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第22話 マジックシールド①

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現れた神話上の生き物であるドラゴンは上空で大きく口を開けた。

見えるのは赤い光。あれは魔力だ。


まずい。きっと伝承にあるブレスだ。

全てを焼き尽くすと言われた。
神話の中で、伝説の街を一夜にして焼き尽くした、あのブレスだ。

そんなものを相手に抗うことなど不可能だ。


「みんな逃げて!できるだけ遠くに!」
「いや、逃げ場などない。覚悟を決めろ!全員全力で防ぐんだ!」

私はなんとか声を出したが、それを覆いかぶせるようにミシェールが叫ぶ。
そうなのかもしれないけど……。


「もう死んだものと思う。それならやることは固まって防御魔法だ!」
「全員で重ね掛けするぞ!」
「シファ様の周りに集まれ!」
「なんとかシファ様だけでも助けるんだ!」
「みんな……どうして?」
冒険者たちが集まってくる。
もちろんみんな顔見知りだ。ダイさんも、ルーダさんも、エテルナさんも、サミドさんも、マルクスさんも、バレッドさんも……。
みんな知ってる。
私はギルド職員だったんだから。
慣れない中で受付に座って、緊張しながら仕事をしていたらみんな笑顔で応援してくれていた。

声をかけて、ゆっくり待ってくれて、たまに愚痴を聞いたり、相談を受けたり、夢なんか語られたり。
みんな楽しい冒険者だったのよ。
こんなところで死ぬべき人たちじゃない。


「ダメよ。私なんかいいから、逃げて。逃げてよ……」
「それこそダメだな」
「あぁ。聞けない相談だ」
「なんでよ」
「俺は嬉しかったぜ?あのシファちゃんがスタンピードで慌てふためく俺たちに全体回復かけてくれたんだぜ?」
「そうよ。あれは痺れたわ。逃げたクズなんてどうでもいいわ。今度は私がシファ様を守りたいわ」
「だな。どうせドラゴンなんて出てきたら逃げたって生きれるかわかんねぇんだ。だったら好きなようにやってやるよ」
「そして好きなようにってのはシファ様を守ることなんだ」
「みんな……」

もう周りが良く見えない。
ドラゴンだけを睨むつもりが、視界がぼやける。

私には魔法使いの才能が少しだけあった。
だから必死に練習して回復魔法ができるようになって、みんなの役に立ちたいと思って必死に全体回復を覚えた。
でもそれしかないの。今はまだ。
だから本当に今は何もできないの。
防御魔法すらできないのよ?
そんな役立たずを守って何になるのよ?
そう言いたいのに、口も動かない。

ドラゴンの口元の赤い光がどんどん大きくなる。

「私だってシファを守る。全員覚悟はできたはずだ。マジックシールド!」
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