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旅立ちの前に

始まりの森①~弱いものほど身を何かでまといたがる~

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 学校が休みのある日,森に出かけた。モンスターを相手に魔法や剣術を使って実践技術を高めようと思った。魔法学校の授業だけではどれだけ集中したところで知れている。週末にはモンスターを相手に復習がてらに剣を振るったり魔法を繰り出すのがルーティーンになっている。モンスターと言っても,村の近くの森には年長でもけがをすることはないスライムしか住み着いていない。緊張感の欠片もない実践練習だ。
 村を出て20分。うっそうと茂る木々を目の前にして足がすくんだ。太陽がさんさんと照っている。それなのに,森の向こう側にある山はあまりに大きく,すぐそこに迫ってくるようであり,山のくぼみからは蒸気のようなものが漏れてきている。広葉樹と針葉樹が入り交じった森の入る口からはカラッと晴れたこちら側とは違う重苦しく不気味な気配が漂っている。

「今からここに入るのか・・・・・・。大丈夫。ここにはスライムしかいないんだから」

誰にでもなく自分を鼓舞するためだけにつぶやいた。しかし,それは自分が一人だという孤独感を一層強いものにし,何一つ励みにはならなかった。ぐずぐずしていてもしょうがない。何か心配があるとすれば,森の中で道を見失って戻れなくなることだ。奥に入り込みすぎなければ全く問題ない。 
 勇気を出して足を前に進めた。大丈夫。絶対に大丈夫。何度も何度もそう言い聞かせる。右手は腰に下げた剣の柄にかけ,左手はすぐに攻撃呪文も回復呪文を唱えられるように杖を取り出す準備を整えている。右手の服の裾に軽く触れる。急に敵が目の前に現れていても対応できるように,ダガーも仕込んである。知識は武器だ。安全圏から攻撃しようと思ったら遠距離魔法をぶち込んで,懐に敵が入り込んできたときには短刀で相手を腹部や腱を断つ。防衛術の授業を熱心に聞き,独学し,繰り返し鍛錬してきた。それなのに,足の震えが止まらない。座学の授業ではトップクラスにいるが,実技テストになるといつも底辺をさまよっている。

「おい,女男,お前ほんと鈍くさいよなあ。なよなよしてて力はないし,魔法ができるわけでもないし。お勉強だけ出来てもダメなんだよ。不安な奴ほど武器で身を固めたがる。でも,結局力がないやつは何してもダメなんだよ」

バオウ。魔法学校の同じ学年でトップクラスに剣術が出来る男。その素早い身のこなしから繰り出される剣術は,居合いの試験でも乱打でも負けなしだ。恐ろしいのが,太刀を使った一刀流でも双剣による打ち合いでも師範を打ち負かし,魔術も優れていることだ。そして,弱いものを徹底的にいじめる。あのあと,胸ぐらをつかまれて投げられそうになったところを懐に忍ばせた短刀で小突いてやろうと思っていたが,胸ぐらをつかまれたときにはすでにそんなものは取り上げられていた。動きを読んでいたバオウは「そんなおもちゃを赤子が使って何になるんだ」と投げ返して高笑いして去っていった。厄介なやつに絡まれたことを思い出す。
 自嘲しながら下を向いて歩いていると,目の前に大きな影が現れた。顔をあげると,そこには大きな熊が巨大な魚を口にくわえたまま立ち上がってこちらを見ていた。
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