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マナト、一人で使う(1)
しおりを挟むあまり気の進まない出張へ行かないといけなくなってしまった。
大型貨物用の製品を開発するため現場を視察する、といった目的の出張ならいい。研修を通じて「一流のものづくりマインドの定着を図る」「本社のDNAを継承する」といったキャリアに応じた人材育成を目的とした出張はあまり得意じゃない。
べつに偉くなんかなりたいと思ったことはないが、「これだけやれば数年後にはこの役職に就けるから頑張りなさい」と頻繁に上から言われるようになった。その影響なのか、近頃は「フォロワーシップ」「部下指導」といったスキルを習得するよう、勝手に研修の予定がどんどん組まれてしまっている。
仮に、俺はこれから出世をしていくのかもしれないと考えてみたところで、管理職としての重圧や業務の複雑さに対して、給料の上がり幅がどう考えても比例していないため、「コスパが悪すぎるな……」としか思わない。これ以上忙しくなれば、マナトと触れ合う時間が減ってしまう。
程々でいい。程々に忙しくて、消耗品でない体を大切にしながら、この仕事を長く続けたい。より良いものを作り、マナトと一緒に暮らしていけるだけの安定した稼ぎがあればそれで充分だ。
……という理由で上から参加するように言われている研修を「行きません」と断れるわけもなく、わざわざ他県の研修センターまで出掛けることとなった。
◆
「ユウイチさん、本当に出張だったんだね」
「……行かないですむなら行かないでおこうと粘っていたのに、自分でもなんだか信じられないよ」
「へえ? ユウイチさん、疲れてるの……?」
自分のことでしょう、とケラケラ笑うマナトの声は明るい。
昨夜「明日から三日間、留守にする」と告げた時「またまた」とマナトは笑っていた。明日の早朝から出掛ける予定があるのに準備が全然終わっていないなんてありえない、と言うマナトに「俺もそう思うよ」と返事をして慌ただしく荷造りをした。
寝ているマナトを起こさずにコソコソと朝の五時に家を出発したせいで、「本当に出張だったの!?」と驚かせてしまったらしく、「ユウイチさん、どうだった? 忙しいですか?」とわざわざマナトの方から電話をかけてきてくれた。
講義とワークで疲れはてた体にマナトの可愛い声はよく効く。明日も早朝から設備の視察や新製品開発に向けてフィールドエンジニアとの打ち合わせといった予定が組まれているが、少しでも長くマナトの声を聞いていたくて、なかなか電話を切れずにいた。
「……ユウイチさんが急にいなくなっちゃったから、なんだか退屈だなー。そうだ、今日はユウイチさんの部屋で寝てもいい……?」
「……もちろん、いいよ」
「へへ……。ユウイチさんのベッドだと、なんだか、よく眠れそうだから……」
広くて、それから落ち着く、と呟くマナトはさっき「今? 自分の部屋にいるよ。体を洗ってきたところ」と言っていた。さっきから上機嫌で「ユウイチさん、お土産欲しい」と元気に催促をしてくるマナトからは「寂しい」といった雰囲気は全く感じられない。それなのに「なんとなく居心地がいいから」という理由で、寝る前の支度を済ませた後、不在の恋人のベッドで寛ごうとするなんて、可愛すぎる。
自分の部屋のベッドの上で丸まっているマナトの姿を想像してみる。くたっとした部屋着を着て、しばらくゴロゴロした後に、きっと、いつの間にかうとうとして眠ってしまうのだろう。
「ああっ……! やっぱり家にいるべきだったんだ……!」
どう考えても、イメージビデオとして残しておくべき光景だった。……マナトはとても恥ずかしがりやで、日常の写真でさえも「ユウイチさん、こんなに俺の写真ばかりを撮ってどうするの? しかも、食べてるところばっかり……」と何千枚と撮影された自分の写真をあまり見たがらない。
