上 下
307 / 351

三百七話 光7

しおりを挟む
「なっ!? き、貴様!?」


明らかに動揺した魔王を見て、
やはり自分が死ねば魔王も
消滅することを確信したタチアナは、
躊躇うこと無くナイフの先を
自分の胸に当て......そして、
思い切りナイフを自分の体の
中に押し込んだ。


「......?」


そうしたつもりだった。
だが、自分の腕はまるで石のように
固まっている。


「な、なぜ──」


「愚か者め。貴様が自決を試む
ことなど読めていたわ。
我がその対策をしてないとでも
思うてか?」


「!?」


「貴様の体には
貴様が自身で命を絶つことないように
我が直々に呪術をかけておる。」


「そ、そんな──」


「貴様が死ぬには他者から
心臓を突き刺してもらうしか
方法はない。
まあ、そんなことができるのは
我しかおらぬがな。」


「......」


「どうした? いい加減我にその
体を譲る気になったか?」


タチアナにはもう何も打つ手がなかった。


私はこのまま魔王に体を奪われるのか?
なら......私は今まで何の為に......


そうタチアナが思っていたその時、
何かが自分の頬に触れた。
それは兄の右手だった。


「......タチ......アナ......」


バーゼンは微かな声を確かに発していた。
タチアナは急いでその手を
握り返し


「兄様! 私はここにいるぞ! 兄様!」


と、必死に叫んだ。


「..................」


もう目を開けることができない
ようだが、バーゼンはタチアナの声を
聞いて安堵の表情となった。


「何故......何故兄様は私を殺さなかった。
争うことなど無かったのに......」


今にも泣きそうな声を出すタチアナを
安心させるように、バーゼンは
優しくタチアナの頬を撫でた。


「どうやら......私は兄様の敵だった
ようだ......すまない......兄様......
私のせいでこんな傷を負って......。
兄様は今まで私に多くのことを
くれたのに......私は兄様に何も......
何も返せなかった......
父上や母上にも何と詫びればいい......
血も繋がっていないこの私を
ここまで育ててくれたと言うのに.....」



タチアナは震える手で、自分の頬を
撫でる兄の手を強く握る。
その手の震え具合と声から、タチアナが
泣いているのではと思ったバーゼンは
何かを告げようと口を動かす。
だが、その小さな声は今のタチアナ
には届かなかった。


「私など生まれてこなければよかった
のだ!
そうすれば......兄様はこんな目に合わず
に済んだかもしれない......
兄様......どうか私に言ってくれ!
お前など家族じゃ無いと。
お前に出会わなければよかったと。
お願いだ! 本当のことを言ってくれ
た方がましなのだ!!
こんな形で......兄様とお別れしたくない。
だから兄様......最後くらい
本当のこと──」


「......るな!!」


バーゼンは最後の力を振り絞って
叫んだ。
その声を聞いてようやくタチアナは
正気に戻る。


「......自分を......責めるな......
はぁ......はぁ......生まれてこなければ......
よかったなどと.......二度と言うな.......
俺は......お前のことを......本当の妹だと
......思っているし......あの時.....本当に......
お前に出会えて......よかったと......
思っているのだよ。」


「......そんな嘘を──」


「嘘ではない!! ゴホッゴホッ!」


声を出すのが辛いのか、バーゼンは
咳をしながら血を吐いた。
それを見て


「兄様!」


と、心配したタチアナだったが、
それでもバーゼンは話すのを止め
なかった。


「嘘ではないのだよ......なぜなら......
お前は......俺の光なのだから......」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

ヒューマンテイム ~人間を奴隷化するスキルを使って、俺は王妃の体を手に入れる~

三浦裕
ファンタジー
【ヒューマンテイム】 人間を洗脳し、意のままに操るスキル。 非常に希少なスキルで、使い手は史上3人程度しか存在しない。 「ヒューマンテイムの力を使えば、俺はどんな人間だって意のままに操れる。あの美しい王妃に、ベッドで腰を振らせる事だって」 禁断のスキル【ヒューマンテイム】の力に目覚めた少年リュートは、その力を立身出世のために悪用する。 商人を操って富を得たり、 領主を操って権力を手にしたり、 貴族の女を操って、次々子を産ませたり。 リュートの最終目標は『王妃の胎に子種を仕込み、自らの子孫を王にする事』 王家に近づくためには、出世を重ねて国の英雄にまで上り詰める必要がある。 邪悪なスキルで王家乗っ取りを目指すリュートの、ダーク成り上がり譚!

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

【書籍化決定】神様お願い!〜神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい〜

きのこのこ
ファンタジー
突然白い発光体の強い光を浴びせられ異世界転移?した俺事、石原那由多(55)は安住の地を求めて異世界を冒険する…? え?謎の子供の体?謎の都市?魔法?剣?魔獣??何それ美味しいの?? 俺は心穏やかに過ごしたいだけなんだ! ____________________________________________ 突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった! 那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。 しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」 そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?) 呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!) 謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。 ※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。 ※他サイト先行にて配信してますが、他サイトと気が付かない程度に微妙に変えてます。 ※昭和〜平成の頭ら辺のアレコレ入ってます。わかる方だけアハ体験⭐︎ ⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...