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三百十四話 光14
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【魔王城】
バーゼンの呼吸は次第に小さくなって
いく。
それでも、バーゼンには伝えたいことが
あった。
たとえ、タチアナの姿が今の自分の目に
映っていなくとも、そこに彼女が
いるのならどうしても言っておきたいこと
があったのだ。
「......タチ......ァ......」
「......兄様。これ以上無理に──」
バーゼンは震えているタチアナの
小さな手を強く握りかえす。
「......お前は......暗闇の中に沈んでいた
俺を......お前の輝きでここまで
導いてくれた。」
「......よしてくれ......兄様......」
「......俺がここに......こうして......
いられるのは......タチアナのおか──」
「止めてくれ!!! 私は兄様の敵だった
のだ! もっと私のことを憎んでくれ!
私のことを嫌ってくれ!
でなければ......私は......」
バーゼンは自分の腕に水滴がぽたぽたと
落ちてきているのを肌で感じ、
もう一度タチアナの頭を優しく撫でる。
出会って早五年。
短いようで、この五年間は自分に
とって本当にかけがえのない時間だった
ことをバーゼンは思い出しながら
最後であろう妹の感触を噛み締めていた。
「聞くのだよ......タチアナ。」
「......」
タチアナは返事をしてしまえば、
兄の最後の言葉を聞いてしまいそうで
何も言わなかった。
けれども、その瞬間はタチアナの
意志とは無関係でやってくるのだった。
「ありがとう。」
バーゼンは妹の温もりを感じながら、
タチアナが自分自身を責めないように
最後の力を振り絞ってもう一度
口を開く。
「俺と出会ってくれて......俺の妹に
なってくれて......ありが......とぅ......」
その言葉を言い終えたバーゼンの
腕から一気に力が無くなった。
脱力した彼の腕は重力に従って、
タチアナの手の中から地面へと
落ちていく。
タチアナはその落ちていくバーゼンの
手を掴んだ。
「私も! 私も兄様に出会えよかった!
私に私の全てをくれて......本当に......
ありがとう。」
泣きながら叫ぶように言ったタチアナの
言葉はバーゼンに届いたのか、彼は
息を失う直前で、小さく微笑んだ
のだった。
バーゼンの呼吸は次第に小さくなって
いく。
それでも、バーゼンには伝えたいことが
あった。
たとえ、タチアナの姿が今の自分の目に
映っていなくとも、そこに彼女が
いるのならどうしても言っておきたいこと
があったのだ。
「......タチ......ァ......」
「......兄様。これ以上無理に──」
バーゼンは震えているタチアナの
小さな手を強く握りかえす。
「......お前は......暗闇の中に沈んでいた
俺を......お前の輝きでここまで
導いてくれた。」
「......よしてくれ......兄様......」
「......俺がここに......こうして......
いられるのは......タチアナのおか──」
「止めてくれ!!! 私は兄様の敵だった
のだ! もっと私のことを憎んでくれ!
私のことを嫌ってくれ!
でなければ......私は......」
バーゼンは自分の腕に水滴がぽたぽたと
落ちてきているのを肌で感じ、
もう一度タチアナの頭を優しく撫でる。
出会って早五年。
短いようで、この五年間は自分に
とって本当にかけがえのない時間だった
ことをバーゼンは思い出しながら
最後であろう妹の感触を噛み締めていた。
「聞くのだよ......タチアナ。」
「......」
タチアナは返事をしてしまえば、
兄の最後の言葉を聞いてしまいそうで
何も言わなかった。
けれども、その瞬間はタチアナの
意志とは無関係でやってくるのだった。
「ありがとう。」
バーゼンは妹の温もりを感じながら、
タチアナが自分自身を責めないように
最後の力を振り絞ってもう一度
口を開く。
「俺と出会ってくれて......俺の妹に
なってくれて......ありが......とぅ......」
その言葉を言い終えたバーゼンの
腕から一気に力が無くなった。
脱力した彼の腕は重力に従って、
タチアナの手の中から地面へと
落ちていく。
タチアナはその落ちていくバーゼンの
手を掴んだ。
「私も! 私も兄様に出会えよかった!
私に私の全てをくれて......本当に......
ありがとう。」
泣きながら叫ぶように言ったタチアナの
言葉はバーゼンに届いたのか、彼は
息を失う直前で、小さく微笑んだ
のだった。
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