上 下
48 / 176
開拓編

48.梅雨の過ごし方②

しおりを挟む
子供達の家に移動して、皆でナン祭りにすることにした。

青の作る水で皆の手を洗わせ。握り拳半分ぐらいに切り分けた生地を配る。

手で叩いて生地を伸ばし、成形する。

フライパンを火にかけ、少量のラードを引き、一枚ずつ焼き上げていく。


最初の一枚は、今回干し苺を融通してくれた椿、そして干し苺を作った小夜、あとは年齢が若い順だ。
最初に受け取った椿が、熱さに驚いている。

摘んでは離しを繰り返し、パタパタしながら冷まし、少しちぎって口に運ぶ。

「甘い!甘いよタケルさん!お米よりもっと甘いし、ふわふわ!」

皆の目の色が変わる。ここでは甘みといえば果物ぐらいだが、原種に近い果物の甘みはそこまで強くない。
皆甘味に飢えているのだ。

小夜や棗が次々とナンを受けとり、歓声を上げる。

「タケル…母屋で焼いてきていい?」

いや黒よ、それは反則だ。


こうして多少時間は掛かったが皆にナンが行き渡り、ナン祭りは好評のうちに終わった。



「タケル、使っている材料は麦粉なのに、この生地はどうして甘くなるの?」

母屋に戻ると、黒の質問タイムが始まる。新しい事をやると、だいたいこの時間がやってくる。勉強熱心で素晴らしい。

「そうだなあ…米や麦、芋などには澱粉つまり糖が含まれる」

「トウ?大陸に昔あった国?」

いやそれは唐だ。
と言っても、グルコースなどといっても通じないだろう。

「物質が原子と分子で成り立っているのは教えたな?理解しているか?」

「大丈夫。水素、炭素、窒素、酸素のあれでしょ?」

「そう。その原子の結びつき方によって、物質の性質が変わる。例えば水素原子2個と酸素原子1個が結びつけば、水分子1個になる。構成する原子の数が少なければ性質は大きく変わらないが、原子の数が多くなると、同じ原子を含んでいても大きく性質が変わってくる」

「うん。なんとなくイメージできる」

「身近な例では酒と酢みたいな違いだ。両方とも米からできるが、酒の主成分はC2H5OH(エタノール)、酢の主成分はCH3COOH(酢酸)。原子の数はほぼ同じ。構成する原子の種類は全く同じ。では両者の性質に違いはあるか?」

俺は紙に構造式を書きながら、更に説明を深めていく。

「ある。酒を飲むと酔う。酢は酸っぱい。でも酢は酒から出来るはず。そこには繋がりがある」

「そうだ。酒は米から作り、酢は酒から作る。では米と酒の間はなんだ?」

「甘酒?……あっ!」

気づいたようだ。

「そう。米と酒の間は甘酒だ。作り方は、米を蒸し、麹を植え付け、一次発酵させる。この時に米の中の澱粉という大きな糖が、甘さを持つ小さな糖に分解される。一次発酵されたものが米麹甘酒。
次にこの米麹甘酒に含まれる糖を、酵母を使って更に分解する。この過程で生まれるのがアルコール。つまり酒だ。このアルコールを更に酢酸菌を使って発酵させると、酢になる。つまり、人が甘みを感じない糖を、麹や酵母を使って分解させることで甘みを感じる糖に変換しているってことだ」

「分解している……澱粉を分解すると……糖と二酸化炭素?だから生地が膨らむ?」

そうだ。よくできたな。
とりあえず黒の頭をわしわし撫でておく。

「難しい話は終わったか~?要はなんか混ぜて練って、しばらく放置したら美味いもんができるってことだろ。全くいつもながら自然ってすげえなあ」

紅が黒の理解をぶち壊しにかかる。まあこれもいつものことだ。

「その酵母とやらを使うと、どのようなことができるのですか?」

青が聞いてくる。

「そうだなあ…酵母ならパン、味噌、醤油、酒といったところか。乳酸菌ならチーズやヨーグルト、漬物も乳酸菌だな」

「ニュウサンキン??チーズ?ヨーグルト??」

はいはい、また作るときに教えような。

黒のお勉強タイムはひとまず終了にする。


「そんなことよりタケルよお!次にマッサージしてくれるのいつだ?」

突然紅が恐ろしい事を言いだす。

「まっさーじ?なにそれ?」

黒が喰いついた。だから皆の前で言うなよ……

「なんだ、やってもらってないのかお前達。かわいそうだなあ……めっちゃ気持ちいいのに!特にふくらはぎからお尻にかけて揉まれると、こうゾクゾクしてな、背筋がビクンッてなって意識が飛んじゃうぐらい気持ちいいんだぜ」

