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冬のキャンプ(3)
しおりを挟む火が燃え尽きた途端、「ユウイチさん、こっちこっち!」とマナトからテントの裏へと誘われた。スニーカーを履いた足で、トントンと何度か地面を踏んだ後、「大丈夫だ!」とマナトはそのまま地べたに座り込んだ。
確かに他の利用者のテントからはちょうど見えない位置だった。「ユウイチさんも座って」とマナトから小さな声で急かされる。真似をして側に座り込むと、テントの裏でこそこそ隠れている、という状況を面白く感じているのか、「えへへ……」とマナトが笑う。
「ちょっとだけ……」
そう言って、マナトがぴったりと寄り添って来た。マナトの言う「 外でイチャイチャしたことって、ある?」の指す内容が、彼女が出来立ての中学生レベルで可愛いということと、こんな距離感で過ごしている所を人から見られたら……、という緊張で、ソワソワとして落ち着かない気持ちになった。
「どうして急に……こんなことを?」
「だって、たき火をするとユウイチさんって必ずギラギラした目で俺のことを見てくるし、なんとかして俺が人生で初めてデートをした日のこととか、前の彼女とのことを聞き出そうとしてくるから……」
もしかして、何かそういうことを本当はしたいのかなって思って……とマナトはもじもじと話した。自分ではさりげなく聞いていたつもりでも、マナトはマナトで「なんだか興奮されている気がする!」と察知していたらしい。
「……マナトに気を遣わせてしまったかな。そうだったら、ごめん」
「ううん! 違うよ……! あの、俺もユウイチさんと、恋人らしいこと、キャンプでもしてみたい……」
二人で並んで膝を抱えて座っていると、マナトが肩にこてっと頭を乗せてくる。
近寄ってはいけない存在だと思っていたため、マナトに「キモイ、怖い……!」と逃げられるとそれだけで、ああ、反応してくれている……と嬉しくて堪らなかった。
だからなのか、こんなふうにマナトの方から寄って来られると、いまだに、「嬉しい……」という気持ちがじんわりと胸に広がって感動してしまう。
「いいんだろうか、こんな……外で……」
辺りは真っ暗で、他のテントからも離れているとは言え、ふらっと散歩に出ている人にでも見られてしまったら、と思うと肩に感じる心地良い重みになかなか集中出来なかった。
「いいよ。だって、俺達、手を繋いで外を歩いたことも無い……。ひっそりくっついているだけだから、大丈夫だよ」
「そうかな……」
「そうだよー……」
マナトがそう言うのなら大丈夫なんだろう。防寒対策でいつもよりもずっと厚みのあるマナトの肩をそっと抱いた。冬の冷たい空気の中では、側にいるマナトの体がいっそう温かく感じられる。
「お腹いっぱい……」
「もしかして、マナトはもう眠い?」
「眠くないよー」
身を寄せあったまま、ヒソヒソと会話を続けた。
軽く手を握ったまま、冗談にクスクス笑いながら体をすり寄せてくるマナトの仕草は、子犬が甘えてくる様子にソックリだった。前足をちょこんと乗せてきて「遊ぼう?」と目をうるうるさせた後、クンクン鳴いてくっついてくる小型犬を想像して、マナトに重ね合わせては、勝手に和んだ。
……幸せな時間は五分と続かなかった。びゅう、と強い風が吹いて「さ、寒い……」とマナトが震え上がってしまったからだ。名残惜しいような気もするけれど、慣れない初めての行為でギクシャクとしてしまう部分もあったから、これくらいでちょうど良かったのかもしれない。
安全な巣へと帰る野生の生き物のように、二人でテントの中に転がり込んだ。
マナトはすでに「ユウイチさん、電源解禁しちゃう!?」と電気毛布とポータブル電源に目を輝かせていて、二人の間に流れていた空気が一瞬で変わる。
「貴重な物資だけど……仕方がない。解禁しよう」
「貴重な物資!」
マナトはすぐに「厳しい冬の夜を乗りきらないといけないサバイバル」という設定を理解して、それを気に入ったようだった。
普段は当たり前のように暖房の効いた暖かい部屋で過ごし、柔らかいベッドで寝ているのに、テントの中で使う電気毛布と寝袋に「温かい!」と二人で素直に感動してしまった。
「すごい……! 余裕で生活出来るね! テントの中でコタツを使ってる人もいるみたいだし……」
さすがに余裕というわけにはいかないのでは? と思ったが、それは指摘せずにフリース素材の寝巻きを来たマナトと寝袋に潜り込んだ。
断熱材を敷いているとはいえ、地面からの冷気を完全には防ぎきれていないような気がして、どちらからともなく、お互いの体に抱きついた。
「ねえねえ、ユウイチさん、さっきは結構ドキドキした?」
「……もちろん」
「俺も。ユウイチさんと、外であんなふうにくっつくの初めてだったから、ドキドキしちゃったよ……」
テントの中、という外から中が見えない空間がそうさせるのか、マナトはさっきよりもずっと大胆だった。「……したいな」と顔を近付けてきては、触れるだけのキスをねだってくる。
