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第一章ヒューマニ王国編

一触即発②

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 ファンティーヌさんの言葉でその場の人達はしんと静まり返った。意味が分かる者は息を飲み、分からない者はきょとんとしている感じ。

「あの……」

 怖ず怖ずと手を上げて声を出したのはいつの間にか着いて来ていたエレンさんだった。凄いね、この空気の中発言しようとするとか、尊敬するよ。私は無理。

「なんだ小僧」

 上から睥睨するファンティーヌさん。私との対応の温度差が凄いんだけど。

「小僧?」

 今までそんな風に言われた事がないのだろうエレンさんはキョトンとしている。

「無礼者!エレンはこの国の世継ぎですのよ!それを獣風情…が…」

 また性懲りもなく侮辱発言をしたベネッタさんは次の瞬間にはファンティーヌさんによって片手で首を締め上げられながら宙吊りになった。細い腕なのに何処にそんな力があるの?

 ベネッタさんは持っていた扇子で叩き落とそうとするけどビクともしない。何度か叩いているうちに扇子を取り落としてしまい、抵抗するようにファンティーヌさんの絞める手を引っ掻く。



 バタバタと藻掻く足で何とかしてファンティーヌさんを蹴ろうとするけどそれも叶わず、徐々に絞める力が増す。

「口に気を付けろ女。これが国母?この国はボク達と戦争したいって事で良いんだよね」

 懸念していた事が現実の形となった事で真っ青な顔で震え出すエーブラムさん、エレンさんは突然始まった暴力にただ呆然としている。

 すると頭を下げていたエーブラムさんが流れるような動きで土下座に移行した。

「申し訳ありません!申し訳ありません!!これは未だに自分の立ち位置がわかっておらんのでございます!どうか、私の顔に免じて戦争だけは!!」

 必死だね、エーブラムさん。それはそうか戦争には人もお金も物資もとにかく大量に投入する事になる。勝てば色々旨味があるだろうけど負ければただただ、国土の疲弊という重い負債が待っているだけだものね。

「謝罪や否定をしても戦争は不可避だけどね。姫様に暴力を振るった時点でこの国はボク達の敵だよ。殲滅されても文句は言わせない」

 私、そんな重要人物じゃないと思うんだけどな。本当にさっきから姫様って呼ばれてるけどなんなの?

「ファンティーヌ殿、姫様とか、守護者というのは何なのですか?」

 おっと、こんな戦場も真っ青なピリピリ空気を見事にぶった斬るクリフさん流石です、素敵。

「貴殿は?」

「失礼いたしました。ヒューマニ王国第四騎士団団長クリフと申します」

「ふむ、クリフ殿ね。姫様は姫様だよ」

 余計わからないんだけど?その間もベネッタさんの抵抗が少しづつ弱くなってるけど放して上げてよ。

「う」

「姫様……」

 ファンティーヌさんに抗議の呻きを漏らすとファンティーヌさんが困ったような表情をしてからベネッタさんを解放した。崩れ落ちたベネッタさんは気絶しており、どす黒い顔色に首にはくっきりとした指の後が残っている。

 エーブラムさんは傍にいた騎士へ声をかけ、直ぐに他の騎士団の人達が駆け寄って来た。

「捕らえておけ」

 悲しそうな表情で騎士達へと命令し、その命令に騎士達も神妙な顔で頭を下げてからベネッタさんを抱えて運んでいった。

「守護者とは玉体を護る者の事。本来ならばボク達が姫様の守護者だった筈なのは、天上におわす女神リュシエル様が神託を御下しになった。もう、間もなく姫様が誕生すると。そこでドラゴニア帝国内で姫様の守護者を選抜するトーナメントが催され、見事ボク達が優勝し、姫様の守護者の地位をもぎ取った。それが…まさか…よもや人間などに………姫様の守護者とは名誉な事なのに!!」

 ファンティーヌさんは最後の言葉をカイルさんとスヴェンさんに向けて放った。

「?」

「?」

 仲良く二人は首を傾げている。それを見たファンティーヌさんが絶望した表情で立ち尽くす。

「本来ならば、竜人間で庇護者と守護者のパスが通り、ある程度感情を読み取る事が出来るのだけど…人間と竜人では感覚が違い過ぎるために意思疏通が出来ないでいる。竜人同士ならばパスが通った時点で護られる者と護る者の自覚がある」

 ほう、種族が違うからカイルさん達は私の言葉というか感情が分からないって事ですか。
 ある程度大きくなるまでの保護者って思えばいいのかな?
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