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望んだ"平穏"の先に
帰ってこなかった
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こうしてともに夜会に出席し、無事になんとか役目を果たした後、リュート王子と会話しているときに言ってしまったの。
「私が欲しいのは国の隆盛とかじゃなくて、平穏なのよ。いい?間違ってもガイル王子に私だけを愛してほしいとか、私だけを見ていてなんて夢見がちな少女のようなことが言いたいわけじゃないの。ただ、期待させて反故にされるとか、約束を破られるとか、そういったことがない平穏な暮らしなの……。あなた、聞いているの?」
少し酔っていたのだと思うわ。失礼な物言い。
準備をして、落とされたのが案外ショックだったんだと思う。
こんなことを言ってもリュート王子を困らせるだけなのはわかっているのに。
それでも彼は静かに聞いてくれた。
そのまなざしはとても優しかった。
間違っても体が触れるようなことはしない。
王子にとっても私にとっても、私たちの周囲の者たちに取っても嬉しくないことになるから。
でもね。
「今日はありがとうございました。エーデリンネ様についていただいたおかげで無事乗り切れました。いや、さすがですね。私にはあんなに細かく各領地の状況を聞きだしたり、要望を探ったり、協力を取り付けたりできませんでした。感謝します」
「えぇ。お役に立てて良かったですわ。それにリュート王子もしっかりされていました。慣れぬことでしょうに、どんな方ともまずは会話頂いたので、その間に記憶を整理できて私はやりやすかったですわ」
こんな風にお互いを讃えられるのは、とても嬉しいと言うか、充実した満足感がありました。
もちろん、口さがない者たちはガイル王子はどうしたとか、可愛げがないとか噂しているでしょうけど、そんなことはもうどうでもよくなるくらい私にとって新鮮な経験でした。
その後もガイル王子は戦地に赴いたり、戻ってきても王城での会議や、部下との相談、それに次の戦の準備などで忙しいとのことです。
もちろん愛人宅に出入りしていることは掴んでいる。
いるが、これまで小康状態に保たれてきた戦況が一気に動いたということで慌ただしくしていることも事実だ。
どうやら敵国は小康状態の間に戦力を増強していたようで、国境の守りとしている砦を落とされてしまったらしい。
ガイル王子は王都の守護を警備兵や近衛兵に任せ、自ら王都に留め置いていた騎士団全てを率いて出陣されることとなった。
明日がその出立日。
婚約者としてお守りを用意し、王妃様にお願いして届けてもらった。
それは防御と回復の魔法が込められたもので、宝物庫にあったものを父にお願いして貰い受けたものだ。万が一にも攻撃を受ける事態に陥った場合でも生きていらっしゃるようにと。
王城では国王陛下主催で戦勝祈願を行った。
私は王城の聖殿で祈りを捧げた。
「これは……」
「受け取らなかったのよ」
「そうですか……」
儀式が終わった後、私はお守りを返されてしまった。
王妃様はお美しいお顔を歪めながら、それでもこんな場で戦争に赴くガイル王子を非難することもできず、申し訳なさげに私にお守りを握らせた。
そしてガイル王子は帰ってこなかった。
「私が欲しいのは国の隆盛とかじゃなくて、平穏なのよ。いい?間違ってもガイル王子に私だけを愛してほしいとか、私だけを見ていてなんて夢見がちな少女のようなことが言いたいわけじゃないの。ただ、期待させて反故にされるとか、約束を破られるとか、そういったことがない平穏な暮らしなの……。あなた、聞いているの?」
少し酔っていたのだと思うわ。失礼な物言い。
準備をして、落とされたのが案外ショックだったんだと思う。
こんなことを言ってもリュート王子を困らせるだけなのはわかっているのに。
それでも彼は静かに聞いてくれた。
そのまなざしはとても優しかった。
間違っても体が触れるようなことはしない。
王子にとっても私にとっても、私たちの周囲の者たちに取っても嬉しくないことになるから。
でもね。
「今日はありがとうございました。エーデリンネ様についていただいたおかげで無事乗り切れました。いや、さすがですね。私にはあんなに細かく各領地の状況を聞きだしたり、要望を探ったり、協力を取り付けたりできませんでした。感謝します」
「えぇ。お役に立てて良かったですわ。それにリュート王子もしっかりされていました。慣れぬことでしょうに、どんな方ともまずは会話頂いたので、その間に記憶を整理できて私はやりやすかったですわ」
こんな風にお互いを讃えられるのは、とても嬉しいと言うか、充実した満足感がありました。
もちろん、口さがない者たちはガイル王子はどうしたとか、可愛げがないとか噂しているでしょうけど、そんなことはもうどうでもよくなるくらい私にとって新鮮な経験でした。
その後もガイル王子は戦地に赴いたり、戻ってきても王城での会議や、部下との相談、それに次の戦の準備などで忙しいとのことです。
もちろん愛人宅に出入りしていることは掴んでいる。
いるが、これまで小康状態に保たれてきた戦況が一気に動いたということで慌ただしくしていることも事実だ。
どうやら敵国は小康状態の間に戦力を増強していたようで、国境の守りとしている砦を落とされてしまったらしい。
ガイル王子は王都の守護を警備兵や近衛兵に任せ、自ら王都に留め置いていた騎士団全てを率いて出陣されることとなった。
明日がその出立日。
婚約者としてお守りを用意し、王妃様にお願いして届けてもらった。
それは防御と回復の魔法が込められたもので、宝物庫にあったものを父にお願いして貰い受けたものだ。万が一にも攻撃を受ける事態に陥った場合でも生きていらっしゃるようにと。
王城では国王陛下主催で戦勝祈願を行った。
私は王城の聖殿で祈りを捧げた。
「これは……」
「受け取らなかったのよ」
「そうですか……」
儀式が終わった後、私はお守りを返されてしまった。
王妃様はお美しいお顔を歪めながら、それでもこんな場で戦争に赴くガイル王子を非難することもできず、申し訳なさげに私にお守りを握らせた。
そしてガイル王子は帰ってこなかった。
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