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第32話 クズの末路③(エランダ視点)

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「なっ。あれだけの資金を渡したのに、それはない……」
「黙れ。資金だって?あれはもともと僕のものさ。なぁ、そうだろ?エランダちゃん」
「どういうことだ?何かあった時の予備費じゃなかったのか?」
「……」
もうこりごりよ。
1つの失敗で全て崩れた。
そういうことなんでしょ?

「言えるわけないよね。あれはただ、昔のエランダちゃんがカジノにのめり込んで出した損失の返済だったなんてね」
「……」
「なっ?どういうことだよ!?金貨が何枚あったと思ってるんだ?」
もう涙も出ない。

そう……幼い頃の私は、子爵家の娘としてずっと家の中で勉強の日々だった。
外に行くこともあまりなかった。
理由は簡単だ。

この街はダンジョンの街。
冒険者という荒くれ者の街。
女子供が自由に出歩けるほどの治安の良さはなかったの。

お父様は衛兵を育ててある程度の規律を持たせようとしていたけど、ダンジョンの中でどんどん強くなる冒険者に抗うのは厳しかった。
しかし衛兵をダンジョンに入れれば、待っているのは退職して冒険者になってしまう道だ。
ダンジョンがある街の冒険者の稼ぎは良い。

普通の街では護衛や出現したモンスター討伐、素材探しや採取などが主体だ。
生死をかけているとはいえ、危険は少ないし、ダンジョン探索と比較したらどれも効率が悪い。
ダンジョンの外でモンスターと遭遇する確率が低いし、倒しても報奨金が出ないからだ。

そんな荒くれ物たちを相手にしつつ、お父様は統治者として上手くやっていたから比較的評判は良かった。
でも、恨みを持つもの、ちょっかいをかけるもの、そんな人たちは必ずいる。

そういう人達が起こした事件で、お父様自身が怪我を負ったことがあるし、かつては親族が亡くなった例もあった。

でも、そんなことは思春期を迎えた少女にはただの枷にしか思えなかった。
自分もギルドに行ってみたい。
街の中を歩いてみたい。

そう思っていたところに、寄り親であるホーネルド公爵の三男であるアレサンドロ……。
今まさに砦を出て行こうとしているクズと出会った。
それは子爵家主催の夜会だった。

周辺の貴族を呼んでの細やかな会。たしかダンジョンを抑えつつ街を運営していることについて、国王陛下から褒賞をもらったのだ。それを祝い会を催した。

さすがにその会に子爵の家族が出ないわけにはいかない。

私も、幼い妹も出席した。
そこにこいつが近寄って来た。

私は見た目の良いこの男にすっかり絆され、まるで恋の相手のように振る舞い、彼の仕事であるカジノに興味を持った。
彼は公爵の三男なので、彼が私をカジノに招待することを父や家族は止めることができなかった。

それは良い気分だった。
自由。

そして教えられるがままに遊興を楽しんだ。

さすがに10歳を過ぎたほどの少女に対して、無茶はしなかったから、無事にその日は帰った。

しかし戻った日常で、私は刺激を忘れることができず。
こっそりと通った。通ってしまった。

今思えば、当然このクズは把握していたんだと思う。
思うけど、よいネタが転がり込んだ、程度の認識だったと思う。

私は熱くなり、負けがこみ……払えなくなった。
それをクズが立て替えてくれて、さらに……。
5年くらいの間に、負債は膨れ上がった。

そしてスタンピートが起き、母と兄が死んだあと、彼は私に言った。
 
「さすがに醜聞があるから無茶はできないけど……エランダちゃん。これはさすがに……」
私の損失総額を聞いて彼は困ったような顔をしていた。
実際には心の中で笑っていただろう。いいカモだと。

「利息は最低限で、僕が5年持ってあげよう。たぶん君が結婚するくらいまでね。そうすれば周りにはバレないよ?なに、君の権限を使ってダンジョンの予算や収入を弄ればなんとかなるよね」
「払ってくれたんじゃなかったの?」
この期に及んで私は口約束を持ち出した。いや、この期に及んだからね。

「さすがにオーナーの立場で支払ってはあげられないよ?それくらいわかるでしょ?」
ニヤニヤしながら言われた。
それではっきりと理解した。
こいつは私をはめたんだ。
私は蟻地獄に引きずり込まれ、落とされたんだと。とっくに落とされていたんだと。

恐らくこいつはラクスたちの強さを見込んでこんなことを言いだしたのよ。
彼が探索を続ければこの街はどんどん潤う。
そこから金を出せと言っている。

何もなければネタとして持っておくつもりの醜聞を、ここできって来た。

ようやく復興して順風満帆に歩き出したとき、そんな醜聞を広められてはたまらなかった。

私は準備されていた契約書にサインした……。
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