311 / 351
三百十一話 光11
しおりを挟む
タチアナという名前を与えたバーゼンは
積極的に彼女の名前を呼んであげた。
「タチアナ、夕食なのだよ。」
最初の方は全く反応を示さなかった
タチアナも、三日もすれば完全に
今自分が呼ばれているということを
理解し、しきりにバーゼンの後ろを
ついて来るようになった。
だが、中々自分で言葉を話そうとは
せず
「......ぁ......ぁ......」
と、音を発するだけだったが、
あることを皮切りにタチアナは
言葉を話せるようになった。
それは、バーゼンが自身の仕事を終え
自室に戻ってきた時のことだった。
いつもバーゼンが不在の時は、母親か
父親にタチアナの世話を任せていた
のだが今日は彼の部屋にある本を手に
持って、一人でそれを眺めている
ようだった。
「勉学に励むのはいいことなのだよ。」
バーゼンは熱心に本に目を通している
タチアナの頭を撫でてやった。
すると、一度だけこちらに目を向けた
タチアナだったが再び本の方へと
視線を戻し、それから夕食になるまで
タチアナは微動だにしなかった。
こんなこともあるのだよ。
そう思って特に気に止めなかった
バーゼンだったが、タチアナは次の日も
そのまた次の日も本に目を通していた。
そして、その日から五日が経過し、
バーゼンが父と母、そして
タチアナと共に食卓を囲んで夕食を
食していた時のことだった。
いつものように
タチアナが床にフォークを落とし、
それをバーゼンが拾って
「タチアナ。気を付けるのだよ。」
と、丁寧にタチアナの手にフォークを
握らせた時だった。
「タチ......アナ......」
初めてタチアナが言葉を口にした
瞬間だった。
それはただ単にバーゼンの言ったことを
真似しただけに過ぎなかったかもしれない。
それでも、確かにタチアナは
今までのような単なる音ではなく
明らかな言葉を口にしたという事実には
変わりなかった。
そして、それからのタチアナの成長は
目まぐるしかった。
昨日までは一語しか喋ることの
できなかったタチアナが、何と次の
日には五語以上の言葉を喋るように
なったのだ。
少し発音にまだ違和感はあるが、
それでも昨日ようやく言葉を話すように
なった人間にしてはこれは異常だった。
「バーゼン......この花......綺麗。」
「それはチューリップという花
なのだよ。」
更に、彼女の表情も急に豊かになった。
昨日までは無表情でこちらを
見つめていたタチアナが、次の日には
花を見て少し微笑んでいるのだ。
これは明らかにおかしい。
タチアナが急に言葉を話すように
なったり、表情が豊かになったのは
彼女が成長したのではなく、
単に忘れていただけなのかもしれない。
忘れていたことを、今物凄い勢いで
思い出している最中なのかもしれない。
もし、その仮定が正しいのなら、
タチアナの記憶も直に元に戻って
彼女が何者なのか、どこから来たのか、
そしてなぜあんなところに一人で
いたのか明らかになるだろう。
バーゼンはそう考えると
嬉しい反面、何かうまく表すことの
できない恐怖がこみ上げてきた。
だが、それでもタチアナという存在を
知ることが呪覆島で何が起きたのかを
解き明かす鍵になるだろうと信じ、
バーゼンは
「タチアナ。言葉をしっかり
話せるようになったら、今度俺と
一緒に外に出掛けるのだよ。」
タチアナの頭を撫でてそう言ったの
だった。
積極的に彼女の名前を呼んであげた。
「タチアナ、夕食なのだよ。」
最初の方は全く反応を示さなかった
タチアナも、三日もすれば完全に
今自分が呼ばれているということを
理解し、しきりにバーゼンの後ろを
ついて来るようになった。
だが、中々自分で言葉を話そうとは
せず
「......ぁ......ぁ......」
と、音を発するだけだったが、
あることを皮切りにタチアナは
