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ヒカリの向こう

時空を超えて⑫~歪んだ世界~

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「二人とも何してんの」

 何やら真剣な顔をして話し込んでいるジャンとバオウに声をかけると,二人とも飛び上がって反応した。こんな夜中に後ろから声をかけられたらびっくりするよなとおかしそうに笑うと,ジャンは肩の力が抜けたように表情を崩し,びっくりさせるなよ,と呟いた。でも,「いつから起きてた?」と聞いてくるその表情は鬼気迫るもので,ただ事ではないことが起きたのかも知れないと感じた。

「さっきだけど・・・・・・。何かあったの」
「いや・・・・・・,これからのことでちょっと問題が生じてな」
「問題って?」
「それは・・・・・・」

 ジャンは答えに詰まった。言えない問題ってなんだろう? と頭をかしげていると,バオウが横から説明をしてくれた。

「実はな,確定ではないから変に不安も煽るような雰囲気にもしたくないし,話すべきかどうか迷ったんだが・・・・・・」

 バオウはジャンを見た。そして,深くうなずくとまたこちらの方を向きなおした。

「時の欠片の力でおれたちは時空を超えてこの村にやってきた。おれたちのまず最初の目的は,もとの時間軸に戻ることだ。そのためには,もう一度アトラスに会って,時の欠片を奪い返す必要がある。そして,それを壊さなければならない。そのとき,うまくやらないとまた別の時空に飛ばされるかも知れないんだ」
「じゃあ,どうしたらいいの? 今度は元の時代に戻れない可能性もあるわけだ・・・・・・」
「いや,基本的には壊せば時空の歪みは元に戻る。それによる弊害,いや,それによってズレが元に戻る。例えば,アトラスがどれだけ過去を操作したことでおれたちが生きていた現代に影響が出ていたが,それまでの歪みは元通りになる。お前達は・・・・・・,チチカカってやつを殺したはずだよな? でも,今はおれたちの世界で生きている。そういうやつらは消滅するってことだ」

 少しずつ状況が飲み込めてきた。つまり,自分たちの時間軸で本来存在していなかったものは,いなくなってしまうというわけだ。それなら,自分たちの世界は元通りにただされると言うことだ。それは別に悪いことではない気がする。だってそれが現実としてもともと存在していたものなのだから。
 ジャンがじっとこちらを見ている。何か付いているのかと思い顔を触っていると,何もついていない。なに,とジャンを見ると,薄ら笑いを受かべている。

「もし・・・・・・,仮定の話だぞ。もし時の欠片を壊したら,バオウがいなくなると分かっているなら,ソラ・・・・・・お前ならどうする?」

 息をのんだ。そうだ,大切な人がいなくなるという可能性もある。今頭に浮かんだのはチチカカだが,何かしらの出来事が影響したことで自分の大切な人に影響も与えることもある。過去を変えるとうことは,それはそのまま現実を変えることになるのだ。
 息をするのも忘れて,バオウを見つめた。もしかして,バオウもチチカカと同じように過去からやってきたのだろうか・・・・・・。

「なーに神妙な顔しているんだよ。冗談だっての。そんなにバオウを愛していたとはな」

 腹を抱えて笑いながらジャンは茶化してきた。肩の力が抜ける。でも,一度浮かべた悪いイメージはなかなか頭からは離れてくれなかった。

「よかった。そんなことはないんだよね。自分ならきっと・・・・・・」

 沈黙が暗い部屋を支配する。二人が息をのむ音が聞こえた。

「自分なら,せっかく仲良くなった友達と別れるようなことはできない。もし自分の大切な人が自分と同じ世界からいなくなってしまうなら,世界なんて歪んだままでいい」

 喉がきゅっと締め付けられたように苦しい。息がしにくい。目に涙を浮かべながら,「嘘でよかった」と笑って見せた。
 前から抱きしめられた。ジャンが頭をわしづかみにしながら,肩に手を回してくる。

「悪い冗談を言ったな。すまんすまん。おれたちは・・・・・・,ずっと一緒だ」

 ジャンは頭をポンと叩き,「村のみんなが動き始める時間になったら聞き込みを始めるぞ。それまで休もう」と笑いながら布団に押し飛ばしてきた。バオウはすでに背中を向けて布団にくるまっていた。

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