筑豊国伝奇~転生した和風世界で国造り~

九尾の猫

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黒さんのニコニコ化学実験!編

91.火薬を製造する①(硝石の製造)

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では早速火薬の製造をやってみよう。
黒は記録を取る気満々で実験ノートを準備している。

とりあえず講義スタイルで始める。

火薬には大きく分けて2種類ある。
恐らく元も使用するであろう黒色火薬と、もっと後代で製造されるようになった無煙火薬だ。無煙火薬は猟銃の弾薬にも使用されている。

黒色火薬の原料は硝石・硫黄・木炭の粉の3つ。

硫黄は火山の火口周囲などでは採取できるだろう。
木炭は普通に里でも生産している。

問題は硝石だ。

硝石の化学名は硝酸カリウム。
水溶性のため、乾燥地帯では自然生成した鉱石が採取されるが、温暖湿潤なこの地域での採取は不可能だ。
とすれば人為的に生産するか合成するしかない。

「質問。猟銃の弾薬とはタケルがガンパウダーと呼んでいるものだろう。あれも十分黒いと思う」

「黒色火薬と無煙火薬の最大の違いは、黒色火薬を使用すると大量の黒煙が出るところだ。原料に炭を使うからどうしても煤が出るからな。黒は俺が猟銃を撃つところを見たことがあるはずだが、銃口から黒煙が出ていたか?」

「いや、白っぽい煙が出ていたが、黒くはなかった」

「それが黒色火薬と無煙火薬の違いだ。無煙と言っても物質が燃焼している以上は、何らかの排ガスは生じる。黒色火薬では排ガス中に大量のすすを含むから黒く見えるが、無煙火薬ではほとんど煤を含まないから白っぽくなる」

講義を続ける。

人為的な硝酸カリウムの生産方法は確立している。

まずは古土法こどほうだ。
築20年以上経過した家の土間や床下の土を採取し、桶に入れて水で硝酸カルシウムを抽出する。
抽出液を濃縮し、アクの強いヨモギなどを焼いた灰を加え、硝酸カルシウムを硝酸カリウムにする。
あとはろ過して静置すれば、硝酸カリウムの結晶が得られる。
ただし、この方法では古い民家が必要だし、そもそも労力の割りに得られる収量が少ない。
この方法は里では生産できないだろう。


ヨーロッパで普及した硝石丘法しょうせききゅうほうというものもある。
人糞や小便、麦藁などを積み上げ腐らせる過程でアンモニアを生じさせる。
このアンモニアから硝化細菌によって生成されるのが亜硝酸だ。
亜硝酸は土中のカルシウムイオンと結合し、硝酸カルシウムとなる。
硝酸カルシウムから硝酸カリウムへの転換は古土法と同じだ。

しかしこの方法では糞尿を使用する。さすがに子供達の前で、あるいは子供達自身に、この作業をやらせたくはない。
というか俺も嫌だ。


残るは培養法だ。
元の世界では加賀藩のみが編み出したとされる秘法だが、有効利用させてもらう。
培養法の特徴は、アンモニアの供給源として蚕の糞を使用したことだ。

まずは屋内の地面に穴を掘り、乾燥させた蚕の糞と、同じく乾燥させた籾殻や蕎麦殻、ヨモギと乾いた土を交互に積み重ねながら埋め戻す。
あとは春と秋に切り返しながら5年ほどかけてじっくりと熟成させ、硝酸カルシウムを含んだ土を得る。
穴を掘る場所は囲炉裏の周りなどで、冬季でも発酵熱で室内は温かかったらしい。

この方法なら臭気もなく、しかも全ての材料が里で手に入る。
蚕の糞は毎日大量に小夜と椿達が回収しているし、籾殻や蕎麦殻もストックがある。
専用の小屋は適度に乾燥した、例えば炭焼きに使っている崖の近くなどに作ればいい。
だが、いかんせん時間が掛かる。さすがに5年も待っていられない。

