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6話 異世界人の集い6
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「なあ、ホーズキ。お前、俺のこと
恨んでるか?」
腰を下ろして、墓の前で手を合わせて
いる女性の隣で男はそう言った。
鬼灯(ほうずき)
帝国精鋭隊
職業盗賊最高位職 忍者
レベル748
性別 女性
タチアナがこの世界を去った後、
タチアナに託された願いを皆に
伝えた彼女は、自身もタチアナの
願いを叶える為に、今もなお、様々な
島に行っては隊長として島の開拓の
指揮をしている。
「......カクバ......まだ引きずってるの......?」
カクバ
帝国精鋭隊
職業戦士最高位職 グラップラー
レベル732
性別 男性
五年前、タチアナが魔王だと知った彼は
タチアナを殺すという苦渋の決断をした。
そのことをずっと引きずっていた彼は
一度職業者を止めてしまった。
だが、やはりカクバのような存在が
いなくては、隊が機能しないと
思ったバーゼンと鬼灯は、あの手この手で
何とかカクバを職業者へと復帰させる
ことに成功したのだった。
けれども、彼は今もタチアナという
大切な仲間を殺すという最低な
決断をしてしまった自分を責め続けて
いる。
鬼灯は立ち上がり、目を合わせようと
しないカクバの方を向いた。
「ここに来る度に思うんだよ。
あの時の俺はタチアナにどう映って
いたんだろうってな。きっと
悪魔にでも見えてたかもしんねぇ......」
「......それは......タチアナにしか......
わからない......」
「ああ......そうだよな......」
「カクバ......何でそんなに......悲しそうな
顔するの?」
「悲しいんじゃねぇよ。
謝りたいんだ。一度でいいから、
タチアナに謝りたい......けど、
そんなことはもうできねぇんだって
ここに来ると思い知らされる。」
「......カクバ......何か勘違いしてる。」
「勘違い?」
「......聞くけど、これは何?」
そう言って鬼灯は、タチアナという
名前が刻まれた石を指差す。
それは紛れもなくタチアナの墓だった。
少なくともカクバはそう思っただろう。
だから、彼は何も言わなかった。
「......私はこれを......タチアナの墓だなんて......思わない......」
けれども、鬼灯はそう思っていなかった。
「だって......タチアナは死んでないから。
死んでない人に......墓を建てるのは......
おかしい......」
「そうだな......タチアナは異世界に
行ったんだもんな......」
しかし、そんなことを言われたって
全く持って実感が湧かない。
だから、カクバにとってタチアナが
異世界に行ったというのは、
死んだという事実に等しかった。
「なら、ホーズキ。お前はその
石を何だと思ってるんだよ。」
では、そう思っていない鬼灯の目に、
この墓がどのように映っているのか
カクバは知りたかった。
すると、そう聞いてくるのが
わかっていたかのように、鬼灯は
微笑んでこう言った。
「この石は、私にとって......
今もどこかで頑張ってるタチアナと......
私を繋げてくれる物......かな?」
「繋げてくれる物?」
「......うん......ここに来ると......タチアナに
会えたような......そんな感じがする。」
「この世界にいないのにか?」
鬼灯はその問いに頷く。
「どこにいたって関係ない。
だって......タチアナがどこにいようと......
私とタチアナは......友達だから......」
「......」
その迷いのない鬼灯の言葉が、
カクバにはうらやましくて仕方
なかった。
自分にはそんなこと言えない。
なぜなら、自分はタチアナを......
「カクバ。」
すると、その時鬼灯が俯いている
カクバの顔を除きこんだ。
「な、なんだよ......」
「いい加減......自分を許して......」
「......」
その鬼灯の心からの声にカクバは
言葉を失った。
「きっと......タチアナは......
カクバを恨んでない......」
「......」
「きっとタチアナは......今でも
カクバのこと......最高の仲間だって......
思ってる。」
涙を流すなんて何年ぶりだろうか......
