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百三十五話 誓い5

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「もう随分、この海に
ファラリオを植えましたね。」


「あと少しで完成ね。」


ナギは満足そうに海から上がり、
上半身に布を被る。


「それじゃ、僕はそろそろ──」


帰ろうとするナギの背後に私は
忍び寄る。


そして
ナギの腕をつかんで海に
引きずりこんだ。



「プハッ!」


「早いよ、帰るの。」


「ですが姫様。僕にも村での
仕事が......」


ナギは最近、私のわがままに
根負けしなくなった。
これも成長というものなのかもしれない。



「もう少し、一緒に──」


「また、来ますから。このファラリオを
持ってここに。」


「......」


「それまでは我慢です。」


人と私とでは寿命の差がある。
だから私は一秒でも
長く、ナギといたかった。


「ナギ。」


「はい。」


「ナギはそのファラリオをこの
海に全部植え終わってたら、
もう来なくなるの?」


私はずっと心にひっかかってたことを
ナギに尋ねた。
ナギがここに来るのは
私の願いであるこの
海をファラリオで覆い尽くす
という目的があったから。

私はそう思ってた。



「も、もしも姫様からお許しが
いただけるのなら、僕は姫様と
一緒にいたいです。」


その返答は予想外だった。


「え? 本当に?」


「はい。叶うなら......ですが......」


「......わかった。では、人魚姫である私が
そのことを許します。」


そう笑って言うと、ナギは
目から涙を浮かべたと思ったら
その場で泣き出した。


「ナ、ナギ!?」


「いえ......嬉しくて......
僕なんかがそんなこと
言ってもらえるなんて......」


「......もう......」


立派な大人になっても
昔からの正直さが変わらない彼が
私はいとおしくてしょうがなかった。



「この海にファラリオを植え
終わったら、一緒に泳ごう?
二人で見るその海の中は
きっといままで見たことのない
綺麗な海になっているから。」


「はい。僕も姫様と一緒に見てみ
たいです。」


ナギはその後も一時、泣き止まなかった
けれど、またナギがここに、いや
私に会いに来てくれる約束が
できたことが嬉しかった。


「また、来てね?」


いつものように、その日も私は
ナギを見送った。













それからちょうど一週間後、
私は秘密の場所でナギを
待っていた。


「ナギ?」


すると、誰かが私の後ろに近寄ってくる。
私はいつものように振り返った。


そこにはいつものようにナギがいた。


「ナ......ギ?」


けれど、一つだけいつものナギ
じゃなかった。


それは持っていた物がファラリオ
じゃなくて






                       刃物だったこと。



「!」


私はそれを見て反射的に海に潜ろうと
したけど、尾びれの状態で陸に
上がっていたから、もう間に合わなかった。


私のちょうど左胸の辺りに激痛が
はしる。
あまりの痛さに動けなくなり、
ナギを見ようとしても振り返られなかった。


「......ァギ......」


私の意識はそのまま、最後にナギの
姿を確認することもなく、薄れていった。


私が遠退く意識のなかで最後に
見たのは、未だ未完成の秘密の
小さな海だった。
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