言葉を話せるようになった。
それは、バーゼンが自身の仕事を終え
自室に戻ってきた時のことだった。
いつもバーゼンが不在の時は、母親か
父親にタチアナの世話を任せていた
のだが今日は彼の部屋にある本を手に
持って、一人でそれを眺めている
ようだった。
「勉学に励むのはいいことなのだよ。」
バーゼンは熱心に本に目を通している
タチアナの頭を撫でてやった。
すると、一度だけこちらに目を向けた
タチアナだったが再び本の方へと
視線を戻し、それから夕食になるまで
タチアナは微動だにしなかった。
こんなこともあるのだよ。
そう思って特に気に止めなかった
バーゼンだったが、タチアナは次の日も
そのまた次の日も本に目を通していた。
そして、その日から五日が経過し、
バーゼンが父と母、そして
タチアナと共に食卓を囲んで夕食を
食していた時のことだった。
いつものように
タチアナが床にフォークを落とし、
それをバーゼンが拾って
「タチアナ。気を付けるのだよ。」
と、丁寧にタチアナの手にフォークを
握らせた時だった。
「タチ......アナ......」
初めてタチアナが言葉を口にした
瞬間だった。
それはただ単にバーゼンの言ったことを
真似しただけに過ぎなかったかもしれない。
それでも、確かにタチアナは
今までのような単なる音ではなく
明らかな言葉を口にしたという事実には
変わりなかった。
そして、それからのタチアナの成長は
目まぐるしかった。
昨日までは一語しか喋ることの
できなかったタチアナが、何と次の
日には五語以上の言葉を喋るように
なったのだ。
少し発音にまだ違和感はあるが、
それでも昨日ようやく言葉を話すように
なった人間にしてはこれは異常だった。
「バーゼン......この花......綺麗。」
「それはチューリップという花
なのだよ。」
更に、彼女の表情も急に豊かになった。
昨日までは無表情でこちらを
見つめていたタチアナが、次の日には
花を見て少し微笑んでいるのだ。
これは明らかにおかしい。
タチアナが急に言葉を話すように
なったり、表情が豊かになったのは
彼女が成長したのではなく、
単に忘れていただけなのかもしれない。
忘れていたことを、今物凄い勢いで
思い出している最中なのかもしれない。
もし、その仮定が正しいのなら、
タチアナの記憶も直に元に戻って
彼女が何者なのか、どこから来たのか、
そしてなぜあんなところに一人で
いたのか明らかになるだろう。
バーゼンはそう考えると
嬉しい反面、何かうまく表すことの
できない恐怖がこみ上げてきた。
だが、それでもタチアナという存在を
知ることが呪覆島で何が起きたのかを
解き明かす鍵になるだろうと信じ、
バーゼンは
「タチアナ。言葉をしっかり
話せるようになったら、今度俺と
一緒に外に出掛けるのだよ。」
タチアナの頭を撫でてそう言ったの
だった。
0
お気に入りに追加
127
あなたにおすすめの小説
新人神様のまったり天界生活
源 玄輝
ファンタジー
死後、異世界の神に召喚された主人公、長田 壮一郎。
「異世界で勇者をやってほしい」
「お断りします」
「じゃあ代わりに神様やって。これ決定事項」
「・・・え?」
神に頼まれ異世界の勇者として生まれ変わるはずが、どういうわけか異世界の神になることに!?
新人神様ソウとして右も左もわからない神様生活が今始まる!
ソウより前に異世界転生した人達のおかげで大きな戦争が無い比較的平和な下界にはなったものの信仰が薄れてしまい、実はピンチな状態。
果たしてソウは新人神様として消滅せずに済むのでしょうか。
一方で異世界の人なので人らしい生活を望み、天使達の住む空間で住民達と交流しながら料理をしたり風呂に入ったり、時にはイチャイチャしたりそんなまったりとした天界生活を満喫します。
まったりゆるい、異世界天界スローライフ神様生活開始です!
