上 下
33 / 46

第33話 クズの末路④(クズ視点)

しおりを挟む
「待ってください!アレサンドロさん!」
「ははは、僕を追ってきたのかい?酷い男だな、君も。婚約者と愛人を置いて来るなんて」
うるせぇ。俺はいつだって勝ち馬に乗ってきたんだ。
こんなところで死んでたまるかよ!
それにお前だって金と享楽の亡者だったクレアを愛人にしてたし、そもそも自分のところの従業員を全員置いて来てるじゃねーか!!!
 
「なら行者をしたまえ」
「はい」
どうやら連れて行ってくれるらしい。
そもそもなんでこいつは1人なんだ?貴族ならお供くらい連れていても……。

だが、そんなことは俺には関係ない。
アレサンドロの用意した馬車に乗ってリオフェンダールの街から逃げる。
さすが公爵の息子だけあって、仕立ての良い馬車だし、引いている馬も良い。

抱き心地の良かったエランダとクレアを両方失ったのはもったいないが、背に腹は代えられない。

今は一刻も早くスタンピードから離れるべきだ。

俺はまだ終わらない。

"閃光"のパーティー資産を受け継いだ俺のアイテムボックスの中には金貨も武器もアイテムもいっぱい入っている。
惜しいのはエランダが引き継いだラクスのやつの資産を奪えなかったことだが、それでも剣やアイテムの一部はいただいた。
充分な資産になるだろう。
ざっと金貨1,000枚……。
これだけあれば、今逃げ延びさえすれば遊んで暮らせるぜ。


ある程度、街から距離を取り。
馬を休憩させる。
本当は馬なんか気にせず行けるところまで逃げたいが、アレサンドロがそうしろと言うならそうするしかない。
自分で走って逃げるのよりは、休憩を入れたとしてもこっちの方が早いんだから。


「指示されたことは終わりました。行きましょう」
「あぁ。助かるよ。自分でやるのは面倒だったからね」
これも面倒くさい貴族対応だと思ってやり過ごすしかない。
本来は機嫌を損ねただけで殺されるような相手だ。

「1つ言い忘れたけど、馬車の運賃は金貨1,000枚だからね」
「はっ???」

なんだと?

今こいつはなんて言った?


「はっ?じゃなくて、ホーネルド公爵領の領都までついてくるのか、途中で降りるつもりなのかは問わないけど、どこで降りてもスタンピードから逃がしてやるんだから、運賃は当然だろ?」
「なっ……俺には行者をやれと」
「あぁ。もちろん、それは助かるよ。それ込みで金貨1,000枚だと言ってるんだよ」
こいつ……絶対に俺の資産をわかって言ってやがる……。

チクショウ……こんなやつが。
俺は拳を握りしめる。
こいつは単身だ。今なら……。

「あれ?どうしたんだい?たぶん払えそうなラインで言ったつもりだったんだけどな。持ち合わせがない?」
「……」
「怖い顔してるねぇ~。まさかこの僕を害そうなんて考えてる?」
「……」
「おぉ、本気かい?ホーネルド公爵の三男を殺して君が生きていけるとでも?」
「……くそっ」
「あはははは。バカなもんだよね。婚約者と、お腹の子供を捨てて逃げたやつの末路としては例え無一文になっても生きてるだけいいんじゃないかな?あっはっはっはっは」
「……てめぇ」
俺は全力で拳を振った。
怒りに任せて。

しかし……

「ぎゃあああああ」
「あはははは。この僕が守りのアイテムくらい身につけてると思わなかったのかな?ウケる。あ~っはっはっはっは」
殴りかかった俺の腕は切り落とされていた。

「バカだな。交渉の基本だろ?持てる全てを尽くして上位に立つ。持っているカードを使いながら相手を潰す。こんなにも簡単にひっかかるなんて、君もエランダちゃんもバカばっかりだね」
「……」
俺はアイテムボックスから回復薬を取り出して傷口にかけるが、治らない……。

「あぁ、相手によっては傷なんか気にせず襲ってくるからね。当然状態異常も付与されるし、痛みは増幅されているし、また殴りかかってきても同じ効果が発揮されるよ?まだやるかい?ぷ~っくっくっくっく」
ここで終わりか。
こんなところで。

卑劣な商人に取り入り、悪辣な盗賊に取り入り、偽善な冒険者に取り入り、愚昧な貴族に取り入ってここまで生き延びてきたんだ。
生きるためなら、よりよい条件を得るためならなんだってやったんだ。
 

それなのにこんなところで終わってたまるかよ。

くそっ……。

くそっ……。

くそっ……。


「まぁいいさ。ちなみにここで降りても金貨1,000枚は変わらないからね~。って、もう動かないね。つまらないな。もっとあがいてくれよ。エランダちゃんはまだ落としがいがあったのに、君はつまらないね~」

何かを言いながらこいつは俺の体をまさぐる。

「あったあった。じゃぁこれは貰っていくよ。運が良ければ生き延びられるんじゃないかな?」
そう言って、俺のアイテムボックスを奪ったこいつは俺の体から離れていく。

血を失いすぎた俺は状態異常のせいもあるのか起き上がれない。

もう、首すら動かない。






「えっ……」






そんな俺の耳に、クズの微かな声が聞こえた。


なんだ?

 

唐突に周囲が陰る。まだ夜でもない……影か?
そして熱い。
どんどん熱くなる。

なんだ?なにが起きてる?








俺たちがいた一帯に、何かが降ってきて……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

義理の妹が妊娠し私の婚約は破棄されました。

五月ふう
恋愛
「お兄ちゃんの子供を妊娠しちゃったんだ。」義理の妹ウルノは、そう言ってにっこり笑った。それが私とザックが結婚してから、ほんとの一ヶ月後のことだった。「だから、お義姉さんには、いなくなって欲しいんだ。」

【完結】本当の悪役令嬢とは

仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。 甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。 『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も 公爵家の本気というものを。 ※HOT最高1位!ありがとうございます!

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

【完結】私は死んだ。だからわたしは笑うことにした。

彩華(あやはな)
恋愛
最後に見たのは恋人の手をとる婚約者の姿。私はそれを見ながら階段から落ちた。 目を覚ましたわたしは変わった。見舞いにも来ない両親にー。婚約者にもー。わたしは私の為に彼らをやり込める。わたしは・・・私の為に、笑う。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

処理中です...