上 下
20 / 351

二十話 機転

しおりを挟む
隼人はこの世界に転生してから
ずっと着ていたマントを脱ぎ、
地面におく。
身軽になった体を上に伸ばしながら
軽く肩を回す。


「まさか……回復魔法士のあなたが戦う
のですか? この私と。」


「そうだな。」


「ふふっ、ご冗談を。あなたが
私に――」


隼人はだらだら喋っているラーバの
前に恐ろしい程のスピードで移動し、
殴りかかろうとする。


「ぶぅあーー!」


しかし、ラーバは一瞬冷や汗をかき
つつも、先程の煙を吐いて身を隠した。


「あなたとの戦いはまた今度にしてお
きますよ。」


ラーバは煙の中からひょこっと顔を出す。


「逃げるのか?」


「えぇ、私にはまだやらなければ
ならないことがあるので、この
続きはまた今度に。それでは。」


そう言うとラーバは壁の中へと
姿を消していった。


物質を通り抜ける能力、
それをラーバが有していた、
と隼人もそう一瞬考えていたが、
ラーバの不自然な消え方に
少し疑問を抱く。


「ヒール!」


そして隼人は思いたったように
周りにヒールをかけた。

先程自分が傷つけた仲間に
かけるよう、周囲三十メートル
の範囲にいる生命体全てに。


倒れた仲間を青い光が包み込む。
これがこの世界でヒール状態にかかった
時に現れる現象のようだった。


しかし、その青い光が何もいない
ところで照らされた。
そこはちょうど隼人の真後ろだったが、
隼人はそれがわかっていたかのように
振り向く。


そしてその青い光をぶん殴った。


「グハッ!!!」


腹の溝を思いきり殴られ、
口から血を吐きながら何かが
壁にぶつかる。


「なぜ……です……なぜ……私があそこに
いると思ったのですか……?」


殴られよろよろになりながらも、
ラーバは必死に立ち上がろうとする。


「消え方だよ。お前の。」


「消え方……ですか?」


「あぁ、お前、自分が壁の中に消えたかの
ようにと思わせたかったんだろうが、
壁に入る前にお前の姿が消えたのが
見えたんだよ。
お前は壁の中に入れたり、物質を通り
抜けれるんじゃ無くて、姿を消せる
だけなんだろ?」


ラーバは隼人の言葉に苦い顔を浮かべる。


「どうせ、ここからいなくなったと
油断させて、姿を消し、俺の背後を
取ろうとしてたんだろうが、詰めが甘
かったな。」


隼人は瀕死のラーバに冷たい言葉を
なげる。
それがラーバの幹部としての心を
傷つけたのか、うぅぅと何かが
吹っ切れたかのように、猛獣の声を
あげる。


「だぁまぁれ! 私はお前のような
人間に、やられるわけが!」


隼人は追い詰められた獣が
一番危ないということをこれまでの
異世界生活で知っている。

だから

決して手を抜かず

突進してくるラーバを

渾身の力を込めて

もう一度

殴り飛ばした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ダレカノセカイ

MY
ファンタジー
新道千。高校2年生。 次に目を覚ますとそこは――。 この物語は俺が元いた居場所……いや元いた世界へ帰る為の戦いから始まる話である。 ―――――――――――――――――― ご感想などありましたら、お待ちしております(^^) by MY

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

チートな転生幼女の無双生活 ~そこまで言うなら無双してあげようじゃないか~

ふゆ
ファンタジー
 私は死んだ。  はずだったんだけど、 「君は時空の帯から落ちてしまったんだ」  神様たちのミスでみんなと同じような輪廻転生ができなくなり、特別に記憶を持ったまま転生させてもらえることになった私、シエル。  なんと幼女になっちゃいました。  まだ転生もしないうちに神様と友達になるし、転生直後から神獣が付いたりと、チート万歳!  エーレスと呼ばれるこの世界で、シエルはどう生きるのか? *不定期更新になります *誤字脱字、ストーリー案があればぜひコメントしてください! *ところどころほのぼのしてます( ^ω^ ) *小説家になろう様にも投稿させていただいています

