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春が来た

番外編③タケル抜きの女子トーク

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「ちょっと青姉さん!聴いてる?」

タケルが三善と弥太郎を宿泊所まで送って行っている間に、母屋の囲炉裏の周りでは何やら女子会らしき事が起きていた。

酔っ払ったらしいエステルが、クダを巻いている。

集まっているのは青、紅、白、黒、小夜、エステルの6名だ。

と、そこへ土間の引戸をガラリと開けて、梅と椿が入ってきた。

「いやあ終わった終わった。ようやく全員寝かしつけたぜ」

「お疲れさま。お茶と甘酒どっちがいい?濁酒もあるけど」

「ありがとう青姉。酒はタケルに怒られるから、お茶でいいや」

「はいはい。上がって待ってなさい」

2人も囲炉裏を囲む輪に加わる。

「ねえねえ、エス姉がなんか騒いでたみたいだけど、どうかしたの?」

「椿…蒸し返しちゃダメ」

「え?黒ちゃん私なんかいけないこと聞いた?」

「椿ちゃんも来たし、皆さんに聞いてみます!椿ちゃん!あなた旦那様のコトどう思ってるの?」

「へ?どうって?」

椿がキョトンとしてエステルを見る。

「どうってアレよ。旦那様のこと好きなんでしょ?」

「そりゃ好きか嫌いかで言われたら、好きに決まってるじゃん?というか、タケルのこと嫌いな人って里にいるの?今日来た子達とかは除いてさ」

「それは家族としてでしょう?そうじゃなくって!」

「ああ。やっと意味がわかった。私にとってタケルはお父さんだよ?大事なお父さん。だって、小野谷で口減らしのために捨てられるはずだった私達を受け入れて、こんなに素敵な生活を過ごさせてくれてるんだよ。大事なお父さんに決まってるじゃん」

「そうだよなあ。椿はどちらかっつーと平太のほうが良いよなあ」

「ちょっと紅姉やめて!それどういう意味よ!?」

「だって今日だって随分世話焼いてたじゃねえか?」

「だってそれは!アイツったら放っといたらすぐ悪ガキどもに流されてるし!そりゃあアイツらだって仕事はちゃんとしてるけどさあ!」

「まあまあ落ち着けって。紅姉さんもあんまり椿をからかわないの」

梅の仲裁は二人とも大人しく受け入れる。

「じゃあ次は小夜ちゃん!」

「え?私!?」

「そう。小夜ちゃんはずっと旦那様と一緒なんでしょう?どう思ってるの?」

「どうと言われても……やっぱりお父さんかなあ?」

「そういえば!小夜ちゃんと初めて会った時、タケル兄さんって小夜ちゃんのこと妹だって紹介してなかった?」

「そういえばそうでしたね。よく覚えてますね白」

「えへへ。印象強かったからね。でも最近は妹ってより娘っぽい扱いしてるよね?宗像での紹介の仕方とかでも、うちの娘って言ってたし」

「タケルって小夜ぐらいの娘がいるような歳に見えないよな。柚子や八重が子供って言われたら納得するけど。ってかタケルって何歳なの?椿知らない?」

「さあ?私も知らない。でも見た目以上にすっごく落ち着いてるよね」

「ありゃ落ち着いてるっていうか、老けてるっていうか……だって三善の爺さんとか、氏盛の旦那とも対等に遣り合うんだぜ?同じぐらいの歳って言われてもおかしくないんじゃないか?」

「そんな梅は、佐助とか清彦がお似合いか?」

「そうよねえ。なんだか雰囲気も似てるし!」

「青姉それはないぜ……まあ、アイツらなら背中を預けるには不安はねえし、今回の戦さでも一緒に戦ってくれたしな。ってか、アイツら最近になって刀を持ったくせに、えらく強かったよな」

「まあアイツらは俺が見込んで引き抜いてきたからな。銛打ちにかけては灘一帯でも5本の指に入る連中だ。刀より槍の方が上手かっただろ?」

「でもなあ。アイツらのうちの誰かと添い遂げるかって言われたら、違うよなあ。だって海の男だろ?ふらっと漁に出かけて、そのまま帰ってこないなんてことになりそうじゃん」

「梅だったら一緒に舟に乗るだろ。お前大人しく陸で待ってる柄じゃないじゃんよ」

「そうだけどさあ。添い遂げるんならタケルがいいなあ」

「え!?梅さんもお嫁さん候補なんですか!?」

「んあ?別にエステルみたいに大声で言ってるわけじゃないけど。タケルの子なら産みたいと思ってるぞ?ってか、なんでエステルは改めてそんな事聞いてるんだ?」

「いやあ、前から聞きたかったんです。白さんと黒さんにお願いして、旦那様と一緒に一晩過ごす機会とか作って貰ってるんですけど。全然進展が無くって。だからみなさんが旦那様のことどう思ってるのかなって」

「ん??エステルがタケルに手を出してもらえないのと、うちらがタケルのことどう思ってるかって、全然関係無くね?」

「梅さん。そんな事ないですよ。実は旦那様と将来を誓い合った仲の方がおられて、その方に旦那様は義理立てされてる!とか……」

「へ?そんな相手タケルにいるの?青姉なにか知ってる?」

「さあ?何も聞いてはおりませんが、旦那様が誰にも手を出さないのは、みんながまだ若いからです。これは直接旦那様から聞いた話ですが、旦那様は十八歳までは子供だと言い切っておられました。だからエステルも小夜さんも、そういう目では見られてないと思いますよ」

