上 下
326 / 351

三百二十五話 決断11

しおりを挟む
魔王に腕を掴まれたその人間は
必死にそれを振りほどこうと暴れる。

だが逆に、その抵抗でますます
魔王は顔に笑みを浮かべた。


「私のお父さんとお母さんはどこ!
一体どこに連れて行ったの!!」


すると、逃れるのが無理だと
わかったその人間は魔王を睨み付けて
言った。


「さてな。この広い人間室のどこかに
いるのやもしれぬ。はたまた、もう
すでにマッドサイエンの実験体と
なったか......」


「そ、そんな......」


その人間は顔を真っ青にしながら、
肩を落とす。
しかし、その人間は諦めていなかった。


「許さない......私がここで!
お前を殺してやる!!」


その人間は、魔王という脅威に
臆することなく、憎しみと殺意の
こもった目で魔王を睨んだ。


「フハハハッ! ますます気に入った!
おい、そこの者。この人間のメスを
マッドサイエンの実験室まで
連行しろ。」


「はっ!」


魔王は自分に憎しみを向けてくる
その人間を、近くにいた部下達に
預け、自身もマッドサイエンの
実験室に向かった。










                【実験室】



魔王の新しい体がいよいよ作られる
と知って、実験室にはラーバも
待機していた。


「いよいよですねー。私、楽しみで
仕方ありません。」


ラーバは、中身が謎の液体で
満たされたガラス状で高さ三メートル
程のチューブ管に、鎖で拘束された人間
の少女が無理矢理ねじ込まれるのを
にたにたしながら見ていた。


その人間は必死に足掻こうとするも、
三体の魔族達によってチューブ管の
中に閉じ込められてしまった。

次第に呼吸が苦しくなってきた
その人間は、目の前のガラスを
必死に叩く。


助けて! ここから出して!


そう訴えかけているようだった。


「マオウサマ、ナニカ、コノニンゲン、
シャベッテル。」


「どうせ仲間にでも助けを求めて
いるのであろう。構わん、始めろ。」


「ワカッタ。」


魔王の指示を受けたマッドサイエンは
転移者から貰った魔法の杖を
魔王の心臓に突き刺す。


だが、少しも魔王に痛がっている
様子はなかった。


マッドサイエンはそのまま魔法の杖を
捻り、ぐっーと魔王から魔法の杖を
抜いた。
そして、ゆっくりと魔法の杖の高さを
変えないように歩き、今度は
ガラスの中にいる少女に魔法の杖を
突き刺そうとする。


「......メ......グ......」


その直前でその少女は最後に
そう呟いて、意識を失ったのだった。


しかし、マッドサイエン達には
その声など聞こえているはずもなく、
マッドサイエンは躊躇なしに
魔法の杖をその少女に突き刺した。


その拍子にひびの入ったガラスの
割れ目から、中の液体が溢れ出てくる。


やがて、ガラスの中の液体は
完全に外に流れ出てしまった。


マッドサイエンは少女の死体から魔法の
杖を抜き、一歩後ろに下がった。


その瞬間、バリンッ!と
高さ三メートルのチューブ菅が
破裂した。
それによって辺りにガラスの破片が
散乱する。
なんとその上を、先ほど死んだはずの
人間の少女が立ち上がり、歩きだした。


「ほう......」


「これは......実に興味深いですね......」


「シタイガ、ウゴキダシタ。」


その後、全く感情のないロボットの
ようなこの新たなる魔王の体を、
魔王達は隅々まで調べつくし、
この個体が魔王そのものであること、
この個体に魔王は乗り移れること、
そして、これが生きている限り
今の魔王の体が消滅しても、直ぐに
復活するということまで突き止める
ことに成功した。

だが、魔王が乗り移るにはまだ
この個体の体が未発達であった
ことがわかった為、魔王は当初
この個体を地下の人間室にでも
ぶちこんでおこうと考えていた。
しかし、何を考えていたのか、
ラーバが魔王にこの個体を
人間界で成長させては
どうかと提案してきた。

それは何故かと魔王が尋ねると、
ラーバは不気味に笑って、
きっと面白いことになりますよ。
とだけ答えた。


しかし、自分の心臓が自分の手の
届かないところに行くのが、
不安だった魔王は直々に自身で
命を絶つことないように魔法を
かけておいた。

そして、それから一ヶ月後、
この個体を人間界で成長させる為、
ラーバは自分の統治下にある
呪覆島に連れていき、新たな人間達が
前回この島で捕まえた人間達をのこのこ
助けに来るのをじっと待っていた。


これによって、バーゼンはタチアナと
出会ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第二章シャーカ王国編

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

チュートリアル場所でLv9999になっちゃいました。

ss
ファンタジー
これは、ひょんなことから異世界へと飛ばされた青年の物語である。 高校三年生の竹林 健(たけばやし たける)を含めた地球人100名がなんらかの力により異世界で過ごすことを要求される。 そんな中、安全地帯と呼ばれている最初のリスポーン地点の「チュートリアル場所」で主人公 健はあるスキルによりレベルがMAXまで到達した。 そして、チュートリアル場所で出会った一人の青年 相斗と一緒に異世界へと身を乗り出す。 弱体した異世界を救うために二人は立ち上がる。 ※基本的には毎日7時投稿です。作者は気まぐれなのであくまで目安くらいに思ってください。設定はかなりガバガバしようですので、暖かい目で見てくれたら嬉しいです。 ※コメントはあんまり見れないかもしれません。ランキングが上がっていたら、報告していただいたら嬉しいです。 Hotランキング 1位 ファンタジーランキング 1位 人気ランキング 2位 100000Pt達成!!

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい

冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。 何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。 「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。 その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。 追放コンビは不運な運命を逆転できるのか? (完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

処理中です...