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ヒカリの向こう
過去にある現在①~ベルの生い立ち~
しおりを挟む昨日はうだるような暑さの中で砂漠を歩いたが,村の中は不思議と心地よい気温だった。扉代わりのカーテンが風でなびいたかと思うと,隙間からひょいとアンナが顔を覗かせた。
「おはよ! しっかり寝られた?」
十二,三歳ぐらいなのにしっかりしているなあと感心しながらも返事をして話をしていると,その後ろからアンナと同じ綺麗な赤い髪を後ろで結んだ女性が現れた。
「おはよう。生きの良い若いのが入ったって聞いたけど,屈強そうだね。ご飯が出来たけど食べるかい?」
チャイナドレスのズボンをさらに切り込みを深くしたような衣装を身にまとっているその女性が動くたびに,下着が見えてしまうのではないかとこちらがハラハラする。それにしても,すれ違えば思わず二度見をしてしまうほどの美人だ。ベル姉ちゃん,とアンナは後ろを振り向いて飛びついている。どうやらアンナのお姉さんで,ベルという名前らしい。
「こらこら,アンナったら。さ,みんなでご飯にしようか」
ベルは衣装をひらひらさせながら,颯爽とカーテンの向こう側に消えてしまった。行くよ,というアンナの声に従って起き上がり,二人の後をついて行った。
そこは食卓というよりかは,食堂のような場所だった。休ませてもらった小屋からすぐ見える建物に入ると,給仕室のすぐ前に長い食卓テーブルが並べられ,そこで十人ほどの子どもがわいわいと食事をしていた。
「うまそう・・・・・・」
ジャンはよだれをすするような音を立てながら料理に見入っている。エビや赤身の魚が生で並べられていたり,朝から少し重そうなチキンをローストしたものがオードブルのように野菜に彩られながら盛られているが,新鮮さを感じさせ,香りも食欲をそそる。懐に,潜り込んでいたミュウは服から飛び出し,チキンに鼻をあてて匂いを嗅いでいる。
「これ,あんたが作ったのか?」
ジャンは目を丸くしてベルに尋ねた。バオウはすでにチキンを頬張り,ミュウはバオウにとってもらったチキンの骨にしゃぶりついている。
「私が料理担当だからね。ここにいる子ども達は,みんな身寄りの無い子達さ。帰る家もないし,たべさせ手くれる親もいない。だからそれを私が見ている」
ジャンは感心したようにうなずいている。刺身を手に取り,丁寧に味を舌の上で楽しむように食べた。うまい,と行った後にベルの方を見た。
「いつからその役目を?」
ベルのキラキラとした瞳が一瞬曇ったようにも見えたが,すぐに明るさを取り戻した。
「私が五年くらい前かな? 私が年長だったから。私ももともとここで育った人間で,その時はシスターって呼んでたおばちゃんがいたんだけど・・・・・・もう戻ってこない」
「どこかへ出かけたのか?」
「うん・・・・・・,食材を取りに村を出たっきり帰ってこない」
こらえきれなくなったのか、うつむいて最後には鼻声になっていた。どうしても死んだとはおもえなくてさ,と呟いたときには泣いてしまうのかと思ったが,その瞳から涙がこぼれ落ちることはなかった。
「シスターが帰ってくるまで,私がここを守らなきゃ」
ふくらみのある胸を張って明かり声で言った。そうだな,とジャンは相槌を打ち,食べ物をかきこんだ。
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