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第21話 王子が全てを見捨てて逃走を決めた件
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□王城にて (ギード王子)
くそっ、なんだ?
なぜ……なぜ空が見える?
俺は父上の執務室にいたはずだ。
それが……
そうだ。
大きな音がしたと思ったら恐ろしい声が聞こえ、次に凄まじい揺れが襲ってきた。
そして激しい音と共に降って来た天井。
なんとか防御魔法が間に合ったが耐えきれずに押しつぶされるかと思った。
しかし幸運なことに俺は生きていた。
そこからなんとか瓦礫の中から抜け出した俺が見たものは、崩れた王城。
そして恐ろしい魔力をまき散らす巨大で獰猛な狼だった。
「なっなっなっなっなっなっ」
あまりの恐ろしさに口が上手く動かない。
震えが止まらない。
これが災厄の魔物……。遥か昔、王城を崩し、王都を恐怖に陥れた強大で凶悪なモンスター……。
なんだよこれ……。
こんなの聞いてない。
こんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!?
魔法師団長……。間違いなくお前は言ったよな。
日々進歩する魔法技術の前では、古代の魔物など畏れることはないと。
かつて高ランクだったモンスターだって、自分たちならそこまで苦労することなく倒せるって。
神話だか、災厄だかしらないが、もし復活したら戦うって。
その日が来るのはむしろ楽しみだとか豪語してただろ!?
なら倒してみせろ!
どこに行ったんだ?
出て来いよ!
自分の言葉には責任を持てよ。
しかし、魔法師団長は見当たらない。
高くそびえたっていた王城が見るも無残な瓦礫の山になり、周囲が見渡せるようになっている。
そして見渡す限り、王城は壊滅的な状態に陥っている。
あの守護結界の魔道具は地下にあったはずだ。
そこからこんな巨大なモンスターが無理やり這い出してきたんだろ?
その際に全部崩してしまったんだろう。
どれくらいの人間が生きている?
どれくらいの人間が死んだ?
まったくわからない。
考えたくもない。
こんなのただの災害だ。
そんな惨状を引き起こしたモンスターが、今なおこちらを見つめながら佇んでやがる。
ぽつりぽつりで瓦礫を押しのけて這い出しているやつがいることはわかる。
しかし王城には数百人ではきかない……もしかしたら万に近い人数がいたはずだ。
それに一緒にいたはずの父上や母上、騎士団長や大臣、ロイドもオルフェも見当たらない。
父上が咄嗟に母を引き寄せていたのは見たと思うが、それ以外わからない。
埋まってしまったのか……。
しかし助け出すような余裕はない。
なにせ距離はあるとはいえ、あの恐ろしい魔狼がいるのだ。
ただそこにいるだけで信じられないほどの魔力を放ち続けている。
その圧力はただただ脅威だ。
脚が竦み、背中が震える。悪寒と頭痛が止まらない。
なんなら歯が勝手にぎちぎちと音を立てている。
怖い……。
あんなものを封印しているのならちゃんとそう伝えろよ。
勝てるわけないだろ!?
"魔女"が警告してた?
そんなわかり伝い言葉じゃなくて、もっとこうわかりやすく脅威を伝えろよ!
この無能どもが!!!
ダメだ……魔狼がゆっくりと動きはじめた。
なんだ?
なにをするつもりだ?
呆然と見つめている俺の視線の先で、巨大な魔狼がたまに瓦礫の山に口の先を突っ込んでる。
何をしているんだ?
……いや、疑問を感じるまでもないだろ。
喰ってやがるんだ。
瓦礫から抜いた口が何かを咀嚼するように動いている。
埋まってる人をほじくり返して喰ってやがるんだ。
ダメだ……。
こんなのダメに決まってる。
動け俺の足……。
逃げろ。
逃げるんだ!
こんなところにいたらまずい。
あいつは順番に掘り返して喰ってやがるんだ。
魔物が喰う相手の身分を考えるわけがない。
逃げろ!
父上は恐らく死んだだろう。
天井に潰されて……。
いまだ出てこれないのだから、どうしようもない。
だからこそ、俺が諦めるわけにはいかないんだ。
国王である父上が亡き今、俺は次の王だ!
王がこんなところで死ぬわけにはいかないんだ!
俺は恥を忍んででも生きて、また国をまとめる必要がある。
国の総力を結集してあの魔狼を追い払う必要がある。
倒すだと?
無理に決まってるだろバカか!?
封印するだと?
守護結界の魔道具が無事に残っているとは思えない。
あれは古代の名手・オルグレンが作ったという魔道具だ。
今の世界に再現できるものがいるとは聞いたことがない。
魔法使いたちの言う、日々の進歩なんて天才や魔物の前では取るに足りないことだったんだ。
昔の魔道具が作れなくなっているんだから。
この無駄飯喰らいどもめ!
何が進歩だ。
何が発展だ。
退化してるじゃないか。
信じた俺たちがバカだったんだ。
覚悟は決まった。
ようやく足も動きそうだ。
行くぞ。
オルフェもロイドも惜しいやつらを亡くしたが、俺だけは生き残らなければならない。
すまないがわかってくれ。
恨むんじゃないぞ?
化けて出たりしたら承知しないからな。
さらば……。
「なっ……いや~!!!」
「たっ、助けて」
ん?オルフェにロイドか……。生きていたんだな。
既に走り出した俺の後ろから声が聞こえて来た。
這い出してきたオルフェとロイドのようだ。
だが、俺は振り返らない。
行くと決めたんだから行く。
お前らもついて来い。
「逃げるぞ!」
俺は2人に声をかけて走り出す。
「まっ、待ってください!私の足が!王子!助けて!」
くそっ、なんだ?
