上 下
13 / 46

第13話 お兄様は時たま無自覚で殺人級の笑顔を振りまくから要注意だった件(エフィ視点)

しおりを挟む
□エルダーウィズ公爵邸に戻る馬車の中で (エフィ)

今日はとっても、とっても、とっても素敵な1日でした。
優しいお兄様とのでっ……デート……。

誘われたときにはびっくりしてしまったけど、とっても嬉しかった。
こんな私を誘ってくれるなんて。

そしてメイドさんたちに着せ替え人形にされた。
化粧なんて普段しないから本当にこれでいいのか分からなかったけど、髪の毛と合わせてセットしてくれて、見たこともないアクセサリーを付けられ、信じられないような美しいドレスを着せてもらった。

そう言えば婚約者だったギード王子からこういった贈り物をもらったことはない。
思い出すと少し悲しくなってしまうけど、ないものはない。

だからこれがどこから出てきたものなのかわからなかった。
だから素直にメイドさんに聞いたら肩を抱かれて同情された。

そして教えてくれた。
全部クラムお兄様が用意してくれたものだって。

ちょっと……完璧すぎるよお兄様。
妹だからってここまでしてくれるものなのかな?
にやけてしまう。

大切にしてくれていることがわかるから。
嬉しさが込み上げてきて、止まらない。

それにデートコースは私の希望を最大限に聞いてくれた。
正直お芝居だけはちょっとつまらなかったけど、食事はとても美味しかったし、馬車の中でのお兄様のユーモアのあるお話は楽しかった。途中変な音がしてお兄様が一瞬真面目な顔になった時は緊張したけど、すぐに収まったようでよかったわ。

それに最後に寄ってくれた魔道具屋さんでは興味深い話を聞けたし、買い物もさせてもらった。
なんと売っていた魔法陣の中に、今研究しているものに似た記載があるものがあった。
すぐにでもその魔法陣を持って研究室に行きたかったが、さすがにそれはまずいわよね……。
大事そうに魔法陣を抱える私を見てお兄様は微笑んでくれたけども。

それから、実はシックな見た目で、とても高性能な杖があったから、それも気になったんだけど、なんとか抑えたわ。
 
あれは私にはまだ早いだろうから。
もし働いたとして購入するのにどれだけ時間がかかることやら……。
それでも、魔力の伝導率はよさそうだし、素直そうな良い杖だったな……。

 
「エフィ、少し疲れさせてしまったかい?」
考え事をしていたらお兄様に話しかけられた。
いけない。デートなのに……こんなに気を使ってもらったのに、私、なにも返せていない。
 
「いえ。とっても楽しかったです」
「それは良かった」
お兄様の綺麗な顔が笑顔になる。
眩しい……眩しいよお兄様。
一瞬落ち込みかけた気分があっさりと好転する。

お兄様は時たま無自覚で殺人級の笑顔を振りまくから要注意だったのを忘れていた。
妹ですらこれなんだから、お兄様に憧れる女性たちは今の一撃で失神するだろう。役得だ。

「研究に活かせそうな魔法陣があったのは嬉しかったです」
「そうだったのか。それで喜んでいたんだな」
「はい!」
あの魔法陣は人の過去と未来を覗き見る魔法だ。
凄すぎる。そんな魔法聞いたこともなかった。

そして間違いなく有用だ。
ほいほいと使うような類の魔法ではないことはわかっている。
でも、大事な人のことなら知りたいと思うものだろう。

それで誰かを助けられるかもしれないとしたら。
私なら使う。

もしお兄様の身に何かあることがわかったら、絶対になんとかしてあげたいから。

そのためにも解明する必要がある。
できれば提供者の望み通り省力化もしてあげたい。

必ず魔法史に残る研究となるだろう。公開はできないかもしれないけど。


「今日の記念に、これをプレゼントするよ」
「えっ……お兄様?」
私はびっくりした。それはあの魔道具屋さんで気になった杖だったから。

でもどうして?
私、一瞬見ただけだったのに。
憧れたけど、値段が見えたからすぐ視線を外したの。

なのに……。

「ふふ。兄の目に狂いはなかったな」
「お兄様……」
ちょっと恥ずかしい。もの欲しそうな目をしてしまっただろうか。はしたなくなかっただろうか。

「というのは嘘だよ。この落ち着いたフォルム。洗練されていて飾り気がない杖に惹かれたんだ。そしてきっと、エフィも気に入るだろうなと思って、買っておいたんだ」
「お兄様……」
どうやら私の語彙が死んだらしい。
驚きと嬉しさと暖かさで頭がどうにかなりそう。

大好き、お兄様♡

どうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。
どうしてこんなに暖かくしてくれるんだろう。
どうしてこんなに大事にしてくれるんだろう。

私の中には答えがない。
私がお兄様に何かしてあげられたことなんかない。

それなのにお兄様はいつも優しい。いつも話を聞いてくれる。いつも慰めてくれるし、一緒に考えてくれるし、一緒に笑ってくれる。
なんで?

