上 下
283 / 351

二百八十三話 ヨーテルと長老6

しおりを挟む
「うぉあ!!」


風を体に纏って魔王に突っ込んだ
カクバだったが、意図も簡単に
魔王に吹き飛ばされる。
その先には魔王を狙っていた
バーゼンが隠れており、二人は
激突してしまった。


その隙に今度は鬼灯が
生成した自分の分身と共に、
魔王に攻撃をしかける。


「つまらん。ぬるい攻撃よ。」


しかし、鬼灯もまた魔王に殴り
飛ばされてしまった。


「......強い......」


今まで自分達が戦ってきた
敵とはまるで違う。
まさに怪物。


「......長老でも勝てなかったのに......
私達だけで......」


その圧倒的な強さに、鬼灯は
諦めかけていた。


そんな時、何かピカッと光ったような
気がした。


「?」


空を見上げるとそこにはほうきに
またがったヨーテルの姿があった。
何やら彼女はペラペラと本を
めくっている。


「あったわ。この魔法......」


「まだおったか。」  


「纏繞(てんじょう)石!」


そうヨーテルが言い放った時、
ヨーテルの持っていた本が
光輝く。
その光に一瞬目を奪われた
魔王だったが、自分の足に
地面の岩がまるで蛇のように絡み
ついているのに気がつく。
そして、あっという間に
体全身に岩が絡み付いたのだった。


「ほう......動きを封じたか......」


「あんただけは許さないわ......」


身動きの取れなくなった魔王に、
ヨーテルは接近する。


「よくも長老を......」

 
ヨーテルの本を持っている右手は
怒りでプルプル震えていた。
ヨーテルも長老が自分にとって
ここまで大切な存在だったとは
気づいていなかった。
ヨーテルは失ってはじめて
気がついたのだ。



王都に行ってもこんな性格だから、
友達なんて作れなかった。
けど、それでもここまで生きて
これたのはあの人がいたから。
あの人に出会ってなければ、
私は今頃、あの小さな町で
今でもひとりぼっちだった
かもしれない。
あの人がいたから。
あの人が泣きそうな私の
側にいつもいてくれたから。


こんな私を、我が子のように
育ててくれたから......


今、私はここにいる!!!!


「あんたがたとえ自己再生が
出来ようと、跡形も無く消し去れば、
それで終わりよ!!」


「できるのか? そんなことが貴様に。」


魔王は全く怯えていない。
それどころかニヤニヤしている。


だが、そんなことで心が揺さぶられる
ヨーテルではない。


ヨーテルは魔法書のとあるページを
開いて、そのページに書いてある
文字を詠唱し始める。


そして、怒りを込めてこう叫んだ。


「リギオン!!!」


ヨーテルがそう言うと、
魔法書に灯っていた光が
一点に集まり始め、バチバチと
音を立てながら集められた光が、
魔王へと発射された。


この光は感情と共に高ぶった
ヨーテルの魔力を一点に集めて
放った物だった。
長老を失って生まれた怒りを
魔法として放出したのだ。


「アアアアッ!!!!!」


魔王はけたたましい声を上げながら、
その光に飲まれていき、最終的には
髪の毛一本も残らず消し去ったのだった。


「すげぇ!!やったじゃねぇか!」


「素晴らしい活躍だったのだよ。」


「......ヨーテル......すごい......」


魔王を抹消したヨーテルの元に、
続々とカクバ達が集まってくる。


「長老......私......やったわよ。
あなたが倒せなかった魔王を
倒したわ......これで......これで私は......
......そんなのいらない!! 最強の
力なんて要らないから! 皆を見返す
力なんてもう欲しがらないから......
だから......お願いだから......」


帰ってきてよ......


