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三百二十話 決断6

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その時、タチアナの目の前で
隼人は自分の首をナイフで切り落とした。


「キャアアアアアアッ!!!!!」


タチアナはたまらず金切り声を上げ、
腰を抜かしてしまった。


魔王も同じく目が点になって
言葉を失っていたが


「フハハハハッ!!!!」


しばらくして高笑いをし始めた。


「奴め......さてはこの状況から
逃げたな? おい、タチアナよ。
奴は貴様を殺すことができずに
この世界から逃げおったぞ。」


そう言って魔王は心底安心したように
息を整える。
実際、魔王は自分よりも遥かに強い
隼人を前にして、先ほどまで
何もできなかった。
抵抗しても、あれほどの敵では
自分はただ殺され続けるだけだと
魔王は理解していたし、もう隼人
がどのような決断をするのか
見届けることしかできなかったのだ。

だが、隼人はこうして逃げた。
つまり、隼人が消えたことで、
また自分はこの世界の魔王として
君臨し続けることができる。


「フハハハッ、フハハハハハッ!!」


そう思うと笑いが止まらなかった。


「......逃げてない......」


けれど、ここにはそう思っていない
者がいた。
タチアナは取り乱してしまった
自分を落ち着かせるように魔王に
言い返す。
魔王はそんなタチアナの前に
歩み寄る。


「現実を見ろ、タチアナよ。
奴はこうして死んだではないか。
それはこの状況から逃げたという
事実と何ら変わりはなかろう?」


「隼人は逃げてなどいない!」


「まだ言うか!! 見苦しいぞ!!
いい加減、諦めよ!!」


「諦めない! 私は隼人を
信じている!!!」


「信じる? 一体何を! この死体をか?」


「そうだ!!」


「愚か者めが!」


「愚かな奴で構わない! それでも、
彼が私を救ってくれると信じ続ける!」


「.......我の体に傷をつけたくは
なかったが、貴様が言葉でわからぬとい
うのであれば、痛みで貴様を服従させる
としよう。」


魔王はじりじりとタチアナに近づく。


「......」


「我の体に傷が入る前に......音を上げる
ことだな!!!!」


そう言って魔王は思い切り拳を
振り抜いた......はずだった。
しかし、その瞬間、魔王の視界は
暗くなった。
それが何者かに自分が殺されたと
気づいた時にはもうすでに、いつもの
玉座で復活していた。


誰だ!! 


そう言おうとした時の魔王の視界には
奴の姿が映っていた。


「隼人!」


タチアナは一目散に隼人に抱きつく。


「悪かったな、嫌な物見せて。
けど、安心してくれ。
何とか上手くいきそうだ。」



「? それはどういう意味だ?」


タチアナがそう隼人に問いかけるも、
隼人はタチアナから魔王へと
視線を移す。


「悪いがこっからは俺とタチアナの
二人で話をさせてくれ。」


そう言うと隼人はそこら辺に落ちていた
壁の瓦礫を次々と魔王へと投げつけていく。

魔王はそのあまりのスピードにただ
立ちすくんでいるだけだった。

そして、あっという間に魔王と
隼人達の間には、瓦礫の山によって
造られた障壁が完成していた。

正直、魔王にもなればこれくらいの
瓦礫の山など簡単に破壊できるだろう。
だが、魔王は大人しく様子を見ることに
した。
なぜなら、もしもあの隼人という
人間に歯向かえば、ただでは済まない
ということを魔王は本能的に察知して
いたからだった。






「隼人......上手くいきそうだとは
どういうことなのだ? 説明してくれ。」


「ああ......だが、これはお前の
了承を得なければ駄目なんだ。
俺が今から言うことを聞いて、
それからよく考えて答えてほしい。
嫌なら嫌と言ってくれていいんだ。
その時は、大人しく......俺はタチアナを
殺そう。」


「......わかった......話してくれ......」


隼人は今自分の頭の中にある
馬鹿げた考えをタチアナに話した。

もしかしたら、そんなの嫌だと言われる
かもしれない。

隼人はそう思っていたが、タチアナの
答えはその真逆で


「そんな夢みたいなことが叶うなら
是非私からもお願いしたい!!!」


と、目を輝かせながら言ったのだった。
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