上 下
41 / 48
第3章 ラオベルグラッド王国の復興

第41話 冥界への旅立ち

しおりを挟む
side 王妃エメリア

 ようやくです。ようやく完成しました。
 これでもうメロディアレーゼ様の卑猥な魔の手に怯えることはなくなりました。

「ありがとうございます。闇の精霊シャドー様。感謝いたしますわ」
 目の前にいるのは私がお呼びした通り、闇属性の精霊であるシャドー様ですわ。

 もしいまこんな光景を見られたら、私が黒い影のモンスターを放っていると噂されてしまいそうなほど、おどろおどろしい雰囲気を放つ黒い闇属性の精霊様です。

 彼は昔、ルーディア大陸を攻略しているときに宿泊した施設でふと気になって物陰を覗き込んだら、そこに潜んでいた精霊です。
 あの扉の向こうから物音がすると言って、半泣きで慌てふためくライエル王子に起こされた私は不機嫌でしたが、結果的に優秀な精霊様と契約することができました。
 そう言えば姿を現したシャドー様の姿に驚いてお漏らしをされていたのを思い出しました。
 あの頃はライエル様も可愛かったですわね。
 
 なんて物思いにふけっているわけにはいきません。
 これからはこちらから仕掛ける番です。

 えっ?なにをしているのかですって?

 私は国中で発生する黒い影のモンスターについての調査をこの闇の精霊シャドー様にお願いしていたのです。
 そして今、その調査の結果を教えてもらっていたのです。
 私の目の前でふわふわと浮きながら念話で。

 調査ですが、シャドー様には、朝日を浴びて地面に消えていく影のモンスターを追ってもらったり、メロディアレーゼ様によって粉砕された影のモンスターの残骸が消えていく先を追いかけてもらって、どこへ行くのかを調べてもらっていたのです。

 その結果、影のモンスターは地面に潜った後、必ずとある場所に行っていたそうです。
 粉砕された残骸の方も、空気中で薄れて消えていくためわかりづらかったようですが、最終的には同じ場所に行っていたとのことです。

 
 そこは……

 なんと冥界です。


 
 生きとし生けるものが等しく死んだときに通る場所、それが冥界です。
 死したものは中空を彷徨って冥界に辿り着き、そこで生きている間の事柄について確認され、天国に行くか地獄に行くかの審判を受け、そして冥界を去って行くのです。
 そう言われている、あの冥界です。
 
 そんな場所の入り口に近い場所から魔力を使って黒い影のモンスターを生み出して地上に……このラオベルグラッド王国の各地に送り込んでいる異形のものがいたそうです。
 

「まさかそんな場所からこの国を攻撃していたとは。なにか強い恨みでも買ったのかの」
 ヴェルディア様はこんな風に言いますが、それも当然だと思いました。
 私たちは魔王を倒し、四天王も倒し、魔族や魔物からこの大陸だけではなく全ての大陸を解放したのですから。
 死んでいったものの中には私やこの国に恨みを持つものは大勢いたでしょう。
 

 そんな中の誰かが冥界の入り口に横たわって動けなくなりつつも、モンスターを操ってこの世界を攻撃し続けているらしいのです。


 そんなものがいても決しておかしくはない……これまでの私たちの行動を考えればそう思ってしまうものの、冥界という場所はとても厄介です。

 なにせ生者には手が出せない場所です。
 生きている限り、冥界に行くことはできません。

 でも、だからと言って誰かに死んでもらって冥界へ行って、この王国を攻撃している誰かを倒してこいなどとは言えません。
 行ったものは、そのまま死んでしまうからです。
 
 だからこそ、私が行くしかないと思うのです。
 私なら仮死状態にでもしてもらって倒してから精霊様達に引っ張ってもらえば帰ってこれるでしょう。
 精霊様たちなら私の送り迎えをしてくれることくらい、可能でしょう?

 そう主張したのですが、レオにもバラック大臣にもリューナさんにも反対されてしまいました。
 子供たちにも。


 レオ……覚えていてくださいね?
 子供を巻き込むのは反則ですわ!?卑怯ですわ!?
 私の目の前で可愛い子供たちを泣かせるなんて、許しませんからね?

「そうでもしないと君は無茶をするだろう」
「むぅ……」
 それは事実ですが、無関係のあの子たちを泣かしたのです。
 いくら抱きしめてキスしてくれても許しません。

「わかっているし、悪いとも思っている。それでも、このまま君を行かせて死なせてしまったら、あの子たちはずっと泣き続けるだろう」
「うぅ……」
 そんなことにはならないと言っているのに、なぜ聞いてくれないのでしょうか?
 心配?
 そんなことは分かっていますが、対処しないとずっと王国に黒い影のモンスターが降り注ぎ続けるのですよ?