魔力0の俺は王家から追放された挙句なぜか体にドラゴンが棲みついた~伝説のドラゴンの魔力を手に入れた俺はちょっと王家を懲らしめようと思います~
きょろ
ファンタジー
この異世界には人間、動物を始め様々な種族が存在している。
ドラゴン、エルフ、ドワーフにゴブリン…多岐に渡る生物が棲むここは異世界「ソウルエンド」。
この世界で一番権力を持っていると言われる王族の“ロックロス家”は、その千年以上続く歴史の中で過去最大のピンチにぶつかっていた。
「――このロックロス家からこんな奴が生まれるとは…!!この歳まで本当に魔力0とは…貴様なんぞ一族の恥だ!出ていけッ!」
ソウルエンドの王でもある父親にそう言われた青年“レイ・ロックロス”。
十六歳の彼はロックロス家の歴史上……いや、人類が初めて魔力を生み出してから初の“魔力0”の人間だった―。
森羅万象、命ある全てのものに魔力が流れている。その魔力の大きさや強さに変化はあれど魔力0はあり得なかったのだ。
庶民ならいざ知らず、王族の、それもこの異世界トップのロックロス家にとってはあってはならない事態。
レイの父親は、面子も権力も失ってはならぬと極秘に“養子”を迎えた―。
成績優秀、魔力レベルも高い。見捨てた我が子よりも優秀な養子を存分に可愛がった父。
そして――。
魔力“0”と名前の“レイ”を掛けて魔法学校でも馬鹿にされ成績も一番下の“本当の息子”だったはずのレイ・ロックロスは十六歳になったこの日……遂に家から追放された―。
絶望と悲しみに打ちひしがれる………
事はなく、レイ・ロックロスは清々しい顔で家を出て行った。
「ああ~~~めちゃくちゃいい天気!やっと自由を手に入れたぜ俺は!」
十六年の人生の中で一番解放感を得たこの日。
実はレイには昔から一つ気になっていたことがあった。その真実を探る為レイはある場所へと向かっていたのだが、道中お腹が減ったレイは子供の頃から仲が良い近くの農場でご飯を貰った。
「うめぇ~~!ここの卵かけご飯は最高だぜ!」
しかし、レイが食べたその卵は何と“伝説の古代竜の卵”だった――。
レイの気になっている事とは―?
食べた卵のせいでドラゴンが棲みついた―⁉
縁を切ったはずのロックロス家に隠された秘密とは―。
全ての真相に辿り着く為、レイとドラゴンはほのぼのダンジョンを攻略するつもりがどんどん仲間が増えて力も手にし異世界を脅かす程の最強パーティになっちゃいました。
あまりに強大な力を手にしたレイ達の前に、最高権力のロックロス家が次々と刺客を送り込む。
様々な展開が繰り広げられるファンタジー物語。
無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった
さくらはい
ファンタジー
主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ――
【不定期更新】
1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。
性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。
良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。
どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。
賢者の幼馴染との中を引き裂かれた無職の少年、真の力をひた隠し、スローライフ? を楽しみます!
織侍紗(@'ω'@)ん?
