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百八十四話 海底の城9

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「姫様。それは
違います。姫様を刺したのは
魔族ではなく、人間であったと
その時に警備していた数十名の
兵士が言っていました。」


「違うの。違うのよ、ばーや。
確かに私を刺したのは
兵士が目撃した人間で間違いないわ。
けどその人間は私を刺したくて
刺したんじゃないわ。」


「どういう意味でございましょう?」


「......私ね......その人間に刺される前、
とある場所でその人間と会おうと
してたの。」


「ま、まさか! またあの場所へ
お一人で──」


「そうよ。そこでその
人間と会っていたわ。
けど、あの時、私の元に来たのは
......ナギだけじゃなかった。」


すると、人魚姫の表情はみるみるうちに、
暗くなっていく。


「私の元に来たのはナギと、
彼の後ろにびったりとくっついて
いた魔族だった。」


人魚姫はがたがたと震えながら
話し続ける。


「魔族?」


「ばーやも見たことがあるはずよ。
時折、ここに訪れてきた
人間によく似た体型で、まるでこう......
暗闇をそのまま宿したような目を
した魔族を。」


ん? あいつじゃね?


「ひ、姫様! その者です!
姫様が負傷した直後に
わたくしどもに同族の
契りを要求してきた魔族は。」


そう言ってご老人は震える人魚姫の
手を強く握る。


「その魔族がね......あいつが......
ナギの後ろで不気味に笑って
ナギに命令したの......
刺せって。そしたら......ナギは......
ナギは......私を刺した。
躊躇いもせず。
あんなことナギがするはずない!
きっとあいつに操られていたんだわ!
あいつが......あいつが......!」


「落ち着いてくださいませ。姫様。」


取り乱した人魚姫をご老人が
落ち着かせる。


なるほど。一通り、今の話を
聞いて合点がいった。
もしも、人魚姫の言う通り
そのナギという人間が操られて
人魚姫を刺したというのであれば、
俺はそのナギを操ったという
魔族に心当たりがある。
確かラーバだったか......
自分の息を吸わせて自由自在に
操ることのできる魔族の幹部。
あいつならできる。可能だ。
そして、何故ラーバが
友好的な関係だったエレディア村
の人間を使って、魚人族には神にも
等しい人魚姫を傷つけさせたのか。
もはや、考える必要もない。
それは先ほど人魚姫が言ったように、
魚人族は魔族にはめられたのだ。
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