、本人に聞いて、素直に白状するわけが」
「知りたいか知りたくないかと言えばまあ知りたいとは思いますが」

 セレスは困惑の声を無視して自分の気持ちを正直に伝える。

「ただそれ以上にどうでもいいかなっていうのもありまして」

 シークの正体がなんであれ、聖女として生き、教会の中で生涯を全うする気満々のセレスにとって関係はない。彼が教会に来なくなればそれだけで途絶える、紙より脆い繋がりだ。それもどうやら今回の件で切れてしまった様なので、余計に今更正体を知った所でどうにもならない。

「とはいえ、全く気にならないって言い切るにはさすがに今夜のあの姿は情報量が多いんですけど」

 まさかの王太子の護衛の騎士である。そんな品格を一切感じさせなかったのは素直に褒めたい。

「ですから、そういった辺りの詳しい話を」
「この国の方でもないあなたに? その情報の出所は? 信憑性は? ってなるじゃないですか。どちらにせよ嘘か本当か分からない話を聞くなら、本人からの方がまだマシかなって」
「貴女はそうやって自分が欲しがる答えしか求めないんですか? それでは真実にはたどり着けませんよ」
「自分が求める反応をわたしに求めるあなたがそれを言います?」

 セレスとしては特に意図は無かった。ただ思ったままを口にしただけだが、それまで笑みを浮かべていた青年が不愉快そうに顔を顰めたのを見てようやく自分が言いすぎた事に気付いた。


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