少なくともここ五年は泣いていない。
自分の犯した罪を償うように
必死に生きていた。
けれど、鬼灯の言う通り、一度ここで
立ち止まって、自分を許しても
いいのかもしれない。
「......なぁ......鬼灯......」
「?」
「ぜってぇ......この世界を平和に
しような......そうなるまで、俺は
死ねねぇよ。」
「それでこそ......カクバ......だよ」
少しだけだが、あの頃の
雰囲気を取り戻したカクバに
鬼灯はそう言ったのだった。
恨んでるか?」
腰を下ろして、墓の前で手を合わせて
いる女性の隣で男はそう言った。
鬼灯(ほうずき)
帝国精鋭隊
職業盗賊最高位職 忍者
レベル748
性別 女性
タチアナがこの世界を去った後、
タチアナに託された願いを皆に
伝えた彼女は、自身もタチアナの
願いを叶える為に、今もなお、様々な
島に行っては隊長として島の開拓の
指揮をしている。
「......カクバ......まだ引きずってるの......?」
カクバ
帝国精鋭隊
職業戦士最高位職 グラップラー
レベル732
性別 男性
五年前、タチアナが魔王だと知った彼は
タチアナを殺すという苦渋の決断をした。
そのことをずっと引きずっていた彼は
一度職業者を止めてしまった。
だが、やはりカクバのような存在が
いなくては、隊が機能しないと
思ったバーゼンと鬼灯は、あの手この手で
何とかカクバを職業者へと復帰させる
ことに成功したのだった。
けれども、彼は今もタチアナという
大切な仲間を殺すという最低な
決断をしてしまった自分を責め続けて
いる。
鬼灯は立ち上がり、目を合わせようと
しないカクバの方を向いた。
「ここに来る度に思うんだよ。
あの時の俺はタチアナにどう映って
いたんだろうってな。きっと
悪魔にでも見えてたかもしんねぇ......」
「......それは......タチアナにしか......
わからない......」
「ああ......そうだよな......」
「カクバ......何でそんなに......悲しそうな
顔するの?」
「悲しいんじゃねぇよ。
謝りたいんだ。一度でいいから、
タチアナに謝りたい......けど、
そんなことはもうできねぇんだって
ここに来ると思い知らされる。」
「......カクバ......何か勘違いしてる。」
「勘違い?」
「......聞くけど、これは何?」
そう言って鬼灯は、タチアナという
名前が刻まれた石を指差す。
それは紛れもなくタチアナの墓だった。
少なくともカクバはそう思っただろう。
だから、彼は何も言わなかった。
「......私はこれを......タチアナの墓だなんて......思わない......」
けれども、鬼灯はそう思っていなかった。
「だって......タチアナは死んでないから。
死んでない人に......墓を建てるのは......
おかしい......」
「そうだな......タチアナは異世界に
行ったんだもんな......」
しかし、そんなことを言われたって
全く持って実感が湧かない。
だから、カクバにとってタチアナが
異世界に行ったというのは、
死んだという事実に等しかった。
「なら、ホーズキ。お前はその
石を何だと思ってるんだよ。」
では、そう思っていない鬼灯の目に、
この墓がどのように映っているのか
カクバは知りたかった。
すると、そう聞いてくるのが
わかっていたかのように、鬼灯は
微笑んでこう言った。
「この石は、私にとって......
今もどこかで頑張ってるタチアナと......
私を繋げてくれる物......かな?」
「繋げてくれる物?」
「......うん......ここに来ると......タチアナに
会えたような......そんな感じがする。」
「この世界にいないのにか?」
鬼灯はその問いに頷く。
「どこにいたって関係ない。
だって......タチアナがどこにいようと......
私とタチアナは......友達だから......」
「......」
その迷いのない鬼灯の言葉が、
カクバにはうらやましくて仕方
なかった。
自分にはそんなこと言えない。
なぜなら、自分はタチアナを......
「カクバ。」
すると、その時鬼灯が俯いている
カクバの顔を除きこんだ。
「な、なんだよ......」
「いい加減......自分を許して......」
「......」
その鬼灯の心からの声にカクバは
言葉を失った。
「きっと......タチアナは......
カクバを恨んでない......」
「......」
「きっとタチアナは......今でも
カクバのこと......最高の仲間だって......
思ってる。」
涙を流すなんて何年ぶりだろうか......
少なくともここ五年は泣いていない。
自分の犯した罪を償うように
必死に生きていた。
けれど、鬼灯の言う通り、一度ここで
立ち止まって、自分を許しても
いいのかもしれない。
「......なぁ......鬼灯......」
「?」
「ぜってぇ......この世界を平和に
しような......そうなるまで、俺は
死ねねぇよ。」
「それでこそ......カクバ......だよ」
少しだけだが、あの頃の
雰囲気を取り戻したカクバに
鬼灯はそう言ったのだった。
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