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しおりを挟むそれなのに、ミッシェルのすぐ傍で、まるで一冊の恋愛小説かと思いたくなる様な胸のときめく実話が起きたのだ。目の当たりにした。なんなら少し巻き込まれた。まさに事実は小説よりも、を体感してしまったらばもう、これまで軽くで抑えていた素敵な話への憧れは強まる一方で。
「だってあんな会う度に幸せです! って空気をぶつけられるんだもの!! ちょっとは自分にもって夢を見てもしかたがないと思うの!!」
「あー……うちの上司か……」
「そうよ! あなたの上司が毎回会う度に【俺の嫁が可愛い】って甘さしかない空気をダダ漏れさせてくるのよ! 遊びに行くたびにそれを直撃な私の気持ちも考えて!」
「それに関しては本当にお詫びのしようも無く」
ルークの上司であり、第二王子の専属護衛の騎士と、ミッシェルの友人が結婚したのが三年前。二人はその式で初めて顔を合わせ、それからの付き合いだ。
ルークにとっては上司の結婚相手の友人、ミッシェルにとっては親友の結婚相手の部下、というなんとも微妙に遠い距離間であったが、とある理由で今もこうして細々と続いている。
「結婚した当初はこっちが毎日顔付き合わせる勢いで心配してたっていうのに、なんなの!? なんなのあの変わり様!? いいわよあの子が大事にされていてとっても、ものすごく、鬱陶しくないの!? って訊きたくなるくらい愛されているからいいんだけど!」
しれっと本心が交じっているのはご愛敬だ。尊敬して敬愛している相手ではあるけれど、たしかにここ最近の上司は非常に鬱陶しいとルークも思う。
結婚した当初はお互い年の差や身分差を気にしてかすれ違いが多かったようで、新婚でありながら仕事に明け暮れてなかなか帰宅しようとしない上司と、そんな彼とどう接していいか分からない友人との間で、ルークとミッシェルは連日話し合う日々だった。
「ご両親を亡くして、ロクデナシの叔父に家を乗っ取られて、財産食い潰されて身売り同然でさらにロクデナシと結婚させられそうになっていたのを助けてくれたと思ったのに! そこから無駄に三年も遠慮し合ってすれ違うってなんなのよ本当に!」
「それなあ……そこは俺らも謎なんだよ……」
上司は常に冷静で、的確な判断を即座に下す有能な人物でありながら、女性にはどこか淡泊というか、最早冷淡なのではなかろうかと思うほどの対応をする事のある人だった。そんな上司がとったまさかの行動で、どれだけその妻となった女性に入れ込んでいるのかと思っていたのだが。
「奥様の事情があったにしても、随分と遠慮がちだったもんなあ」
「せっかく幸せな結婚ができたから、これであの子も心穏やかに過ごせるって思っていたのに」
ドン、とミッシェルはテーブルを叩く。するとそれに触発でもされたのか、ルークが軽く吹き出した。
「なによ?」
「いや……そういやお嬢さんの式での啖呵が凄かったなって……思い出した……」
くつくつと喉奥で笑いながら肩まで揺らすルークに、今度はミッシェルが吹き出す。こちらは笑いではなく動揺の為だ。
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