異世界ダークエルフの守護者 -Master of Dark Elf-

あんたれす
ファンタジー
 異世界転移を拒否する主人公に特別に与えられたダブルチート。  あらゆるアイテムを限界突破で強化できるチート「強化鍛冶師」。  それに加えて、元の世界から何でも取り寄せられるチート「ネット通販」。  異世界の魔物だらけな荒野に転移した主人公の吾郎さん(32歳)、男性、独身、家事手伝いなのでニートではありません(本人談)が、このダブルチートならば一人でものんびりと元の世界らしく生きていけるだろうと考えたのだが……。  実は、とんでもない最強の組み合わせだった。  なぜならば、元の世界から取り寄せた「おもちゃ」などを、アイテム強化のチートで凄まじい武器や防具に改造できたからである。  エアガンをチート改造して魔物を撃ち殺し、ラジコン戦車を巨大化させて乗り回し、あげくにはプラモデルロボに乗り込んで大暴れ。  更には人形の家を本当に住める住居へと改造したりとアイデア次第でやりたい放題。  そんなある日、根城にした荒野の小さな砦に難民風の100名近い美しき女性のみのダークエルフ達が一斉に押し寄せてくる。  人付き合いの苦手な主人公は戸惑いと困惑の中で悩むのだが、そんな気持ちなどお構い無しにダークエルフな彼女達との不思議な異世界交流が始まっていく。  価値観の相違に戸惑いながらも、主人公はダークエルフ達と共同戦線を張りながら生き延びる戦いを繰り返す中で、やがては彼女達にとっての本物の主人(マスター)となり守護者へと変わっていく物語である。 (この物語はフィクションであり、登場人物、団体名、商品名等は全て架空のものです) (※旧タイトル)Master of Dark Elf -マスターオブダークエルフ-

破滅転生〜女神からの加護を受けて異世界に転生する〜

アークマ
ファンタジー
人生が詰んだような生き方をして来た阿村 江はある日金を借りに家に帰ると妹、阿村 加奈の代わりに加奈に恨みがある男に刺され死んでしまう。 次に目が覚めた時、女神と名乗る女性が現れ「あなたを異世界で私のできうる限りの最高の状態で異世界に転生させます」と言われ渋々だが第二の人生を異世界でおくることを決める。新たな世界では前のような人生ではなく最高の人生をおくろうと江は転生した世界で考えていた。

追い出された万能職に新しい人生が始まりました

東堂大稀(旧:To-do)
ファンタジー
「お前、クビな」 その一言で『万能職』の青年ロアは勇者パーティーから追い出された。 『万能職』は冒険者の最底辺職だ。 冒険者ギルドの区分では『万能職』と耳触りのいい呼び方をされているが、めったにそんな呼び方をしてもらえない職業だった。 『雑用係』『運び屋』『なんでも屋』『小間使い』『見習い』。 口汚い者たちなど『寄生虫」と呼んだり、あえて『万能様』と皮肉を効かせて呼んでいた。 要するにパーティーの戦闘以外の仕事をなんでもこなす、雑用専門の最下級職だった。 その底辺職を7年も勤めた彼は、追い出されたことによって新しい人生を始める……。

出来損ない皇子に転生~前世と今世の大切な人達のために最強を目指す~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日、従姉妹の結衣と買い物に出かけた俺は、暴走した車から結衣を庇い、死んでしまう。 そして気がつくと、赤ん坊になっていた。 どうやら、異世界転生というやつをしたらしい。 特に説明もなく、戸惑いはしたが平穏に生きようと思う。 ところが、色々なことが発覚する。 え?俺は皇子なの?しかも、出来損ない扱い?そのせいで、母上が不当な扱いを受けている? 聖痕?女神?邪神?異世界召喚? ……よくわからないが、一つだけ言えることがある。 俺は決めた……大切な人達のために、最強を目指すと! これは出来損ないと言われた皇子が、大切な人達の為に努力をして強くなり、信頼できる仲間を作り、いずれ世界の真実に立ち向かう物語である。 主人公は、いずれ自分が転生した意味を知る……。 ただ今、ファンタジー大賞に参加しております。 応援して頂けると嬉しいです。

処理中です...