 だったら可能性のあるものが倒しに行かなくてはなりません。
 私は母である以上に、この国の王妃なのです。

 責任があるのです。

 仮に何かあっても、私たちの子どもたちならきっといつか理解してくれます。
 あの子たちは例え幼くても王子と王女なのです。

 
 だから私は行きます。

 ベッドの中で眠らせたレオに静かに宣言し、子どもたちの寝顔を眺めながらその頬をなでた後、私は旅立ちました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

毒花令嬢の逆襲 ~良い子のふりはもうやめました~

りーさん
恋愛
 マリエンヌは淑女の鑑と呼ばれるほどの、完璧な令嬢である。  王子の婚約者である彼女は、賢く、美しく、それでいて慈悲深かった。  そんな彼女に、周りは甘い考えを抱いていた。 「マリエンヌさまはお優しいから」  マリエンヌに悪意を向ける者も、好意を向ける者も、皆が同じことを言う。 「わたくしがおとなしくしていれば、ずいぶんと調子に乗ってくれるじゃない……」  彼らは、思い違いをしていた。  決して、マリエンヌは慈悲深くなどなかったということに気づいたころには、すでに手遅れとなっていた。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

乙女ゲーム攻略対象者の母になりました。

緋田鞠
恋愛
【完結】「お前を抱く気はない」。夫となった王子ルーカスに、そう初夜に宣言されたリリエンヌ。だが、子供は必要だと言われ、医療の力で妊娠する。出産の痛みの中、自分に前世がある事を思い出したリリエンヌは、生まれた息子クローディアスの顔を見て、彼が乙女ゲームの攻略対象者である事に気づく。クローディアスは、ヤンデレの気配が漂う攻略対象者。可愛い息子がヤンデレ化するなんて、耐えられない!リリエンヌは、クローディアスのヤンデレ化フラグを折る為に、奮闘を開始する。

私が悪役令嬢? 喜んで!!

星野日菜
恋愛
つり目縦ロールのお嬢様、伊集院彩香に転生させられた私。 神様曰く、『悪女を高校三年間続ければ『私』が死んだことを無かったことにできる』らしい。 だったら悪女を演じてやろうではありませんか! 世界一の悪女はこの私よ! ……私ですわ!

そんなに私の婚約者が欲しいならあげるわ。その代わり貴女の婚約者を貰うから

みちこ
恋愛
小さい頃から親は双子の妹を優先して、跡取りだからと厳しく育てられた主人公。 婚約者は自分で選んで良いと言われてたのに、多額の借金を返済するために勝手に婚約を決められてしまう。 相手は伯爵家の次男で巷では女性関係がだらし無いと有名の相手だった。 恋人がいる主人公は婚約が嫌で、何でも欲しがる妹を利用する計画を立てることに

【二章開始】『事務員はいらない』と実家からも騎士団からも追放された書記は『命名』で生み出した最強家族とのんびり暮らしたい

斑目 ごたく
ファンタジー
 「この騎士団に、事務員はいらない。ユーリ、お前はクビだ」リグリア王国最強の騎士団と呼ばれた黒葬騎士団。そこで自らのスキル「書記」を生かして事務仕事に勤しんでいたユーリは、そう言われ騎士団を追放される。  さらに彼は「四大貴族」と呼ばれるほどの名門貴族であった実家からも勘当されたのだった。  失意のまま乗合馬車に飛び乗ったユーリが辿り着いたのは、最果ての街キッパゲルラ。  彼はそこで自らのスキル「書記」を生かすことで、無自覚なまま成功を手にする。  そして彼のスキル「書記」には、新たな能力「命名」が目覚めていた。  彼はその能力「命名」で二人の獣耳美少女、「ネロ」と「プティ」を生み出す。  そして彼女達が見つけ出した伝説の聖剣「エクスカリバー」を「命名」したユーリはその三人の家族と共に賑やかに暮らしていく。    やがて事務員としての仕事欲しさから領主に雇われた彼は、大好きな事務仕事に全力に勤しんでいた。それがとんでもない騒動を巻き起こすとは知らずに。  これは事務仕事が大好きな余りそのチートスキルで無自覚に無双するユーリと、彼が生み出した最強の家族が世界を「書き換えて」いく物語。  火・木・土曜日20:10、定期更新中。  この作品は「小説家になろう」様にも投稿されています。

転生嫌われ令嬢の幸せカロリー飯

赤羽夕夜
恋愛
15の時に生前OLだった記憶がよみがえった嫌われ令嬢ミリアーナは、OLだったときの食生活、趣味嗜好が影響され、日々の人間関係のストレスを食や趣味で発散するようになる。 濃い味付けやこってりとしたものが好きなミリアーナは、令嬢にあるまじきこと、いけないことだと認識しながらも、人が寝静まる深夜に人目を盗むようになにかと夜食を作り始める。 そんななかミリアーナの父ヴェスター、父の専属執事であり幼い頃自分の世話役だったジョンに夜食を作っているところを見られてしまうことが始まりで、ミリアーナの変わった趣味、食生活が世間に露見して――? ※恋愛要素は中盤以降になります。

比翼連理の異世界旅

小狐丸
ファンタジー
前世で、夫婦だった2人が異世界で再び巡り合い手を取りあって気ままに旅する途中に立ち塞がる困難や試練に2人力を合わせて乗り越えて行く。

処理中です...