ここは精霊の力を借りて実験してみよう。

まずは里の西側の崖下に小屋を建てる。だいたい二畳分ぐらいの小さな小屋だ。

その間に小夜と子供達に協力してもらい、蚕の糞と桑畑の表土、籾殻と蕎麦殻、ヨモギを集めてもらう。

「ねえねえ小夜姉ちゃん!蚕の糞を集めるようにって、タケル兄ちゃんは何やってるの?」

「まさか食べるんじゃ……タケル兄ちゃんお腹すいたの??」

「ん~~食べるわけじゃないと思うなあ~まあタケルさんのことだから、またすごい物を作るんじゃないかなあ?」

最近小夜と一緒にいることが多い、〝ちよ″と〝かさね″が元気に手伝ってくれた。
二人は大隈からの合流組だが、すっかり顔色も良くなり、元気に遊んだり働いたりしてくれている。


さて、材料も揃ってきたところだし、早速実験に取り掛かろう。

小屋の中に一辺1m、深さ1mの穴を掘り、子供達が集めてくれた材料を乾燥させながら交互に埋め戻どす。
乾燥の具合がよくわからなかったが、まあヨモギが乾いていればいいだろう。

埋め戻しが終われば、時間の指標として近くに麦を撒き、培養穴と麦を同じように促成する。

目の前で麦が発芽し、生長し、穂を付け、黄金色になる。ここで培養穴を掘り戻し、空気と混ぜながら埋め戻す。この作業を10回繰り返せば、およそ5年が経過したことになるはずだ。

こうして「硝酸カルシウムが入ってるであろう土」を1立方メートル、およそ1.2tを得た。

この土を底に栓を付けた大きな桶に3つに分けて均等に移す。3つに分けたのは、この先で加える灰の種類で収量がどれだけ変わるか試すためだ。

それぞれの桶に水を張り、一晩放置する。


翌日、桶の底の栓を抜き、ゆっくり出てくる水を回収する。
この水に硝酸カルシウムが溶けているはずだ。
土が沈殿し、ちょうどろ過したようになっているから、ゆっくりとしか水が出てこない。
回収が終わるまで、一晩待つ。


回収した水を大鍋で煮立たせ、だいたい1/3に濃縮する。
煮立った液にそれぞれ樫灰、藁灰、ヨモギ灰を溶いて、布で濾過した水を加え、しばらく掻き混ぜる。

植物を燃やした灰には炭酸カリウムが含まれる。灰の成分で水溶性の物は炭酸カリウムぐらいだから、灰を混ぜた水を濾過した濾液には炭酸カリウムが含まれている。

硝酸カルシウムと炭酸カリウムは直ちに置換反応し、硝酸カリウムと炭酸カルシウムになる。

白い沈殿物が出始めたら静置し、沈殿物と溶液を分離させる。
この白い沈殿物が炭酸カルシウムだ。
まだ温かいうちに溶液を布で濾過し、濾液を放冷しながら一晩静置する。


翌日桶を覗くと、水晶のようにきらきらした結晶ができていた。

気付くと黒も結晶に負けずと劣らないキラキラした目で結晶を見ている。

「タケル。これが硝石か?ただの煮出した液から、こんな物が出てくるのか?」

「ああ。だいたいの水に溶ける物質は、ある程度温度が高いほうが溶けやすい。もちろん限界はある。この限界を飽和濃度、100gの水に溶けられる溶質の量を溶解度という。硝酸カリウムの溶解度は100℃でだいたい200g弱。これを30℃まで冷やせば、30℃での溶解度はだいたい40g。この差は水に溶けられず、結晶として取り出せる」

つまり結晶化だ。

「ん?ということは、この上澄み液にもまだまだ硝酸カリウムが含まれている?」

「ああ。だから上澄み液や結晶を洗った水、濾過残渣を濯いだ水を回収して濃縮し、再度結晶化すれば、もう一度結晶が得られるはずだ。ちなみに硝酸カリウムの溶解度は10℃なら20gぐらいまで下がるから、チャレンジするなら冷やしたほうがいいだろう」

「わかった。だいたいやり方はわかったから、あとはやってみてもいい?」

「ああ。黒に任せる。硝酸カリウムは激しく燃えるから、保管場所には気を付けてな」

「了解。タケルには硫黄と木炭の確保を任せた」

黒は硝石の生産に没頭した。
最終的な硝石の収量は、培養土1.2tから硝石30Kgであった。

その間に俺は木炭を焼き、阿蘇山の火口から硫黄を採集してきた。
まあ黒の門を使えば一瞬で火口まで行けたから、特筆することはない。
草千里は草千里であったとだけ言っておこう。

こうして黒色火薬の原料である、硝石・硫黄・木炭を確保した。

次は実際に黒色火薬を製造する。
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