上 下
56 / 176
発展編

56.麹(こうじ)を使って発酵食品を作る

しおりを挟む
今朝は黒の機嫌が少々悪い。

昨夜ベアリングの模型を見つけて俺の部屋に突撃したが、俺の横にはしっかりと小夜と白がくっついていたのが気に入らなかったらしい。

とはいえ、順番をすっ飛ばしたのは黒が先だし、別に黒も潜り込んでくればよかったのではないかと思うが、それはそれで何か思うところがあるようだ。

まあ、これで仲違いするような薄い関係でないことを祈ろう。


一昨日準備していた麦には、無事にコウジカビが定着したようだ。
麦の表面を白いコウジカビが覆い、甘い香りが漂っている。立派な麦麹の完成だ。

麦麹を使って、麦味噌と醤油を仕込む準備を始める。
必要な材料は大豆・麦麹・塩の3つだ。
そろそろ手持ちの塩の在庫が寂しくなってきた。近いうちに博多あたりに仕入れにいかないといけない。

味噌も醤油も出発原料は同じで、過程が異なる。

まずは大豆を炊く。
よく乾燥させた大豆だと一晩給水させたり数時間煮込んだりといった手間がかかるが、今回使用するのは採れたての大豆だから、そこまでの手間はかからない。

炊いている間に味噌の仕込みに使う分の麦麹をほぐし、塩を混ぜ込みながらばらばらにほぐす。

醤油の仕込みに使う麦麹は塩を混ぜない。この後大豆にコウジカビを移す過程があるからだ。


大豆が指で潰せるぐらいに柔らかく煮えたら、ザルにあけ水気を切る。
ここで、味噌にする大豆と醤油に使う大豆を取り分ける。

味噌に使う大豆は荒く潰し、塩を混ぜ込んだ麦麹を入れ、よく混ぜ合わせる。
混ぜ合わせたものをミカン大の大きさにちぎり、味噌玉を作る。

丸めた味噌玉を杉の桶おけに敷き詰め、空気を抜きながら重ねていく。
最後に空気に触れにくいよう晒さらし布で味噌玉の表面を覆い、落し蓋をしてさらに重石を置く。
これで麦味噌の仕込みは完成だ。


次は醤油を仕込む。

煮えた大豆は潰さずに、麦麹を混ぜ込み、コウジカビを大豆に移すためにしばらく置く。

麦麹は白く仕上がるが、大豆の場合は薄っすらと緑色になれば醤油麹の完成だ。

醤油麹を杉の桶に入れ、同量の18%程度の食塩水を加え、蓋をして熟成させる。
週に一回程度かき混ぜる必要はあるが、自然に任せておいても10か月後には生醤油が完成する。
保存用には一旦熱処理をする必要がある。


麦麹の時と同じ方法で、今度は小夜と白と一緒に、米麹を仕込む。
米麹を使ってまずは甘酒を作り、その甘酒を酵母でアルコール発酵させ濁酒どぶろくそして最終的には酢を作る。

甘酒はアルコールを含まないから、特に幼い子供達の離乳食や栄養補給にも使えるはずだ。

甘酒が甘い飲み物だと聞いた二人は、いきいきと仕込みを手伝ってくれた。


まずは米を炊き、麦麹から少量の麹を移し、コウジカビを増殖させる。待ちきれない小夜があっさりと米麹を完成させてしまう。まあ……何事も経験だ……

別に炊いた米におよそ3倍の水を加え、およそ60℃まで加熱する。
米麹を加え、60℃を12時間程度維持し、発酵させる。

魔法瓶があればいいのだが、そんな便利なものはないので、白の風で断熱して放置することにした。
明日の朝には甘酒が出来上がるだろう。

ちなみに俺は飲酒の習慣はない。式神達も別にアルコールを欲することはないようだ。
ただ青や紅はザルのような気がする。
桜や梅、小夜達はどうだろう。酒に溺れるようなことがなければいいが。

翌朝、土間にいくと、小夜と式神達が勢ぞろいしていた。甘酒の匂いに釣られたらしい。

とりあえず試飲してみる。と思ったら、横合いから青が竹筒を持って行った。

「旦那様は里にとって大事なお方。毒見役は私にお任せを」

そう言って青が竹筒を呷あおる。

『あ~青姉ずるい!』

小夜と白が口を揃えて抗議する。

飲み終えた青が無言で次の一杯を注ごうとして、小夜とお玉の争奪戦を始めた。

「はいはい、美味しかったか。じゃあとりあえず一人一杯ずつな」

そう言って竹筒に注ぎ、皆に配る。ちゃっかり青がもう一杯受け取っている。


「これは元気が出る味だなあ……なんというか、力が漲みなぎってくる感じだ」

「タケル、毎食の飲み物で出してもいい?」

「農作業とかの合間にも飲みたいよね!」

「水筒に入れて持ってく?水筒作ろっか」

皆のそれぞれの感想をよそに、青が日本酒でも飲むようにチビチビと飲んでいる。
幸せそうなトロンとした目になっている。酔っている……わけではないはずだ。
想像以上に甘党だったか。

