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しおりを挟むアンネの婚約披露にセレスが招待された、というだけの話ではあるが、そこにどうして警邏隊の人間であるだけのシークが口を挟むのか。それに彼の言う「こちら」は一体「どちら」であるのか。
今更ながらに彼は警邏隊の人間ではないのかもしれないという疑念がセレスの脳裏に浮かぶ。そうだ、そもそも彼は自ら警邏隊であると名乗った事などない。その服装を見て、セレスが勝手にそう判断をしただけだ。
では、何故彼はそんな格好をしてセレスの前に現れたのか。彼との邂逅は二年前で、あの事件からで、それはつまりはアンネとの出会いからに始まるわけで――
「教会の上の方には明日話を通します。それとは別に、数人出入りするようになるんで、聖女サマの予定を教えてもらっていいですか?」
「……なぜ?」
彼の正体が気になってつい反応が遅れてしまう。セレスのそんな困惑を察しつつ、しかしシークは話を先に進めていく。
「何故ってそりゃ聖女サマのドレスやらなにやらを準備するためですよ」
「あなたが!?」
「俺、じゃあないですね。でもまあ、聖女サマが俺からドレスを贈られたいっていうのなら喜んで用意しますけど?」
「いらないです」
「はは、即答。聖女サマったら男がドレスを贈るって意味知ってます?」
「知りませんけど、別に知っていたとしてもあなたから貰いたいとは思わないので大丈夫です」
「きっついなー、これどう思います?」
「多分ですけれど……これまでのシーク様の言動による自業自得ではないかと」
「より一層辛辣なのがきた」
アンネの突っ込みはまさにその通りなのでセレスは特に言う事はない。それよりもとにかくどうして彼、の、関係する側からドレスを用意されなければならないのか。
「聖女サマ、貴族連中が出る様な場に着ていけるドレス持ってます?」
「……ないです……」
「だからこちらでその辺含めて全部用意しますよ、って話です」
言われてしまえば納得するしかない話だ。確かにそういった場に相応しい服などセレスは元より教会にだって用意はできないだろう。聖女としての礼服はありはするが、そんな格好で祝いの席に出られるはずもない。え、でも聖女としてならむしろアリなのでは? とセレスは一瞬閃くが、その考えを見透かしたのかシークは元よりアンネにまで静かに首を横に振られてしまった。
「とりあえず今後の予定さえ教えて貰えれば、後はこっちで勝手に用意しますから聖女サマはお気になさらず」
そう言われたところで気になる事だらけだ。さらにはそこに追い撃ちがかかる。
「良かったですね聖女サマ。これが終われば俺との縁も切れますよ」
「え――?」
「さっきも力強く言われたしなあ。俺としては末永くご縁を結んでいたかったんですが……まあ、そんなわけで残り少ない日数ですが、それまではよろしくお願いしますよ聖女サマ」
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