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カナタ

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 いらねえ、ってノゾムは怒っていたけど、心配だったから家まで送っていくことにした。

「心配って? 何が?」
「だって……」

 一度射精した後、敏感になったノゾムに「足閉じてて」ってお願いして、まるで本当のセックスみたいに、俺のペニスを擦り付けたじゃん。そうしたらノゾム、「また出る、やだっ……」って泣きそうだったし……とはさすがに外では言えなくて、「もう少し一緒にいたいだけだよ」と誤魔化しておいた。

「あ、そう……」

 ぷいっと照れ臭そうにそっぽを向くノゾムに歩く早さを合わせた。
 ちょっとだけ進展出来たのかな、ノゾムもそう感じてくれていたら嬉しい、と思いながら二人で歩くのは幸せだった。

 家の前に着くと、ノゾムは「せっかく来たんだし上がってく?」と中へ入れてくれた。
 ノゾムは白くて四角くて、ドアだけが木製の平屋に、両親と三人で住んでいる。

 玄関にはハワイ旅行に行った時の写真が飾られていて、キッチンのカウンターでノゾムのお母さんが豆苗を栽培している、ノゾムの家。スーパーで売っているものと違って豆苗の長さがバラバラな所が、「一度みんなで食べて、また育てているんだなー」って、感じられるから良い。
 それから、時々ノゾムの部屋には、入院しているお爺ちゃんの所に持っていくためのタオルがいっぱい干されている。ノゾムはそれについて「日当たりがいいからって、俺の部屋に干すなよなー」とお母さんに対してブツブツ文句を言いながら、室内物干しを移動させる。

 勇者だった頃は、まだ子供のうちから両親と離れてずいぶん寂しい思いをしていたノゾムが、こうやって当たり前のように家族と生活をしているだけで、なんだかホッとしてしまう。
 ノゾムがちゃんと両親の側で大きくなってきたんだって感じられるから、俺はノゾムの家がすごく好きだ。


「げー、コーラが冷えてない」
「いいよ、何もいらない」

 冷蔵庫の前でノゾムは項垂れている。本当に飲み物はべつに必要なくて、出来ればすぐにでも側へ来て欲しかった。
 さっき散々やらしーことをしたのになあ、それとも好きな人といる時の性欲ってこんなもの? と居心地の悪さを感じていると、コーラを諦めたノゾムが戻ってきた。

 その後、ノゾムとはちょっとだけ話をした。テストや宿題の事とか、クラスの友達の事とか、そんなとりとめのない話を。
 帰るね、と立ち上がった時に「もう?」とノゾムに目を丸くされる。そんなことでさえも、嬉しくて堪らなかった。

「バイバイ、また明日」
「うん……。あのさっ、送ってくれて、ありがとう」

 こんな時でも、ノゾムはやっぱりキリッとしていた。「あれ? 俺って何か壮大な冒険の旅に出るんだっけ?」と感じられるくらいに。
 可愛かったから、ぐしゃぐしゃ頭を撫でたら、「おいっ!」とノゾムは怒っていた。

「送っておいて、俺の髪をボサボサにするなっ!」
「可愛いから」
「バカじゃねーの」

 ちょっとだけ怒ってから、「あのさっ」とノゾムは真面目な表情で俺の顔を覗き込んだ。

「前にカナタが、俺といると、怖いことを思い出さないですむって、言ってただろ? 俺も、最近、えっと……カナタといると、楽しい、本当に……」

 全部を言い終わった後、ノゾムは慌てて「いや、前も楽しかったけど!」と付け足した。

「……それって、純粋に楽しいってこと? えっと、ノゾムにもいろいろ心配事とかあったわけじゃん? ……男どうしで付き合うとか、いろいろ……」

 いろいろ、の部分を詳しく言えないのが歯痒い。本当は、俺は何もかもをわかっているのに。
 ノゾムは「なんとか自分が魔王だった事をカナタに思い出させないようにしよう」という事に一生懸命になっていたことも。本当に本当にノゾムが好きだ、と思っている俺とは全然違う感情を抱えて側にいてくれていることも。
 ごめんね、俺に会ったりしなければ、何も思い出さなければ、誰か別の人を好きになれたのにね、と言うべきなのに、言えなかった。

「うーん……。上手く言えないけど、カナタと一緒にいると、大丈夫だって思えるようになった。楽しい、大丈夫だって……」

 お前の気持ち、ちゃんとわかってるよ、とノゾムが顔を覗き込んできた。俺はすごく大事な事を隠しているのに、ノゾムはどう見ても俺の事を信じているようだった。

「本当?」
「うん。ずーっと側で見ていたから、カナタのことはいっぱいわかった。もう大丈夫……」

 一生懸命見ていたよね、と答えるとノゾムが照れたように「うひ」と笑った。真っ直ぐ見つめてくるノゾムの瞳には俺だけが映っている。
 ノゾムの心の内はわからない。だけど、ようやくカナタとしてちゃんと見てもらえているような気がした。(終)
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