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第8話 一方その頃ギード王子たちは④

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□王城の地下(とある騎士見習い)

ここは王城の地下にある大空間だ。
あまり知られていないが大広間の3倍はあるとても大きな空間だ。

その空間の半分以上はとある魔道具によって占められている。
かつて王城を崩壊させ、王国の災厄と言われた忌まわしき巨大な魔物。
それを封印している守護結界の魔道具だ。

この魔道具によって魔物は異空間に封じられている。
騎士団でも魔法師団でも倒せなかった強大な魔物。
魔女とも大魔導士とも言われる凄腕の魔法使いが倒したものの、殺しきることはできずにこうして封印することになったらしい。

俺はそんな守護結界の魔道具とこの空間を警備する騎士見習いだ。


全く嫌になるよな。
ここは不穏な雰囲気しか感じない、嫌な空間だ。

なにせ災厄の魔物を封じ込めているんだから当然と言われればそうなんだろうがな。
何と言われても嫌なものは嫌だ。

入るだけで冷や汗が止まらなくなるし、悪寒も頭痛も酷い。
おかしいよな。

俺に仕事を教えてくれた引退騎士さんが言うには、昔はこんなことはなかったらしい。
がらんとした空間にただ巨大な魔道具が安置されている場所で、特に変な感覚もなかったらしい。

なのに気付けばこんなことになっていた。
おいおいおいおい。勘弁してくれよ?
災厄の魔物が復活するとか、マジで勘弁してほしい。


『〇▲×□▼』

ん……?

おかしい。
誰かいるのか?

なんか声が聞こえた気がしたんだが……。
どういうことだよ。ここには俺みたいな見回り役の騎士見習いしか来ないはずだ。

なにせお偉い騎士様方は気味悪がってここには近づかない。
あぁだこうだと理由をつけて行かないんだ。なんのための騎士だよ!

その結果、本来は最も王国の中で危険な場所のはずなのに、騎士見習い……つまり俺みたいな学もないし、剣の腕もない小間使いがたまに見て回るだけの場所になった。
一応、週一回は騎士が来るけど、見回りはせず、魔道具を見るだけらしい。

いいのだろうか?
俺は俺がここにいるときに災厄の魔物が出てこないことを祈るだけだ。
なぜならこの仕事の収入はいい。

見習いでも高収入だ。街で冒険者やるのとは雲泥の差だ。
ほんとなら命の危険がある騎士は目指さず、ここで適度に頑張ってしがみついて稼ぐくつもりだったんだ。

なのにここの見回りを任されるなんてついてないぜ。
とっとと終わらせて帰ろう。

今日こそは食堂のレーネちゃんに声をかけるんだからな!


こんながらんとした空間で、見回るのは小間使いなのにもかかわらず、ここの見回りには手順が定められている。面倒臭せぇな!

まず今俺がやったように、空いている場所をまんべんなく歩き回るんだ。
まるで池に垂らされた餌みたいだよな。なんでこんなことしなきゃいけないんだ?

その結果、端っこの方で変な声が聞こえたし、マジで勘弁してほしい。
俺なんか喰っても美味しくないですよ、災厄の魔物様!

次に中央部……魔法障壁の魔道具の正面まで行き、預かっている魔石を投入する。
そう書いてある。俺が持っている手順書には。

ちょっと待て。俺、魔石なんて預かってないぜ? まぁいつもだけど。
でも、いつも不思議だったんだ。
いつもそう思ってたんだ。

上司である騎士様に聞いても意味はない。
どうせ答えてくれない。
変な質問するなよ、と言わんばかりに目を逸らされて終わりだ。

これいいんだろうか?
魔道具を動かすには魔石がいるなんて、俺でも知ってるぜ?

なのに一度も投入したことがない。
俺がここにきてもう半年だ。

その間一回もない。

もしかしたら俺以外の見回り担当が投入してるのかもしれないけどな。
そんな話聞いたことないけど。


カタカタカタカタ

「なっ、なんだよ!」
目の前で細かく震動する魔道具……。

これ絶対ヤバいやつじゃね?

一応見たしもういいよな?
あっ、そうだ。魔石と言えば、俺1個だけ持ってるわ。
これとりあえず入れておこう。

頼む、あと1日でいいからもってくれ!

その小さな小指の先くらいのサイズの魔石を投入すると、一応震動は治まったようだ。

よかった。

「見回り終わりました!」
「ご苦労。何か変わったことはなかったか?」
「はい、空間の隅の方に行くと何やら不思議な声が聞こえたのと、あとは魔法障壁の魔道具が小刻みに震動していました」
「……なにもなかったようだな。ご苦労」
「あのう、俺、持ってた私物の魔石を入れたら震動は止まったんですが、これって補填してもらえるんですかね?」
「よし、ご苦労だった。行ってよし!」
ふざけんなよバカ野郎!!!

俺の魔石返せよ!まったく。

こんな仕事やめてやる!!!!




「また見習いがやめたのか。まったく、部下の管理もできんのか」
「しかし……さすがに限界です。明らかに魔法障壁の魔道具の様子がおかしいのです」
「どうおかしいのだ?」
「……」
「この無能が! 少しは調べて物を言え!」
「しかし魔石はどうなったのですか? 小さな魔石を入れたら異変が少しは治まったのです。手順に決められた量を投入すべきです!」
「ふん。そんなものはない。どうせ王妃様がお召し物の購入に使ってしまったから」
「……」

そんなやり取りが魔法師団の担当者との間であったようで、俺は上司と一緒に退職したのだった。



レーネちゃん。悪いことは言わないから、王城の食堂の仕事はやめた方がいいよ?
その言葉を伝える機会はなかった。
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