その言葉をヨーテルは
必死に飲み込んだ。
ヨーテルもそれはわかっている。
だから、それを言わない代わりに、
思う存分涙を流した。
家族に捨てられても、町の連中に
馬鹿にされても泣くことだけは
しなかったヨーテルは、大切な人を
失ってはじめて、涙を流したのだった。



そんなヨーテルが泣き止む
までカクバ達はずっと待っていた。


「そろそろ行くわよ......」


泣き止んだヨーテルは
カクバ達にそう言って
歩き始めようとする。


「やっぱあいつの言ってたことは
嘘だったな......」


後ろではカクバが
そう静かに呟いた。


「ちょ、ちょっと待つのだよ」



すると、何かに気がついた
バーゼンが口を開く。


「どうして別次元に飛ばされた
仲間は帰ってこないのだよ。」


「!!」


その言葉にヨーテル達は歩みを止めた。


魔王は言ってた。


我を倒せば、仲間は元に戻ると......


あれは嘘?  それとも......


魔王はまだ死んでいない。



そう思ったヨーテルは、
はっと玉座を振りかえる。


「ようやく気づいたか......
あまり我を退屈させるな。」


「嘘......でしょ......」


ヨーテルは自分の目に映っているもの
が信じられなかった。


「まあ、よい。
貴様、我を楽しませた褒美だ。」


そう言って魔王はヨーテルを指差す。


「次は貴様を灰にしよう。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

次期当主の高貴な魔族に選ばれた新婦

日和
恋愛
平凡な高校生・愛乃は、両親から不当に扱われ、妹の美矢だけが愛されていた。大事なものを壊され、家族とのトラブルで愛乃は傷つく。絶望した愛乃は家を飛び出し、魔王の次期当主・ダルフェルトと出会う。見つけた愛乃のことを「俺の新婦」と告げたーー。

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

白銀の英雄と落第魔導士(仮題)

カシマカシマシ
ファンタジー
 剣と魔法を極めた少年は、命をかけて魔王を討ち世界を救った。本当に守りたかった存在を失ったことを後悔し、守れなかった己を責めながら、少年は元居た世界での生涯を終える。  少年の物語は終わらなかった。  魔力を失い、愛しい妹に似た魔力と声に導かれて辿り着いたのは、少年の知る魔法が技術体系の一つとして確立された日本。  彼を使い魔として召喚したのは、周囲から落ちこぼれの誹りを受け続ける少女。  少女の苦難を知り、その優しき信念を知ったとき。少年は少女の剣になると決意する。  「今は魔力を失ったこんな身でも、世界一つ救った英雄だ。そんな俺を使い魔にしたんだから、君にはこの世界で一番の魔導士になってもらう!」  これは異世界で救世を為した英雄が、落ちこぼれ魔導士と高みを目指す学園魔導ファンタジー。  小説家になろうでも投稿しております。感想やアドバイス、一言でもいただければ幸いです。

愛された事のない男は異世界で溺愛される~嫌われからの愛され生活は想像以上に激甘でした~

宮沢ましゅまろ
BL
異世界ミスリルメイズ。 魔物とヒトの戦いが激化して、300年。 この世界では、無理矢理に召喚された異世界人が、まるで使い捨てのように駒として使われている。 30歳になる、御厨斗真(トーマ)は、22歳の頃に異世界へと召喚されたものの、異世界人が有する特殊な力がとても弱かった事。色々あり、ローレンス辺境伯の召使として他の異世界人たちと共に召し抱えられてることになったトーマは時間をかけてゆっくりと異世界に馴染んでいった。 しかし、ローレンスが寿命で亡くなったことで、長年トーマを狙っていた孫のリードから危害を加えられ、リードから逃げる事を決意。リードの妻の助けもあって、皆で逃げ出すことに成功する。 トーマの唯一の望みは「一度で良いから誰かの一番になってみたい」という事。 天涯孤独であり、過去の恋人にも騙されていただけで本当の愛を知らないトーマにとっては、その愛がたとえ一瞬の過ぎたる望みだったとしても、どうしても欲しかった。 「お前みたいな地味な男、抱けるわけがないだろう」 逃げだした先。初対面でそう言い切った美丈夫は、トーマの容姿をそう落とした。 好きになれるわけがない相手――本当ならそう思ってもおかしくないのに。 トーマはその美丈夫を愛しく思った。 どこかやさぐれた雰囲気の美丈夫の名前は、フリードリヒという。 この出会いが、誰にも愛されなかったトーマの人生を変える事になるとは、この時はまだ知らなかった。 辺境の国の王太子×内気平凡異世界人 ※二章から二人の恋愛に入ります。一章最後当て馬(?)がちらりと出るあたりでちょっとムカつくかもしれませんので、気になる方は二章始まるまで待機をお勧めします。◆平日は1回更新、休日は2回更新を目指しています。 イラスト:モルト様

