上 下
101 / 143
ヒカリの向こう

過去にある現在①~ベルの生い立ち~

しおりを挟む

 昨日はうだるような暑さの中で砂漠を歩いたが,村の中は不思議と心地よい気温だった。扉代わりのカーテンが風でなびいたかと思うと,隙間からひょいとアンナが顔を覗かせた。

「おはよ! しっかり寝られた?」

 十二,三歳ぐらいなのにしっかりしているなあと感心しながらも返事をして話をしていると,その後ろからアンナと同じ綺麗な赤い髪を後ろで結んだ女性が現れた。

「おはよう。生きの良い若いのが入ったって聞いたけど,屈強そうだね。ご飯が出来たけど食べるかい?」

 チャイナドレスのズボンをさらに切り込みを深くしたような衣装を身にまとっているその女性が動くたびに,下着が見えてしまうのではないかとこちらがハラハラする。それにしても,すれ違えば思わず二度見をしてしまうほどの美人だ。ベル姉ちゃん,とアンナは後ろを振り向いて飛びついている。どうやらアンナのお姉さんで,ベルという名前らしい。

「こらこら,アンナったら。さ,みんなでご飯にしようか」

 ベルは衣装をひらひらさせながら,颯爽とカーテンの向こう側に消えてしまった。行くよ,というアンナの声に従って起き上がり,二人の後をついて行った。
 
そこは食卓というよりかは,食堂のような場所だった。休ませてもらった小屋からすぐ見える建物に入ると,給仕室のすぐ前に長い食卓テーブルが並べられ,そこで十人ほどの子どもがわいわいと食事をしていた。

「うまそう・・・・・・」

 ジャンはよだれをすするような音を立てながら料理に見入っている。エビや赤身の魚が生で並べられていたり,朝から少し重そうなチキンをローストしたものがオードブルのように野菜に彩られながら盛られているが,新鮮さを感じさせ,香りも食欲をそそる。懐に,潜り込んでいたミュウは服から飛び出し,チキンに鼻をあてて匂いを嗅いでいる。

「これ,あんたが作ったのか?」

 ジャンは目を丸くしてベルに尋ねた。バオウはすでにチキンを頬張り,ミュウはバオウにとってもらったチキンの骨にしゃぶりついている。

「私が料理担当だからね。ここにいる子ども達は,みんな身寄りの無い子達さ。帰る家もないし,たべさせ手くれる親もいない。だからそれを私が見ている」

 ジャンは感心したようにうなずいている。刺身を手に取り,丁寧に味を舌の上で楽しむように食べた。うまい,と行った後にベルの方を見た。

「いつからその役目を?」

 ベルのキラキラとした瞳が一瞬曇ったようにも見えたが,すぐに明るさを取り戻した。

「私が五年くらい前かな? 私が年長だったから。私ももともとここで育った人間で,その時はシスターって呼んでたおばちゃんがいたんだけど・・・・・・もう戻ってこない」
「どこかへ出かけたのか?」
「うん・・・・・・,食材を取りに村を出たっきり帰ってこない」

 こらえきれなくなったのか、うつむいて最後には鼻声になっていた。どうしても死んだとはおもえなくてさ,と呟いたときには泣いてしまうのかと思ったが,その瞳から涙がこぼれ落ちることはなかった。

「シスターが帰ってくるまで,私がここを守らなきゃ」

 ふくらみのある胸を張って明かり声で言った。そうだな,とジャンは相槌を打ち,食べ物をかきこんだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

番だからと攫っておいて、番だと認めないと言われても。

七辻ゆゆ
ファンタジー
特に同情できないので、ルナは手段を選ばず帰国をめざすことにした。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】7年待った婚約者に「年増とは結婚できない」と婚約破棄されましたが、結果的に若いツバメと縁が結ばれたので平気です

岡崎 剛柔
恋愛
「伯爵令嬢マリアンヌ・ランドルフ。今日この場にて、この僕――グルドン・シルフィードは君との婚約を破棄する。理由は君が25歳の年増になったからだ」  私は7年間も諸外国の旅行に行っていたグルドンにそう言われて婚約破棄された。  しかも貴族たちを大勢集めたパーティーの中で。  しかも私を年増呼ばわり。  はあ?  あなたが勝手に旅行に出て帰って来なかったから、私はこの年までずっと結婚できずにいたんですけど!  などと私の怒りが爆発しようだったとき、グルドンは新たな人間と婚約すると言い出した。  その新たな婚約者は何とタキシードを着た、6、7歳ぐらいの貴族子息で……。

前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】

迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。 ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。 自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。 「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」 「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」  ※表現には実際と違う場合があります。  そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。  私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。  ※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。  ※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。

処理中です...