なぜ……なぜ空が見える?
俺は父上の執務室にいたはずだ。
それが……
そうだ。
大きな音がしたと思ったら恐ろしい声が聞こえ、次に凄まじい揺れが襲ってきた。
そして激しい音と共に降って来た天井。
なんとか防御魔法が間に合ったが耐えきれずに押しつぶされるかと思った。
しかし幸運なことに俺は生きていた。
そこからなんとか瓦礫の中から抜け出した俺が見たものは、崩れた王城。
そして恐ろしい魔力をまき散らす巨大で獰猛な狼だった。
「なっなっなっなっなっなっ」
あまりの恐ろしさに口が上手く動かない。
震えが止まらない。
これが災厄の魔物……。遥か昔、王城を崩し、王都を恐怖に陥れた強大で凶悪なモンスター……。
なんだよこれ……。
こんなの聞いてない。
こんな化け物がいるなんて聞いてないぞ!?
魔法師団長……。間違いなくお前は言ったよな。
日々進歩する魔法技術の前では、古代の魔物など畏れることはないと。
かつて高ランクだったモンスターだって、自分たちならそこまで苦労することなく倒せるって。
神話だか、災厄だかしらないが、もし復活したら戦うって。
その日が来るのはむしろ楽しみだとか豪語してただろ!?
なら倒してみせろ!
どこに行ったんだ?
出て来いよ!
自分の言葉には責任を持てよ。
しかし、魔法師団長は見当たらない。
高くそびえたっていた王城が見るも無残な瓦礫の山になり、周囲が見渡せるようになっている。
そして見渡す限り、王城は壊滅的な状態に陥っている。
あの守護結界の魔道具は地下にあったはずだ。
そこからこんな巨大なモンスターが無理やり這い出してきたんだろ?
その際に全部崩してしまったんだろう。
どれくらいの人間が生きている?
どれくらいの人間が死んだ?
まったくわからない。
考えたくもない。
こんなのただの災害だ。
そんな惨状を引き起こしたモンスターが、今なおこちらを見つめながら佇んでやがる。
ぽつりぽつりで瓦礫を押しのけて這い出しているやつがいることはわかる。
しかし王城には数百人ではきかない……もしかしたら万に近い人数がいたはずだ。
それに一緒にいたはずの父上や母上、騎士団長や大臣、ロイドもオルフェも見当たらない。
父上が咄嗟に母を引き寄せていたのは見たと思うが、それ以外わからない。
埋まってしまったのか……。
しかし助け出すような余裕はない。
なにせ距離はあるとはいえ、あの恐ろしい魔狼がいるのだ。
ただそこにいるだけで信じられないほどの魔力を放ち続けている。
その圧力はただただ脅威だ。
脚が竦み、背中が震える。悪寒と頭痛が止まらない。
なんなら歯が勝手にぎちぎちと音を立てている。
怖い……。
あんなものを封印しているのならちゃんとそう伝えろよ。
勝てるわけないだろ!?
"魔女"が警告してた?
そんなわかり伝い言葉じゃなくて、もっとこうわかりやすく脅威を伝えろよ!
この無能どもが!!!
ダメだ……魔狼がゆっくりと動きはじめた。
なんだ?
なにをするつもりだ?
呆然と見つめている俺の視線の先で、巨大な魔狼がたまに瓦礫の山に口の先を突っ込んでる。
何をしているんだ?
……いや、疑問を感じるまでもないだろ。
喰ってやがるんだ。
瓦礫から抜いた口が何かを咀嚼するように動いている。
埋まってる人をほじくり返して喰ってやがるんだ。
ダメだ……。
こんなのダメに決まってる。
動け俺の足……。
逃げろ。
逃げるんだ!
こんなところにいたらまずい。
あいつは順番に掘り返して喰ってやがるんだ。
魔物が喰う相手の身分を考えるわけがない。
逃げろ!
父上は恐らく死んだだろう。
天井に潰されて……。
いまだ出てこれないのだから、どうしようもない。
だからこそ、俺が諦めるわけにはいかないんだ。
国王である父上が亡き今、俺は次の王だ!
王がこんなところで死ぬわけにはいかないんだ!
俺は恥を忍んででも生きて、また国をまとめる必要がある。
国の総力を結集してあの魔狼を追い払う必要がある。
倒すだと?
無理に決まってるだろバカか!?
封印するだと?
守護結界の魔道具が無事に残っているとは思えない。
あれは古代の名手・オルグレンが作ったという魔道具だ。
今の世界に再現できるものがいるとは聞いたことがない。
魔法使いたちの言う、日々の進歩なんて天才や魔物の前では取るに足りないことだったんだ。
昔の魔道具が作れなくなっているんだから。
この無駄飯喰らいどもめ!
何が進歩だ。
何が発展だ。
退化してるじゃないか。
信じた俺たちがバカだったんだ。
覚悟は決まった。
ようやく足も動きそうだ。
行くぞ。
オルフェもロイドも惜しいやつらを亡くしたが、俺だけは生き残らなければならない。
すまないがわかってくれ。
恨むんじゃないぞ?
化けて出たりしたら承知しないからな。
さらば……。
「なっ……いや~!!!」
「たっ、助けて」
ん?オルフェにロイドか……。生きていたんだな。
既に走り出した俺の後ろから声が聞こえて来た。
這い出してきたオルフェとロイドのようだ。
だが、俺は振り返らない。
行くと決めたんだから行く。
お前らもついて来い。
「逃げるぞ!」
俺は2人に声をかけて走り出す。
「まっ、待ってください!私の足が!王子!助けて!」
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