オレが最凶の邪神? 身に覚えがございません

ジオラマ
ファンタジー
「お帰りなさい、ご主人様」  死んだオレに話しかけてきたのは、メイドの姿をした神ゼウスだった。オレは三千年前地球に封印されていた邪神で、ゼウスのご主人様らしい。本当かよ。そんな記憶はないけれど。  そのゼウスに「この世を危機から救ってほしい」と嘆願されて、異世界に転生する。  普通の人間のオレがどうやって? と思ったが、徐々に記憶が戻って、邪神の力も解放されていく。  転生先では二人の少女・古龍バジルと転生者パセリ、さらに黒猫が仲間になった。  転生者抹殺を目的とする白装束集団、「ミカエルの使徒」と戦いを繰り返しながら、三千年前の事件の真相にたどり着いていく。 ①主人公最強。典型的な俺TUEEEE.ただし、潜在能力を出し切れずピンチになることもあります。 ②爽快バトルもの。ダークな物語の背景はあるものの、ライトなテーストです。 ③謎解きもの。なぜ、邪神が転生したのか。一つの謎が解明するごとに新しい謎が生じる。その中で物語の核心に迫っていきます。

初恋の幼馴染兼世界を救った騎士に『恋愛対象外』だと思われている件について

皇 翼
恋愛
「フェルって本当、脳筋ゴリラだよな~。もうそこいらの男より強いじゃん?そんなんじゃ恋愛対象外認定で貰い手見つからなかったりしてな」 魔王討伐後の仲間内での祝勝会。今現在恋心を抱いている相手から言われたその言葉によって、フェリシアの心はズタズタに切り裂かれた。知っていた。この失礼で女たらしの騎士は自分のことを誰にでも基本的に『脳筋ゴリラ』や『恋愛対象外』などと言いふらして、女として見ていない事など。なにせフェリシアは彼の幼馴染だ。 しかし幼馴染だからこそそれを肯定するようなことも、テキトーに返事を返して引き下がるようなことも出来なかった。 「そんなんなら今からでも貰い手見つけてやるわよ!!」 お酒が入っていた所為だろう。気が大きくなってしまった彼女は『出来もしない』ことを片思い中の騎士・ディランに宣言してしまう。 ****** ・『私の片思い中の勇者が妹にプロポーズするみたいなので、諦めて逃亡したいと思います(完結済み)』のディランルート的な何かです。前々から連載希望がチラホラあったので、調子に乗って連載を始めました。 ・ちゃんと単体でも読めるように執筆していくつもりです。 ・でも多分、前作読んでいたほうが読みやすいかとは思います。(前作URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/496593841/609317899) ・前作とは別次元のお話だと思って見てやってください。(恋愛ADVゲーム的な) ・感想欄は連載終了後に開く予定です。 ・ダラダラ更新します。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈ 学園イチの嫌われ者が総愛される話。 嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。

悩ましき騎士団長のひとりごと

きりか
BL
アシュリー王国、最強と云われる騎士団長イザーク・ケリーが、文官リュカを伴侶として得て、幸せな日々を過ごしていた。ある日、仕事の為に、騎士団に詰めることとなったリュカ。最愛の傍に居たいがため、団長の仮眠室で、副団長アルマン・マルーンを相手に飲み比べを始め…。 ヤマもタニもない、単に、イザークがやたらとアルマンに絡んで、最後は、リュカに怒られるだけの話しです。 『悩める文官のひとりごと』の攻視点です。 ムーンライト様にも掲載しております。 よろしくお願いします。

処理中です...