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無免許(1)

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 今年の夏はすごく暑い。暑いけど、身体の調子はいいし、仕事だって順調だ。たぶん、ユウイチさんの作ってくれる栄養があっておいしいご飯を毎日食べているのと、上手く時間を使って二人でリフレッシュをしているからだと思う。この前、休日にドライブへ出掛けた時には、山道でサルを見つけていい大人なのに二人で「ああっ! すごい、サルだ!」とはしゃいでしまった。車だって今のところ故障はなくて、俺もユウイチさんもジムニーもすごく調子がいい。

 それでもユウイチさんは「身体を使う仕事だから」って俺のことをすごく気遣ってくれる。働いているのはユウイチさんだって同じなのにいいのかな? ってちょっと申し訳ないと思ってしまうくらいに。
 ユウイチさんは俺の何気ない一言をよく覚えてくれていて、さらっと俺を喜ばせる。つい最近も「もっと大きい水筒が欲しい。仕事中すごく喉が乾く」と俺が話した数日後には「はい」と新しい水筒をプレゼントしてくれた。

「うわ~! すごい! こういうのが欲しかったんだよね~! ユウイチさん、ありがとうー」

 ブランドロゴが大きくデザインされたコロンビアのボトルはシンプルでかっこいいうえに、今使っている水筒よりも大きい。「蓋の所が持ち手の形になってるのも、めちゃくちゃ便利だよ」と喜ぶ俺を見てユウイチさんはフッと笑った。……すごいなあ、きっと逆の立場だったら「気に入ってもらえたんだ! よかった!」って俺はバカみたいにはしゃいでしまうのに。

「ユウイチさん、ありがとう……。仕事で使うものだから、本当は自分で買わないといけないのに。こんなにいいものを本当にありがとう」
「いいよ。長い目で見たら、毎日使うんだからいいものを持っていた方がいいだろうし……」
「うん……。ありがとう、大事に使います」

 明日から毎日使おう、とステンレスのボトルを抱えるようにして両手でぎゅっと握りしめた。水筒に入れる麦茶だって毎日ユウイチさんが作ってくれる。俺って本当に大事にされているんだな、としみじみ感じていると、「ところでマナト」とユウイチさんが俺の顔を覗き込んできた。

「へえ? あ、なに……?」
「今、マナトが使っている水筒のことだけど」
「ん? うん」
「まだ使えるだろうから、俺に売ってくれない? 十万円で」
「……えっ」

 なんの冗談だろうと思い、恐々ユウイチさんのことを見つめてみたけど、その表情は真剣だった。「怖い、危ない」と感じるぐらいに。

「……や、やだ。イヤだ、ダメ。売らない……」
「どうして? 十万円が不満なら二十万でも三十万円でも払うから」
「ひいっ……」

 なんとなく嫌な予感はしていたけど、一応理由を聞いてみたら「毎日マナトが使っていた水筒から出てくる水で水分を補給したい」ということだった。その後に、「まだ使えるものを処分するのは環境にも悪い」と、あくまでもリサイクル目的だという取って付けたようなアピールもされたけど、「どうして普通に『古いのは貰ってもいい? 職場で使うから』と言えないんだろう!? そうしたら、俺も何も考えずに渡していたのに!」と本当に呆れてしまった。

「ダメ! なんか怖いから」
「……。ああ、今年は暑いからな……、会社にいても水分の補給がな~、必要なんだけど……」
「うう……」
「マナトが使っていた水筒がちょうどいいんだよな……」
「……じゃ、じゃあ、十万円とかそういうのは無しで。普通に使ってくれるなら……」

 最後の「普通に使ってくれるなら」という部分がちゃんと聞こえていたかはわからないけど、ユウイチさんはすごく嬉しそうにニヤ……と笑った。たぶん、使う度に「深みのある味がする……んっふ」とか、そういう怖いことを考えるんだろうけど、でも、暑さは心配だから、諦めるしかない。

「はあ……」

 すぐにお金を渡して俺の持ち物を買い取ろうとしてくる変な所は相変わらずだけど、でも、ユウイチさんと暮らすのは楽しい。ユウイチさんからは「マナトは表情がコロコロ変わるから一生見ていられる」と言われる。けど、それってユウイチさんの側にいるからだと俺は思っている。

◇◆◇

 冬にちょっとしたキッカケで始めたコスプレも……、やってみたら思ってたよりもよくて、それで、二人ともすごくハマってしまった。

 始めの頃は俺が、「そういうお店の人」という設定でコスプレをしていたけど、今はだいぶ慣れてきたから「マナト」「ユウイチさん」と呼びあってセックスをしてる。こんなことをしていいのかなって、まだまだ躊躇う気持ちもあるけど、「好きだよ」って甘やかされていると、恥ずかしい格好でも何でも受け入れてしまう。

 冬の間はブレザーと学ランを何回か着た。どう見ても高校生には見えないということは自分でもよくわかっていて、一度セックス中に正気に戻ってしまったことがあった。「嫌だ、恥ずかしい。嫌だ」と手で顔を覆って恥ずかしがる俺のことを、ユウイチさんは「大丈夫だよ」と捕まえて、それから……「可愛い、可愛い」っていっぱい甘やかしてきた。
 シャツのボタンを全部外されて、「可愛い、好きだよ。よく似合ってる」と乳首をしつこく舐めたり吸われたりされるのが気持ちよくて、それで、「おっぱい、ダメ」と俺は涙まで流してしまった。
 制服のシャツはぐちゃぐちゃになってしまっているのに、手首を強く押さえつけながら、俺の胸を夢中で求めてくるユウイチさんを見つめていたら、本当に「好きだよ、だから欲しい」という思いがぶつけられているような気分になって、いつの間にか、恥ずかしい、よりも、気持ちいい、と感じていた。

 コスプレ姿でセックスをした時は、必ず最後はユウイチさんが俺の着ているものを汚す。一滴残らず全部をぶっかけられると、ああ、ユウイチさんもすごく興奮していたのかな、という気分になるから、「汚れてしまった、どうしよう」ってハラハラするのになんだかやめられない。
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