そんな感じで、甘酒は定期的に作ることになった。
というより小夜と白が作り方を知っている。
種麹さえ切らさなければ、今後は普通にメニューに上がってくるだろう。

子供達にも朝食後に一杯ずつ振る舞うことにして、残りの甘酒は以降の仕込みに使う。

甘酒を鍋から杉の樽に移し、冷ます。
人肌程度に冷えたら、酵母を加えよく混ぜる。
冷暗所に放置し、一日一回程度混ぜる。アルコールの匂いがしてくれば、濁酒の完成だ。
清酒にするにはここで絞るが、今回は酢が欲しいのでおよそ半分だけ清酒にする。

残りは絞った後にそのまま発酵を続けさせ、麹が生成した糖が酵母によってアルコールに転化し、更に乳酸菌によって酢酸に転化するのを待つ。

アルコール臭が消え、酢の匂いに代われば、米酢の完成だ。

これで、醤油・味噌・酢・そして酒の4大調味料が揃う目途が立った。
そろそろ梅雨が明ける。
梅雨が明ければ雑穀と野菜の収穫、次の作付けに向けた開墾、コークスや木炭・煉瓦や陶器を作るための窯作り、鍛冶仕事などで忙しくなる。
今のうちに皆に英気を養っておいてもらいたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

しっかり者のエルフ妻と行く、三十路半オッサン勇者の成り上がり冒険記

スィグトーネ
ファンタジー
 ワンルームの安アパートに住み、非正規で給料は少なく、彼女いない歴35年=実年齢。  そんな負け組を絵にかいたような青年【海渡麒喜(かいときき)】は、仕事を終えてぐっすりと眠っていた。  まどろみの中を意識が彷徨うなか、女性の声が聞こえてくる。  全身からは、滝のような汗が流れていたが、彼はまだ自分の身に起こっている危機を知らない。  間もなく彼は金縛りに遭うと……その後の人生を大きく変えようとしていた。 ※この物語の挿絵は【AIイラスト】さんで作成したモノを使っています ※この物語は、暴力的・性的な表現が含まれています。特に外出先等でご覧になる場合は、ご注意頂きますようお願い致します。

転生チートは家族のために~ユニークスキルで、快適な異世界生活を送りたい!~

りーさん
ファンタジー
 ある日、異世界に転生したルイ。  前世では、両親が共働きの鍵っ子だったため、寂しい思いをしていたが、今世は優しい家族に囲まれた。  そんな家族と異世界でも楽しく過ごすために、ユニークスキルをいろいろと便利に使っていたら、様々なトラブルに巻き込まれていく。 「家族といたいからほっといてよ!」 ※スキルを本格的に使い出すのは二章からです。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。 勇者としての役割、与えられた力。 クラスメイトに協力的なお姫様。 しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。 突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。 そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。 なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ! ──王城ごと。 王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された! そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。 何故元の世界に帰ってきてしまったのか? そして何故か使えない魔法。 どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。 それを他所に内心あわてている生徒が一人。 それこそが磯貝章だった。 「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」 目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。 幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。 もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。 そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。 当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。 日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。 「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」 ──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。 序章まで一挙公開。 翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。 序章 異世界転移【9/2〜】 一章 異世界クラセリア【9/3〜】 二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】 三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】 四章 新生活は異世界で【9/10〜】 五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】 六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】 七章 探索! 並行世界【9/19〜】 95部で第一部完とさせて貰ってます。 ※9/24日まで毎日投稿されます。 ※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。 おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。 勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。 ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

流石に異世界でもこのチートはやばくない?

裏おきな
ファンタジー
片桐蓮《かたぎりれん》40歳独身駄目サラリーマンが趣味のリサイクルとレストアの資材集めに解体業者の資材置き場に行ったらまさかの異世界転移してしまった!そこに現れたのが守護神獣になっていた昔飼っていた犬のラクス。 異世界転移で手に入れた無限鍛冶 のチート能力で異世界を生きて行く事になった! この作品は約1年半前に初めて「なろう」で書いた物を加筆修正して上げていきます。

精霊に好かれた私は世界最強らしいのだが

天色茜
ファンタジー
普通の女子高校生、朝野明莉沙(あさのありさ)は、ある日突然異世界召喚され、勇者として戦ってくれといわれる。 だが、同じく異世界召喚された他の二人との差別的な扱いに怒りを覚える。その上冤罪にされ、魔物に襲われた際にも誰も手を差し伸べてくれず、崖から転落してしまう。 その後、自分の異常な体質に気づき...!?

処理中です...