「十八歳!ってあと2年もあるじゃないですか……」

「そうですねえ。だからそれまでは子供扱いされて甘えていればいいんです」

「じゃあ俺は?俺はもう八重を産んでるし、子供じゃないよな?」

「そういや、梅を嫁にしろって言った時、タケルはちょっと考えてたよな?」

「はあああ?紅姉それいつの話!?」

「いつだっけ?秋ぐらい?青覚えてる?」

「さあ?忘れましたけど、確かにそんな話しましたね。ただ桜に後継を産ませると、柚子の立ち位置が難しくなるって紅が自分で言ってましたよね」

「そうそう。言ってた」

「そっかあ。桜が男の子を産んだら、そういう問題も出てくるなあ。その点、八重は女だから、俺がタケルの子を産んでも全然問題ないな!」

「まあ……後継者争いには関係ないですね。でも、男の子が後継って旦那様は決めてはないと思いますよ?」

「まあ一般的にって話だよ!なんだ。タケルもそういうこと考えてたんだ。じゃあ早速“つきのもの”の周期を選んで、羽根つき大会の優勝賞品を行使するか!」

「それ使っちゃって本当にいいの?一回切りだけど」

「うっ……黒ちゃん……それを言われると……」

「はい!質問!」

「なあに椿ちゃん?」

「男の子ってさあ、トシゴロになると“せんずり”ってのやるんでしょ?タケルもやってるの?誰か知ってる人!」

「ちょっと……椿何言ってんだ?」

「え?だって男の子はみんなやってるんでしょ。前に梅姉と掃除の確認に朝一で行ったら、家中変な臭いしてたじゃん?あの時に佐助が教えてくれたよ?」

「あのガキ……明日徹底的にシゴいてやる」

「紅姉怖い」

「黒うるさい!そんな体力残ってるんなら、まだまだイケるだろ!」

「うわあ佐助達かわいそー」

「白ちゃん絶対心にもないことでしょ」

「えへへ。小夜ちゃんわかる??」

「んで、タケルってどうしてるの?だってタケルが寝る時って絶対誰かと一緒なんでしょ?それとも、そういう事に一切興味がない感じ?もしかして男色??」

「私も興味あります!」

「エステル?それは男色に?」

「あ、それもそうですが、そうじゃない方にです!男の子はみんなソウイウコトをするってママも言ってました!」

「どうするよ青?言っちゃう?」

「言うって何をです?私達は何も。ただ、旦那様の疲れを癒すために、硬くなっている筋肉やらを揉んで差し上げているだけですよ?」

「そうそう。カッチカチになってるからね」

「だから、どこを!!」

「どこって……肩とか?」

「腰とか??」

「太ももとか?」


「本当にそれだけですか?そこ!一斉にお茶を飲まない!」

「私達は旦那様の式神です。旦那様のお役に立つ事こそが我らの使命。それが少々下世話な事でも、私達は喜んで行います」

「まあうちらも気持ちいいしな!意識のないタケルは凄いんだぜ?普段あんなに仏頂面なのにな!」


「はあああ…やっぱり……おかしいと思った。こんな美人が添い寝してるのに、何にもしてこないなんてありえません!皆さんで満足させてたんですね!」

「お前なあ、自分で自分のこと美人とか言うなよ」

「私達はタケルの一部。だから、タケルが自分でしてるのと変わらない。私はタケルの右手」

「じゃあ私は左手!」

「もう!そんな事知っちゃったら、旦那様の顔どう見たらいいかわかんないじゃない!ねえ小夜ちゃん!」

「え?そう?別に普通でいいんじゃない?」

「ん?小夜は驚いてないのか??」

「う~ん……ちょっとは驚いたけど、でも白ちゃんも黒ちゃんも、私が一緒に寝てた時はそんなコトしてなかったよね?」

「うん。私達二人は最近。エステルが順番に割り込んできてから」

「なんかその言い方、私が悪いみたいに聞こえますけど?」

「黒はそんな事言ってねえよ。ただなエステル。タケルにとって特別な存在になりたいなら、ただそこに居て指名されるのを待っていてもダメだ。もっと自分を前に出さなきゃな。っても、いっつもやってる“嫁にして~!!”ってのは効果ないんだろ?だったらやり方を変えろ」

「どうしたらいいんですか?」

「そういうの一切封印して、しれっとタケルの隣に居たらどうだ?あいつの隣って左側の小夜は決まってるけど、右側はいつもコロコロ変わってるだろ?だから常に右に居るようにするとか」

「そんなので効果ありますかねえ……」

「効果があるかは、やってみなくちゃわからねえだろ?そろそろタケルも帰ってくるだろ。小夜とエステルの間を開けときな。ちったあ協力してやるよ」

「そういえば今夜は小夜さんとエステルの日ですね。小夜さん?エステルが先走った行動に出ないように、くれぐれもお願いしますね?」

「青姉達がそれ言うの変じゃない?」

「椿ちゃん。いいのいいの。タケルさんは私が守るから」

「ちょっと小夜ちゃん!やっぱり私を悪者にしようとしてない!?」

「あなた達。旦那様がお帰りです。今の話は内緒ですよ。はい、皆さん心を落ち着けて……」
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