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第2章 魔王の魔力の残滓を追って

第31話 勇者ざまぁ⑭エメリアvsライエル

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side 元勇者(元王子)ライエル

 国王を斬りつけ、聖剣を置いてきた僕はスーメリアと共に逃げるように船に乗って北のザグラッド大陸へ向かった。

 憎きエメリアの名声が響くバルグート王国のあるルーディア大陸、ラオベルグラッド王国が再興中のロデリグ大陸に加え、アラグリア大陸もファージュ大陸も避けた。
 大精霊を4体も引き連れて再興に貢献したロデリグ大陸はまだわかるが、アラグリア大陸では四天王ベッガスを瞬殺、ファージュ大陸でも四天王ゴルヴェスを取り巻きの魔物もろとも強大な魔法で全滅させたなんて言う荒唐無稽な噂が出回っているそうだ。
 しかもそんな噂がなぜか信じられているという。

 今度はどんな卑怯な手段を使ったんだ?

 いつか必ず暴いてやるからな。
 そもそもエメリアの戦闘は精霊を呼んであとは任せたというスタイルだ。
 あの卑怯者は基本的に手を出さない。

 契約する、魔力を与える、顕現させる、やってほしいことをお願いする……その4つしかしないものが、自らの力で戦う者たちよりも優位に立ち、そしてそれを誇り、あまつさえ自らの力で戦う僕たちを蔑んでくるのだ。
 
 なぜ誰も声をあげない。
 なぜ誰も異議を唱えない。
 精霊に愛されているものを害するのが怖いからか?
 その愛されているということすら怪しいというのに。

 そもそもエルフの王族であったラーヴェ曰く、人間では精霊を大陸を超えて動かすようなことはできないハズなのだ。
 それなのに、短期間で僕を追い落とし、国王や他国の人間を抱きこんでしまう。

 あいつは何か裏で卑怯なことをしているに違いない。
 例えばユニークスキルとして洗脳や扇動などを行う魔法でも持っているのではないか?

 そう考えれば全てつじつまが合う。説明ができる。

 僕が追放し、婚約破棄を仄めかすとすぐに新たな相手を見つけてくる。
 僕たちが探索し見つけた敵を、僕たちが敗退した直後に倒してくる。
 それも2回も。

 どう考えても他国を利し、自国の利益を損なう行動をしているにもかかわらず、国王も大臣もあいつを支持する。

 明らかにおかしい。


 聖剣に選ばれた僕よりも、みながあいつを優先する。

 絶対におかしい。


 それも全て、何らかのスキルによるものだ。それを持ってやがるんだ。
 この国の誰にも報告していない何かを。
 もしかしたら邪神に心でも売ってるのではないか?


 絶対に暴いてやるぞ。
 絶対にな。






 そうして僕とスーメリアはザグラッド大陸に到着した。

 そこは寒々し気な丘陵が広がる小さな大陸。

 人も魔族も亜人族も、わずかにしか住んでいない。

 なぜここを僕が選んだのか?
 エメリアに利する勢力がいないことは既に話したが、それ以外にも利点が1つある。


 スーメリアとも相談したが、なんとここは魔力の宝庫なのだ。
 そして精霊がいない。

 ロデリグ大陸のように不在になったのではなく、もともといない場所。
 捨てられた場所と言われる大陸なのだ。


 なぜいないのかはわからない。
 生命が住まない場所だからなのか、魔力が強すぎる場所だからなのかはわからない。


 さぁここで僕たちは力を貯め、必ずやエメリアの秘密を暴いてやるぞ。
 そう意気込む僕とスーメリアだったが、船を降りて驚いた。





 そこにエメリアがいたからだ。






「なぜここにいる!?」
 僕はあり得ない事態におびえるスーメリアを庇うように身を乗り出し、エメリアに問う。

「それはこちらのセリフなのですが……四天王か、魔王の魔力の残滓を探していたのですが、なぜあなたたちがその探査にひっかかったのでしょうか?」
 エメリアの奴はこんなところまで僕たちを追いかけてきたうえに、ありえない濡れ衣を着せてきやがった。
 四天王だと?僕とスーメリアが?

 これで分かっただろう。
 こいつはそういうやつだったんだ。

 恐らくバルグート王国の国王を傷つけて出奔した僕たちが、実は魔王の手先だったと言うつもりだろう。
 そうして僕とスーメリアを倒す大義名分を無理やり作ったのだ。
 信じられない。

 この女の非道さが。

 スーメリアはあまりのことに蹲ってしまったが、許さないぞ。
 僕は……僕だけは絶対にお前を許さないぞ、エメリア。

「うおぉぉおおおお!!!!!!!」
 僕は持ってきた剣を抜き、斬りかかった。

「なっ……ライエル様?ついに錯乱されたのですか?私がわからないとか?」
「わからないわけがないだろう。貴様はエメリア!僕の敵だ!!!」
「はぁ?」
 僕は全力で剣を振り、魔法を叩きつける。

 しかしこの女はなんとでもないと言わんばかりに全ての魔法を消し、僕の剣からは逃れた。
 くそっ……。

「錯乱したわけでもなく私に攻撃する意味は何でしょうか?もしかして本当に魔族の手下になったのですか……?」
「ふざけるなぁあぁああああ!!!!!」
「くっ」
 僕は魔力を剣に乗せて斬撃を飛ばし、そのまま剣を投げつける。
 その行動は予想外だったようで、エメリアは持っていた杖で僕の剣を弾く。
 それは余裕綽々だったエメリアに一瞬の隙を作りだした。

 これでも食らえ!
 僕は隠していたレイピアで突き刺す……


 が……
 
「ライエル様、良い攻撃でしたが、それ以上向かってくるなら私も怒りますよ?」
 
 簡単に防がれてしまった。
 くそっ、精霊か。
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