裸でいるよりそそられる

サトー

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水の中の暮らし(4)

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 この狭いアパートの部屋には、転がり込んできたイチカ君の分のベッドを置く場所はもちろん無い。

 イチカ君はテーブルを部屋の隅に寄せた後、水槽の前に布団を敷いて、水が循環するチョロチョロという音を聞きながら眠りにつくのが好きなのだと言う。

「カケルもさー、ベッドを捨てて一緒に布団を並べて寝ようよ」
「ヤダ」
「ケチだなあ」
「なんでそうしたいの?」
「いや……修学旅行みたいで楽しいかなって……」

 ベッドはまだ使えるし、フローリングに布団を敷いて寝たら腰が痛くなりそうだから、聞こえないフリをした。

 イチカ君は時々こういうパスを放ってくる。

 布団を並べて一緒に寝ようとか、「カケルは彼女を作らないの?」とか、女を紹介してやるとか、俺の返答次第で俺とイチカ君の生活の何かが少しだけ変わってしまうようなことが投げかけられる。

 だから、俺も時々投げ返す。「声が聞きたかっただけ」という理由でツアー中のイチカ君に電話をしたこともあったし、冗談で「イチカ君が一番良かった女の子を紹介して」と言ったこともある。「イチカ君って、エッチした女の子には本名を教えるの?」と聞いたこともあるけど、「どうかな」とはぐらかされた。

 二人の生活はそれなりに上手くいっている。男女の同棲と違って、進展する見込みもなければ、なんの責任も発生しない。ただただ気楽で楽しい。だから、魚を飼ってみたり、不器用なりに料理をしてみたり、そういったことで子供みたいに永遠にはしゃいでいられる。

 それなのに、二人とも時々、何かを変えようとしておかしなことを聞いたり言ったりする。そして、今のところ俺もイチカ君も、居心地のいい友達どうしの生活を止める勇気はなくて、投げ掛けられたことをのらりくらりとかわしながら毎日を過ごしている。

「カケル、寝てる……?」

 起きているけど、返事はしなかった。イチカ君がそろそろと俺の寝ているベッドに入ってくる。いつからかイチカ君は時々俺のベッドに忍び込んでは体をくっつけてくるようになった。

 イチカ君はすでに行動を起こしているから、後のことは全部俺に委ねられている。「なんで、こんなことをするの?」と聞くもよし、「こんなことは、やめて欲しい」と拒絶することだって許されているし、イチカ君がしたいかどうかを別とするならば、その先を促すことだって。

 イチカ君は一言も声は発さずに、ただ黙って俺の体に抱き付いてきて時々顔をすごく近付けたり、胸や背中、内腿といったあちこちを触る。初めてそうされた時は、ビックリして死にそうだった。ぎゅっと目を閉じていると、フルメイクとステージ衣装を着た怖いくらい綺麗なイチカ君の姿が頭に浮かんできて、それでますます緊張した。

 その時は普段のイチカ君の様子を思い出してなんとか切り抜けた。つまみ食いをしてモグモグやっている様子や、寝ていると思ってつけっぱなしのテレビを消したら「見てたのに~……」と目を覚ました時の様子を。テレビを消されて起きた後、自分で「なんか、今の、おっさんみたいだったな」と言って照れ臭そうにする姿も思い出しておいた。そういった庶民的でとぼけている姿を記憶の中から拾い上げれば「そうだよ、相手はイチカ君じゃん」と無理やり自分を納得させることが出来た。

 ヴィジュアル系の格好をしている時のイチカ君からは浮世離れした美しさを感じるけど、家でのイチカ君は素朴で優しい、普通のお兄さんだ。だから、何も緊張することはない、と思っていた。
 それなのに最近は一人でいる時に、イチカ君との間に起こった出来事をぼんやりと思い出すことが多くなった。当たり前だけどこの家でのイチカ君の様子は俺しか知らない。その一つ一つに楽しかったことや、嬉しかったことがくっついていていつの間にか特別な記憶になってしまっている。思い出すだけで嬉しくなるのに、いつだって気分がそわそわと落ち着かなくなった。

「う……」

 足の付け根というキワドイ所を触られて、本当にほんの少しだけ声が出てしまった。イチカ君もヤバイと思ったのか、サッと手を引っ込めた後、俺の様子をうかがうようにして息を潜めている。

 もっと仲良くなったらイチカ君は服の下がどうなっているのか教えてくれると言っていた。仲良くなるってなに? とやっぱり同じ疑問で頭の中はいっぱいになる。
 普段眺めているだけの、きらびやかな衣装を着るためのイチカ君の体。知ってしまったら俺とイチカ君の関係はきっと、変わってしまう。それが、なんだか取り返しのつかないことのように感じられて怖い。 
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