「寝る前に甘えたいなー……」というマナトの気持ちと、 ついさっきまで「夜食も解禁するべきでは!?」とふざけていた空気とが混ざり合う。寝室に二人でいる時の「そういう雰囲気」まではなかなか進展しないまま、お互いの足を絡ませて、頬や唇にキスを繰り返した。
「ねえ、ちょっとだけ触る……?」
「ん? ……ここかな? あれ? 無い……?」
「ちょっと! ユウイチさん……」
インナーを何枚も着ているうえに、フリース素材でモコモコのマナトを捕まえて、胸やお腹を揉むと「もう~!」とマナトがくすぐったそうに身を捩る。
マナトは物足りなさそうにしているけれど、少しずつ距離が縮まったからこそ出来るじゃれ合いが、俺はとても好きだ。こういう遊びのような触れあいで、マナトがいろいろな反応を見せてくれると、それだけで充分満たされてしまう。
「無い、ってどういう意味!?」
「いや、小さいから……さすがに服の上からだと見つけきれなくて……」
一言も「乳首が」とは言っていないのに、「最低!」とマナトはプリプリ怒っていた。怒っている時でさえも、小さい犬がキャンキャン吠えているようにしか見えないのだから、困る。
「ごめん、ごめん」
「ユウイチさん、ごめんって言ってる時も声がデレデレだよ……!」
「可愛いから、つい……」
「また、そんなことばっかり言う……」
ユウイチさんってば……と呆れたように呟くマナトのことを捕まえて、宥めるように頬にキスをした。
戯れているうちに「そういう雰囲気」からだいぶ遠ざかってきた、と感じている時だった。
「ね、ユウイチさん……」
「ん……?」
「ここ……」
今までとは比べものにならないような、ヒソヒソとした小さな声だった。初めマナトが自分の服の裾を掴んでモゾモゾし始めた時は、何をしているのかわからなかった。どんどん下に着ているインナーが少しずつ捲られて、マナトのお腹が見えた時にようやく「ん?」とマナトの言う「ここ」がどこを指しているのか理解した。
「マナト……」
「ちょっと待って……」
何枚も重ね着した衣類は、ぐしゃぐしゃのまま胸まで捲り上げると、それだけでかなりの厚みになっていた。
「ここ、触って……?」
寒い思いをしないようにと、暖かい服を着せていたマナトの体が暗いテントの中で無防備に晒されている。外からは見えないとはいえ、遮るものはテントの生地だけ、という状況でマナトは小さな乳首を露出させていた。
「ダメだよ……風邪をひく」
「では、遠慮なく……」とそのままいただいてしまえればどんなに良かっただろう。ここが外じゃなければ、と、断腸の思いでマナトの体を毛布で包んだ。「ここ、触って……?」という恥ずかしそうにしながらも、期待で微かに震えているマナトの声色をオカズにするだけでも、今年はやっていける。いつもと違う環境で大胆になってしまったマナトのエッチな声、をよく味わった。それで満足出来るはずだった、のに。
「ユウイチさん、少しでいいから……」
「……少し、が止まらなくなるからダメだよ」
「俺、声も我慢するから、少しだけ……」
「ぐ……」
……断れるわけがなかった。乳首を見せつけられて、「もっと、したことが無いことを、しようよ」と誘惑されて抵抗するなんてどう考えても不可能だった。
「ん……」
マナトは、声を出さない、という約束を守ろうと一生懸命でとても可愛かった。指先で両方の乳首を摘ままれて、体をびくんびくんと反応させた時も手で口元を押さえて堪える。
俺が、毛布の中に潜り込んで乳首に顔を近付けた時も、足をジタバタさせて嫌がりながら、声だけは絶対に出さなかった。たき火の煙を浴びてそのままの体を気にしているのだろうけど、押さえ付けて小さな乳首を吸った。
外でこんなことをしている、という罪悪感はあるものの、止められなかった。それどころか、初めての経験に、いつも以上にドキドキと胸は高鳴り、いつの間にか夢中になっていた。
当然、こんな場所で最後までは出来ないから、マナトの乳首を吸いながら勃起した性器を服の上から撫で回した。固く閉じたままの口から本当に小さな声を漏らして、マナトはいやらしく腰を揺らした。
二人とも射精はせずに、ただお互いの硬くなった性器へ触れて、息遣いを感じ合う。もどかしい行為のはずなのに、いつも以上に興奮してしまっていた。
狭いテントの中でキツく抱き締め合って、長く深いキスを繰り返して、それから少しずつ熱を冷ました。
乱れた服を元通りにした後、マナトは「ユウイチさんにとって初めての思い出を何か作りたかったんだけど……どうだった?」と恥ずかしそうにしていた。
あれだけ大胆なことをしていたのに、動機が純粋である所がとてもマナトらしかった。
付き合っている人の車に乗せてもらうのも、デートでキャンプに行くことも、他にも数えきれないくらい初めての思い出をマナトからは、もう貰ってしまっている。
そう伝えると「良かった! もっと、いっぱい作ろうね……」とマナトはニコニコしている。
テントの中は幸せで温かい空気に満ちていた。
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