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二百五十八話 フリーズランド18

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「私にはここ五年間の記憶しか
なくてな......タチアナという名前も
兄様に貰ったのだ。」


俺が貸したマントで何度も
鼻水と涙を拭きながら、
タチアナは俺に話し始めた。


「今までの記憶も無く、言葉も
まともに話せない私を、兄様達、
ルーベルト家は優しく迎い入れて
くれた。」


さっきまで涙を流していたタチアナ
だったが、その優しい家族のことを
思い出して少し元気になったようだ。


「食事も勉強も武道の稽古も。
何もなかった私に多くのものを
くれた。」


「言葉とかは直ぐに覚えられたのか?」


「兄様は一週間程で覚えたと
言っていたな。記憶喪失に
なる前にも同じ言語を私は使って
いたのだろう。」


となると、タチアナが異世界から
転生、または転移してきたという
可能は消えるか......


「ん? ちょっと待てよ......。
さっきさ、兄ちゃんに保護されてから
1ヶ月後にはもう勇者になったん
だよな。
てことは、その一ヶ月の間に
レベ上げでもしたのか?」


「いいや。レベル上げなどしていない。
私が初めてギルドでセルフカード
受け取った時のレベルが、
もうすでに350レベルを越えて
いたのだ。」


「は!? なんじゃそりゃ!?」


「......気持ち悪いか?」


「全然。」


「ならいいのだが......。」


そう言ってタチアナは暖まったお湯を
一口すする。


一方で俺はこんがらがってきた頭を
必死に整理する。
だが、全くもってよくわからん。
レベ上げせずに350を越えるって
あり得るのか?
あり得るとしたら......やっぱチート持ち
の転生者ぐらいか......
それに、他にタチアナが何者なのか
を証拠ずけるものなんて......


「あ、そうだ......」


「?」


「タチアナ......。タチアナが保護される
前に、その島で討伐軍が派遣されて
全滅したってのは知ってるよな?」


「もちろんだ。」


「そのさ......これは俺のただの
予想だから、聞き流してくれて
いいんだが......タチアナが......
その討伐軍の生き残りって
可能性は......」


「それは無いぞ、隼人。」


「へ?」


「その討伐軍で行方不明になった
職業者達の遺族から、その職業者達が
着ていた服や使っていた道具を預かり、
その使用者の成分を採取したのだ。
そして、その成分と私の成分を
調べてみたところ、私と
一致する者は誰一人として
いなかった。」


「ということは......」


「そう。私はその討伐軍の
生き残りではない。」
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