欠片を集める君へ

neotorythem

文字の大きさ
上 下
5 / 8
最後に卒業する君へ

5-7

しおりを挟む
三階に上がるとすぐに図書室だ。重い木のドアを少し持ち上げてスライドさせると、動きの鈍いレールがギュルギュルと音を立ててドアが開いた。
 電気を付けるとバレちゃうから、とあかりが言う。窓から差し込む月明かりを頼りに、書架の間を僕らは進んだ。
「あ、あった」
 一センチ程の布張りのアルバムが並ぶ棚の前で、あかりが立ち止まる。
「99期生なんだ、僕」
 今度は月明かりに浮かぶ彼女の輪郭があまりに美しいせいだろうか。ドクンと深く脈を打つ。
 今日はなんだか鼓動が忙しい。
「96、97……」
 吐息のような小さい声。
 白くか細い指先で、なぞるように背表紙を数え、その一冊を手に取ったあかりはふと僕に向き直り問いかけた。
「まだ、お兄さんの名前聞いてませんでした」
「そうだった、ごめん。僕は……石神 直っていいます。石に神様の神、素直の直」
 もう一度、一際深く拍動する胸。
 
「ほら、ここ写ってる。はは、懐かしいな……」
 入学式のページに載った僕の写真は、緊張のせいだろうか。歯を食いしばったような硬い顔をしていてその様につい笑ってしまう。
 体育祭、林間授業、文化祭。ページページに刻まれている、確かに過ごした青春の日々。
 こういう感情をセンチメンタルと呼ぶのだろうか。なんだか気恥ずかしくて、それを隠すように僕はまた笑った。
 対象的に。パラパラとページを捲るあかりの顔は泣きそうだった。
 彼女にとって、その行為はカウントダウンだったのだ。
 それは何も知らない僕にとっても。
 全てを悟った彼女は俯いたままポケットを探り、ボールペンを取り出す。
 そして、最後のページにさっき知ったばかりの名前を書き足した。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

処理中です...