ファンタジー
ルーチェ村に住む少年アインス。幼い頃両親を亡くしたアインスは幼馴染の少女プラムやその家族たちと仲良く過ごしていた。そして今年で十二歳になるアインスはプラムと共に近くの町にある学園へと通うことになる。
そこではまず初めにこの世界に生きる全ての存在が持つ職位というものを調べるのだが、そこでアインスはこの世界に存在するはずのない無職であるということがわかる。またプラムは賢者だということがわかったため、王都の学園へと離れ離れになってしまう。
その夜、アインスは自身に前世があることを思い出す。アインスは前世で嫌な上司に手柄を奪われ、リストラされたあげく無職となって死んだところを、女神のノリと嫌がらせで無職にさせられた転生者だった。
そして妖精と呼ばれる存在より、自身のことを聞かされる。それは、無職と言うのはこの世界に存在しない職位の為、この世界がアインスに気づくことが出来ない。だから、転生者に対しての調整機構が働かない、という状況だった。
アインスは聞き流す程度でしか話を聞いていなかったが、その力は軽く天災級の魔法を繰り出し、時の流れが遅くなってしまうくらいの亜光速で動き回り、貴重な魔導具を呼吸をするように簡単に創り出すことが出来るほどであった。ただ、争いやその力の希少性が公になることを極端に嫌ったアインスは、そのチート過ぎる能力を全力にバレない方向に使うのである。
これはそんな彼が前世の知識と無職の圧倒的な力を使いながら、仲間たちとスローライフを楽しむ物語である。
以前、掲載していた作品をリメイクしての再掲載です。ちょっと書きたくなったのでちまちま書いていきます。
「専門職に劣るからいらない」とパーティから追放された万能勇者、教育係として新人と組んだらヤベェ奴らだった。俺を追放した連中は自滅してるもよう
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「近接は戦士に劣って、魔法は魔法使いに劣って、回復は回復術師に劣る勇者とか、居ても邪魔なだけだ」
パーティを組んでBランク冒険者になったアンリ。
彼は世界でも稀有なる才能である、全てのスキルを使う事が出来るユニークスキル「オールラウンダー」の持ち主である。
彼は「オールラウンダー」を持つ者だけがなれる、全てのスキルに適性を持つ「勇者」職についていた。
あらゆるスキルを使いこなしていた彼だが、専門職に劣っているという理由でパーティを追放されてしまう。
元パーティメンバーから装備を奪われ、「アイツはパーティの金を盗んだ」と悪評を流された事により、誰も彼を受け入れてくれなかった。
孤児であるアンリは帰る場所などなく、途方にくれているとギルド職員から新人の教官になる提案をされる。
「誰も組んでくれないなら、新人を育て上げてパーティを組んだ方が良いかもな」
アンリには夢があった。かつて災害で家族を失い、自らも死ぬ寸前の所を助けてくれた冒険者に礼を言うという夢。
しかし助けてくれた冒険者が居る場所は、Sランク冒険者しか踏み入ることが許されない危険な土地。夢を叶えるためにはSランクになる必要があった。
誰もパーティを組んでくれないのなら、多少遠回りになるが、育て上げた新人とパーティを組みSランクを目指そう。
そう思い提案を受け、新人とパーティを組み心機一転を図るアンリ。だが彼の元に来た新人は。
モンスターに追いかけ回されて泣き出すタンク。
拳に攻撃魔法を乗せて戦う殴りマジシャン。
ケガに対して、気合いで治せと無茶振りをする体育会系ヒーラー。
どいつもこいつも一癖も二癖もある問題児に頭を抱えるアンリだが、彼は持ち前の万能っぷりで次々と問題を解決し、仲間たちとSランクを目指してランクを上げていった。
彼が新人教育に頭を抱える一方で、彼を追放したパーティは段々とパーティ崩壊の道を辿ることになる。彼らは気付いていなかった、アンリが近接、遠距離、補助、“それ以外”の全てを1人でこなしてくれていた事に。
※ 人間、エルフ、獣人等の複数ヒロインのハーレム物です。
※ 小説家になろうさんでも投稿しております。面白いと感じたらそちらもブクマや評価をしていただけると励みになります。
※ イラストはどろねみ先生に描いて頂きました。
孤高のミグラトリー 〜正体不明の謎スキル《リーディング》で高レベルスキルを手に入れた狩人の少年は、意思を持つ変形武器と共に世界を巡る〜
びゃくし
ファンタジー
そこは神が実在するとされる世界。人類が危機に陥るたび神からの助けがあった。
神から人類に授けられた石版には魔物と戦う術が記され、瘴気獣と言う名の大敵が現れた時、天成器《意思持つ変形武器》が共に戦う力となった。
狩人の息子クライは禁忌の森の人類未踏域に迷い込む。灰色に染まった天成器を見つけ、その手を触れた瞬間……。
この物語は狩人クライが世界を旅して未知なるなにかに出会う物語。
使い手によって異なる複数の形態を有する『天成器』
必殺の威力をもつ切り札『闘技』
魔法に特定の軌道、特殊な特性を加え改良する『魔法因子』
そして、ステータスに表示される謎のスキル『リーディング』。
果たしてクライは変わりゆく世界にどう順応するのか。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる