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第26話 お互いを尊重する妻と息子を見て、息子の成長を感じた件(父ハミル・エルダーウィズ視点)
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□エルダーウィズ公爵家にて (ハミル・エルダーウィズ)
ようやく帰って来た王都。
ようやくたどり着いた我が家。
ある時、息子であるクラムが神妙な顔をしてやってきた。
どうしたんだろう。
この子は昔から大人びた子で、あまり親に頼ることがない。
むしろ僕たちが彼に頼るような関係だ。
そんな彼が『折り入って相談があって』みたいな顔でやって来たから、僕は思わず逃げそうになったが、用件も聞かずに逃げるわけにもいかず、食事の間で彼と向き合った。
どんな頼みごとがくる?
もしかして僕が仕事で何かミスをしていたとか?
それとも自分は公爵領を継ぐ気はありませんとか?
それとも彼も大きくなったし、お母さんのことを教えて欲しいとか?
もしそうなら全て語るつもりだ。
クラムの母であるシェリルは僕の護衛騎士だった。
そして僕の正妻であり、ロイドの母であるミトラの護衛騎士だった。
つまり僕は部下に手を出した最低野郎……というのは家族で折り合いをつけているから勘弁してほしい。
しかし彼女はまだクラムが幼い頃、ミトラとロイドを守って亡くなった。
モンスターに襲われたんだ。
ミトラとロイドが森に行くのを許したのは僕だ。
申し訳ない。
王都周辺ではそんなに強いモンスターが出ることはまずない。
だから、美しいロック鳥が出たという噂を聞いて見てみたいというロイドの頼みを聞いてやった。聞いてやってしまった。
結果、シェリルが死に、クラムは1人になった。
最悪の結果だった。
シェリルはクラムを産んだにもかかわらず騎士の仕事を続けていた。
自分は平民の出だから、いずれ金を貯め、クラムを連れて家を出ると言い続けていた。
ミトラとロイドに気を使い続けていた。
ミトラはそれを気にしていた。
もともとミトラはシェリルを頼りにしていたし、シェリルはミトラを守り続けていた。
2人とも僕の妻になってからもずっと。
だからミトラはクラムのことも生まれた時から可愛がり、自らの子として扱っていた。
普通、正妻よりも前に側室が男の子を生んでしまったらお家騒動の種になってしまうが、とある事情によりシェリルの男児出産はむしろ我が一族に歓迎され、結果としてとても優秀なクラムを得た。
シェリルからすると、どうしていいのか分からなくなっただろう。
呪いで朽ち果てる可能性があった子供。
しかしクラムは耐えて生き延びた。
その結果、次代はクラムになるだろう。
傍から見れば賭けに勝ったと言える。
ミトラは全て理解している。
もしロイドが先であれば、今の状況を見ればロイドは2歳になる前には死に、結局シェリルの子が次代の当主になっていただろう。
ミトラは僕にかかった呪いを織り込み済みで嫁いできた。
躊躇したのはミトラの父であり、彼の命令でシェリルも僕に嫁いだ。
まるで道具のように使われてしまった2人。
結果的にはクラムのおかげで僕らは誰も失うことなく、生き続けられた。
しかし、周囲の視線はシェリルを蝕んだ。
そしてロイドもそうだったんだろう。残念ながら……。僕はまたやってしまったということだ。
ロイドはミトラの気持ちを知らず、過去に起こった悲劇についても知らずに大きくなり、クラムとぶつかるようになった。
『平民の子が公爵になれると思うなよ? いつか俺が引きずり降ろしてやる』とか言った。
唖然とした。
ロイドはミトラに強力な張り手を喰らって伸びていたし、ミトラはその後クラムに謝り続けていた。
エフィを貰ったのはとてもありがたかった。エフィは良い子だった。暗くなりかけた我が家を明るくしてくれた子だ。
何代前の祖先の妹だか、書類を見ないと正確に言えないくらいだが、その"魔女"の娘。
魔女が高齢で亡くなったため、実家であるエルダーウィズ公爵家にやってきた。
シェリルが亡くなった次の年だった。
クラムはエフィをビックリするくらい可愛がり、エフィも懐いた。
ロイドも一旦落ち着いた。
それを見て僕は安心していた。
しかしそれが間違いだったんだろう。
まさかエフィが王家に婚約破棄されるとは。
それをロイドが恥さらしなどと評すとは。
呼び戻してくれればよかったのにと思ったが、エフィを責める可能性があったから呼ばなかったと言われて落ち込んだ。
まさにその通りだ。王家から婚約破棄されたエフィが落ち込んでいることなんか考えずに、自分の頭に浮かんだことを口に出してしまう自分が容易に想像できる。
僕はダメな親だ。
すまない。
その辺りの支援は全てクラムがやったらしい。
お陰でエフィは元気に生きている。
クラムもいる。
クラムは数年前に僕のことを覗いたという"人物史"の結果を教えてくれた。
<娘であるエフィがギード王子から婚約破棄される>
<衝撃からエフィに思い当たることはないのか、何かしてしまったのではないかと自省を求める発言をし、エフィが家出した>
<家出したエフィは悪霊に喰われて死亡した>
<一連の事件によってクラムが家督継承を放棄し、行方不明となる>
<ギード王子は隣国に戦争を仕掛け、先鋒を任されたロイドは死亡する>
<子供全員に先立たれたミトラが自殺する>
<王国を立て直すためという理由で嵌められ、ハミルは処刑され、魔石鉱山は王国に接収される>
あんまりな内容に、共に聞いたミトラと一緒に愕然とした。
"人物史"の内容はあくまでもその時点での未来だ。
行動によって変えられることは"魔女"から聞いていた。
クラムは1人でこれを抱え、変革を試みて成功させたということだ。
1人で抱えさせるほど、僕には信用がなかった。
それも仕方ない。
状況にただ流され、無難な選択やただその場を濁すだけの選択を繰り返したのは僕だ。
シェリルのことも、ロイドのことも。それ以外にもたくさん。
「もし王都に私たちが残っていたら、どうなっていたの? 少なくともエフィの家出をあなたが防ぐつもりだったのでしょう?」
「見たいですか?」
正直、見たくない。怖い。
でもミトラはロイドを失った。納得のために、聞きたかったのかもしれない。そんな思いをクラムにぶつけることは、本来許されない。しかし聞いた。
<娘であるエフィがギード王子から婚約破棄される>
<エフィとの婚約破棄について、王家に賠償を求めるが、無視される>
<怒りに駆られて王子に口論を挑み、国王の前で論破する>
<ロイドは王子の側近から外されることになるが、父親の失態を挽回すれば許されると騙され、悪事に手を染めることになる>
<ギード王子の資質を疑問視した国王が王太子を解こうとするが、オルフェに手を出されて怒った王子はロイドに国王を殺させ、ロイドを現行犯として処刑する>
<巨大な力が復活を遂げ、ハミルは巻き込まれて死ぬ>
酷いものだった。
僕らを王都から隔離するだけでこれが防げることがわかったので、実行したと言われて反論が出てこない。
ミトラは不躾に聞いたことを謝罪した。
「クラム殿、方々に気を使った立ち回りに感謝する。また、私たちを助けてくれてありがとう」
ミトラは想いを表には出さず、クラムに礼を述べる。
執事長から聞いた実際起こったこととそれに対する処置について報告を受けたが、その内容は完璧なものだった。
文句のつけようがない立ち回りだった。
僕にはここまで理路整然と動くことはできない。
知らない間に大人になって、知らない間にめちゃくちゃ仕事ができる子になっていた。
そして命を救われた。魔狼の危険から家族を守ってくれた。
なんて素晴らしい。僕にはもったいない子だ。
クラムは可能な限り僕たちを安全圏に置いてくれていたんだ。
ロイドだけは、その庇護を拒否したんだろう。残念だがどうしようもない。全て僕自身のせいだ。
ようやく帰って来た王都。
ようやくたどり着いた我が家。
ある時、息子であるクラムが神妙な顔をしてやってきた。
どうしたんだろう。
この子は昔から大人びた子で、あまり親に頼ることがない。
むしろ僕たちが彼に頼るような関係だ。
そんな彼が『折り入って相談があって』みたいな顔でやって来たから、僕は思わず逃げそうになったが、用件も聞かずに逃げるわけにもいかず、食事の間で彼と向き合った。
どんな頼みごとがくる?
もしかして僕が仕事で何かミスをしていたとか?
それとも自分は公爵領を継ぐ気はありませんとか?
それとも彼も大きくなったし、お母さんのことを教えて欲しいとか?
もしそうなら全て語るつもりだ。
クラムの母であるシェリルは僕の護衛騎士だった。
そして僕の正妻であり、ロイドの母であるミトラの護衛騎士だった。
つまり僕は部下に手を出した最低野郎……というのは家族で折り合いをつけているから勘弁してほしい。
しかし彼女はまだクラムが幼い頃、ミトラとロイドを守って亡くなった。
モンスターに襲われたんだ。
ミトラとロイドが森に行くのを許したのは僕だ。
申し訳ない。
王都周辺ではそんなに強いモンスターが出ることはまずない。
だから、美しいロック鳥が出たという噂を聞いて見てみたいというロイドの頼みを聞いてやった。聞いてやってしまった。
結果、シェリルが死に、クラムは1人になった。
最悪の結果だった。
シェリルはクラムを産んだにもかかわらず騎士の仕事を続けていた。
自分は平民の出だから、いずれ金を貯め、クラムを連れて家を出ると言い続けていた。
ミトラとロイドに気を使い続けていた。
ミトラはそれを気にしていた。
もともとミトラはシェリルを頼りにしていたし、シェリルはミトラを守り続けていた。
2人とも僕の妻になってからもずっと。
だからミトラはクラムのことも生まれた時から可愛がり、自らの子として扱っていた。
普通、正妻よりも前に側室が男の子を生んでしまったらお家騒動の種になってしまうが、とある事情によりシェリルの男児出産はむしろ我が一族に歓迎され、結果としてとても優秀なクラムを得た。
シェリルからすると、どうしていいのか分からなくなっただろう。
呪いで朽ち果てる可能性があった子供。
しかしクラムは耐えて生き延びた。
その結果、次代はクラムになるだろう。
傍から見れば賭けに勝ったと言える。
ミトラは全て理解している。
もしロイドが先であれば、今の状況を見ればロイドは2歳になる前には死に、結局シェリルの子が次代の当主になっていただろう。
ミトラは僕にかかった呪いを織り込み済みで嫁いできた。
躊躇したのはミトラの父であり、彼の命令でシェリルも僕に嫁いだ。
まるで道具のように使われてしまった2人。
結果的にはクラムのおかげで僕らは誰も失うことなく、生き続けられた。
しかし、周囲の視線はシェリルを蝕んだ。
そしてロイドもそうだったんだろう。残念ながら……。僕はまたやってしまったということだ。
ロイドはミトラの気持ちを知らず、過去に起こった悲劇についても知らずに大きくなり、クラムとぶつかるようになった。
『平民の子が公爵になれると思うなよ? いつか俺が引きずり降ろしてやる』とか言った。
唖然とした。
ロイドはミトラに強力な張り手を喰らって伸びていたし、ミトラはその後クラムに謝り続けていた。
エフィを貰ったのはとてもありがたかった。エフィは良い子だった。暗くなりかけた我が家を明るくしてくれた子だ。
何代前の祖先の妹だか、書類を見ないと正確に言えないくらいだが、その"魔女"の娘。
魔女が高齢で亡くなったため、実家であるエルダーウィズ公爵家にやってきた。
シェリルが亡くなった次の年だった。
クラムはエフィをビックリするくらい可愛がり、エフィも懐いた。
ロイドも一旦落ち着いた。
それを見て僕は安心していた。
しかしそれが間違いだったんだろう。
まさかエフィが王家に婚約破棄されるとは。
それをロイドが恥さらしなどと評すとは。
呼び戻してくれればよかったのにと思ったが、エフィを責める可能性があったから呼ばなかったと言われて落ち込んだ。
まさにその通りだ。王家から婚約破棄されたエフィが落ち込んでいることなんか考えずに、自分の頭に浮かんだことを口に出してしまう自分が容易に想像できる。
僕はダメな親だ。
すまない。
その辺りの支援は全てクラムがやったらしい。
お陰でエフィは元気に生きている。
クラムもいる。
クラムは数年前に僕のことを覗いたという"人物史"の結果を教えてくれた。
<娘であるエフィがギード王子から婚約破棄される>
<衝撃からエフィに思い当たることはないのか、何かしてしまったのではないかと自省を求める発言をし、エフィが家出した>
<家出したエフィは悪霊に喰われて死亡した>
<一連の事件によってクラムが家督継承を放棄し、行方不明となる>
<ギード王子は隣国に戦争を仕掛け、先鋒を任されたロイドは死亡する>
<子供全員に先立たれたミトラが自殺する>
<王国を立て直すためという理由で嵌められ、ハミルは処刑され、魔石鉱山は王国に接収される>
あんまりな内容に、共に聞いたミトラと一緒に愕然とした。
"人物史"の内容はあくまでもその時点での未来だ。
行動によって変えられることは"魔女"から聞いていた。
クラムは1人でこれを抱え、変革を試みて成功させたということだ。
1人で抱えさせるほど、僕には信用がなかった。
それも仕方ない。
状況にただ流され、無難な選択やただその場を濁すだけの選択を繰り返したのは僕だ。
シェリルのことも、ロイドのことも。それ以外にもたくさん。
「もし王都に私たちが残っていたら、どうなっていたの? 少なくともエフィの家出をあなたが防ぐつもりだったのでしょう?」
「見たいですか?」
正直、見たくない。怖い。
でもミトラはロイドを失った。納得のために、聞きたかったのかもしれない。そんな思いをクラムにぶつけることは、本来許されない。しかし聞いた。
<娘であるエフィがギード王子から婚約破棄される>
<エフィとの婚約破棄について、王家に賠償を求めるが、無視される>
<怒りに駆られて王子に口論を挑み、国王の前で論破する>
<ロイドは王子の側近から外されることになるが、父親の失態を挽回すれば許されると騙され、悪事に手を染めることになる>
<ギード王子の資質を疑問視した国王が王太子を解こうとするが、オルフェに手を出されて怒った王子はロイドに国王を殺させ、ロイドを現行犯として処刑する>
<巨大な力が復活を遂げ、ハミルは巻き込まれて死ぬ>
酷いものだった。
僕らを王都から隔離するだけでこれが防げることがわかったので、実行したと言われて反論が出てこない。
ミトラは不躾に聞いたことを謝罪した。
「クラム殿、方々に気を使った立ち回りに感謝する。また、私たちを助けてくれてありがとう」
ミトラは想いを表には出さず、クラムに礼を述べる。
執事長から聞いた実際起こったこととそれに対する処置について報告を受けたが、その内容は完璧なものだった。
文句のつけようがない立ち回りだった。
僕にはここまで理路整然と動くことはできない。
知らない間に大人になって、知らない間にめちゃくちゃ仕事ができる子になっていた。
そして命を救われた。魔狼の危険から家族を守ってくれた。
なんて素晴らしい。僕にはもったいない子だ。
クラムは可能な限り僕たちを安全圏に置いてくれていたんだ。
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