私、まずいよ……。

だってお兄様なのにさ……。

婚約破棄された私にはもう相手なんか現れそうにないから、ずっと一人でもいいんだけどさ。

お兄様が結婚するってなったら……。


だめよ、エフィ。
こんなに優しいお兄様なんだから、私が枷になってどうする。

きっと泣いてしまうけど、泣き叫んじゃうかもしれないけど。
それまでは妹の特権で隣に居てもいいよね?

それくらい許してくれるよね?


ありがとう、お兄様。
こんな私を愛してくれて……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

だから聖女はいなくなった

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
「聖女ラティアーナよ。君との婚約を破棄することをここに宣言する」 レオンクル王国の王太子であるキンバリーが婚約破棄を告げた相手は聖女ラティアーナである。 彼女はその婚約破棄を黙って受け入れた。さらに彼女は、新たにキンバリーと婚約したアイニスに聖女の証である首飾りを手渡すと姿を消した。 だが、ラティアーナがいなくなってから彼女のありがたみに気づいたキンバリーだが、すでにその姿はどこにもない。 キンバリーの弟であるサディアスが、兄のためにもラティアーナを探し始める。だが、彼女を探していくうちに、なぜ彼女がキンバリーとの婚約破棄を受け入れ、聖女という地位を退いたのかの理由を知る――。 ※7万字程度の中編です。

【完結】元婚約者の次の婚約者は私の妹だそうです。ところでご存知ないでしょうが、妹は貴方の妹でもありますよ。

葉桜鹿乃
恋愛
あらぬ罪を着せられ婚約破棄を言い渡されたジュリア・スカーレット伯爵令嬢は、ある秘密を抱えていた。 それは、元婚約者モーガンが次の婚約者に望んだジュリアの妹マリアが、モーガンの実の妹でもある、という秘密だ。 本当ならば墓まで持っていくつもりだったが、ジュリアを婚約者にとモーガンの親友である第一王子フィリップが望んでくれた事で、ジュリアは真実を突きつける事を決める。 ※エピローグにてひとまず完結ですが、疑問点があがっていた所や、具体的な姉妹に対する差など、サクサク読んでもらうのに削った所を(現在他作を書いているので不定期で)番外編で更新しますので、暫く連載中のままとさせていただきます。よろしくお願いします。 番外編に手が回らないため、一旦完結と致します。 (2021/02/07 02:00) 小説家になろう・カクヨムでも別名義にて連載を始めました。 恋愛及び全体1位ありがとうございます! ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

伯爵令嬢が婚約破棄され、兄の騎士団長が激怒した。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

どうせ嘘でしょう?

豆狸
恋愛
「うわー、可愛いなあ。妖精かな? 翼の生えた小さな兎がいるぞ!」 嘘つき皇子が叫んでいます。 どうせ嘘でしょう? なろう様でも公開中です。

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

傲慢令嬢にはなにも出来ませんわ!

豆狸
恋愛
「ガルシア侯爵令嬢サンドラ! 私、王太子フラカソは君との婚約を破棄する! たとえ王太子妃になったとしても君のような傲慢令嬢にはなにも出来ないだろうからなっ!」 私は殿下にお辞儀をして、卒業パーティの会場から立ち去りました。 人生に一度の機会なのにもったいない? いえいえ。実は私、三度目の人生なんですの。死ぬたびに時間を撒き戻しているのですわ。

もう、振り回されるのは終わりです!

こもろう
恋愛
新しい恋人のフランシスを連れた婚約者のエルドレッド王子から、婚約破棄を大々的に告げられる侯爵令嬢のアリシア。 「もう、振り回されるのはうんざりです!」 そう叫んでしまったアリシアの真実とその後の話。

処理中です...