そんなマナトに「大丈夫大丈夫。ただの記念だから。パーソナルビデオって言った方がわかりやすいのかな……? テレビに出ているアイドルや俳優も駆け出しの頃によくリリースしているんだよ」と言ったところで撮影を許可してくれるとは思えないが、想像はどんどん膨らんでいく。
可愛い仕草や表情の一つ一つを撮影して一人占めしたい。
最近伸ばした前髪を「スタイル持ちがいいから」という理由で、センターパートにしている効果なのか、マナトはますます大人びたかっこいい青年になった。ほとんどパーマが取れかかった緩いウエーブがマナトの持つ柔らかい雰囲気によくマッチしている。
いつだってマナトのコンディションが最高であることは間違いないが、今のレアなビジュアルのマナトをぜひとも記録として残してきたい。
正直言って、マナトのことを誰よりも可愛く魅力的に撮ることが出来るのは俺だろうという揺るぎ無い自信があるため、実現するしないは別として、イメージビデオの企画自体はすでに固まっている。
それよりも、「こんな撮影、恥ずかしくて、俺、出来ません……」と怯えて小さく震えるマナトを想像する方がよっぽど興奮する。「えっ!? だ、ダメ、そんな所撮らないで……!」「泡風呂にローションマッサージ!? 俺、そんなことまでするなんて、聞いてないです……!」……作品には収録出来ないだろうけど、やはり嫌がって困惑しているマナトの姿は堪らない。
「ああ~! 家に帰りたい……!」とベッドの上で悶えていると「ユウイチさん?」とマナトに呼ばれた。
「……ユウイチさん、なんか、すごくハアハアしてるけど、大丈夫……?」
「大丈夫、大丈夫。マナトのおかげで、ずいぶん元気が出たよ……」
パンパンに膨れている自分の股間に目をやると、「良かった」とマナトの優しい声に耳をくすぐられる。何百時間でも聞いていられそうな可愛い声にうっとりと目を閉じながら、足を交差させて内腿に力を込める。自分の声をオカズにされている事に気が付かず、「ユウイチさんのベッド気持ちいい。落ち着く」とマナトはすっかりリラックスしているようだった。
「もう少し、マナトの可愛い声を聞いていたいな……」
「本当? いいよ、もう少しだけ……」
「……そうだ、今日はパンツは? パンツは履いているのかな?」
「え~……。またそういう話……?」
声だけでも呆れられているのがわかったが、焦らずにじっくり待っていると小さな声で「……今はノーパン」とマナトが呟くのが聞こえた。
来た来た来た、と自分の心臓が早く鳴っているのがわかったが、あくまでもさりげない口調で「へえ、そうなんだ」と相槌を打つ。なぜか出張で離れている時、電話越しのマナトのガードは普段よりずっと緩くなる。初めは「恥ずかしい」とどんなに嫌がっていても、最終的には自慰に夢中になって可愛い声をたくさん聞かせてくれる。
時々、モジモジしながら「ユウイチさんも、今、ベッド?」と尋ねてくるマナトの様子から、じっくり会話を続けてさえいれば、今夜も確実にイケるだろう、という予感が確実なものに変わりつつあった。
「……そうだよ。ずいぶん殺風景で静かな所にいるから、マナトの可愛い声で癒やされたいな」
「か、可愛い声って……」
「マナトは? ……疲れていてそういう気分になれない?」
「……ううん。ユウイチさんのベッドに一人でいたら俺……」
ちょっとだけ、立ってしまいました、と言う声の後、ゴソゴソとシーツが擦れる音が微かに聞こえた。
姿は見えなくてもマナトもすっかりその気になっているのが、息遣いや声の調子だけでわかる。可愛い。今すぐにでも、小さな乳首を、何度射精しても元気いっぱいなぺニスを、慰めてやった後に、マナトの肉体をたっぷりと味わいたい。
大好きなデンマでたくさん可愛がったら喜ぶだろうなあ……と勝手な想像をしていたら、ある事を閃いた。
「……そうだ、マナト。クローゼットを開けてごらん。開けて見てみるだけでいいから……」
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