「なにそれ……ずるい……」

黒がジト目でこっちを見ている。小夜と白は興味津々、青は何か笑っている。

「タケル、今夜は私の番だから、今すぐ寝よう」

黒が不思議なことを言い出す。私の番ってなんだ。

「あれ?言ってなかったか?皆んな輪番で、タケルと一緒に寝る奴決めてんだよ。今日は黒だったかあ……代わってくれ!」

紅が交渉をはじめるが、黒の態度はそっけない。

「断る。タケルは私にもマッサージ?するべき」

「え~そんな気持ちいいのなら、私達もしてほしいよね!小夜ちゃん!」

「え……私はちょっと……恥ずかしいかも……1人でされたいけど、ちょっと怖い……」

「じゃあ次の小夜の順番飛ばして俺な!」

「紅姉それ一日しか変わらないけどいいの?」

「小夜の時は私も一緒だから平気」

4人で盛り上がっている。なんとも賑やかなことだ。
これでネタがマッサージでなければ、ただ微笑ましく見ていられるのだが。

わかった……じゃあ今夜は黒と白だな。
覚悟できたら部屋に来い……
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

【前編完結】50のおっさん 精霊の使い魔になったけど 死んで自分の子供に生まれ変わる!?

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
リストラされ、再就職先を見つけた帰りに、迷子の子供たちを見つけたので声をかけた。  これが全ての始まりだった。 声をかけた子供たち。実は、覚醒する前の精霊の王と女王。  なぜか真名を教えられ、知らない内に精霊王と精霊女王の加護を受けてしまう。 加護を受けたせいで、精霊の使い魔《エレメンタルファミリア》と為った50のおっさんこと芳乃《よしの》。  平凡な表の人間社会から、国から最重要危険人物に認定されてしまう。 果たして、芳乃の運命は如何に?

攫われた聖女~魔族って、本当に悪なの?~

月輪林檎
ファンタジー
 人々を恐怖に陥れる存在や魔族を束ねる王と呼ばれる魔王。そんな魔王に対抗できる力を持つ者を勇者と言う。  そんな勇者を支える存在の一人として、聖女と呼ばれる者がいた。聖女は、邪な存在を浄化するという特性を持ち、勇者と共に魔王を打ち破ったとさえ言われている。  だが、代が変わっていく毎に、段々と聖女の技が魔族に効きにくくなっていた…… 今代の聖女となったクララは、勇者パーティーとして旅をしていたが、ある日、勇者にパーティーから出て行けと言われてしまう。 勇者達と別れて、街を歩いていると、突然話しかけられ眠らされてしまう。眼を覚ました時には、目の前に敵である魔族の姿が…… 人々の敵である魔族。その魔族は本当に悪なのか。クララは、魔族と暮らしていく中でその事について考えていく。

転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る(旧題|剣は光より速い-社畜異世界転生)

丁鹿イノ
ファンタジー
【ファンタジア文庫にて1巻発売中!】 深夜の職場で人生を終えた青桐 恒(25)は、気づいたらファンタジーな異世界に転生していた。 前世の社畜人生のお陰で圧倒的な精神力を持ち、生後から持ち前の社畜精神で頑張りすぎて魔力と気力を異常に成長させてしまう。 そのうち元Sクラス冒険者である両親も自重しなくなり、魔術と剣術もとんでもないことに…… 異世界に転生しても働くのをやめられない! 剣と魔術が存在するファンタジーな異世界で持ち前の社畜精神で努力を積み重ね成り上がっていく、成長物語。 ■カクヨムでも連載中です■ 本作品をお読みいただき、また多く感想をいただき、誠にありがとうございます。 中々お返しできておりませんが、お寄せいただいたコメントは全て拝見し、執筆の糧にしています。 いつもありがとうございます。 ◆ 書籍化に伴いタイトルが変更となりました。 剣は光より速い - 社畜異世界転生 ~社畜は異世界でも無休で最強へ至る~ ↓ 転生した社畜は異世界でも無休で最強へ至る

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

異世界に転生した俺は元の世界に帰りたい……て思ってたけど気が付いたら世界最強になってました

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ゲームが好きな俺、荒木優斗はある日、元クラスメイトの桜井幸太によって殺されてしまう。しかし、神のおかげで世界最高の力を持って別世界に転生することになる。ただ、神の未来視でも逮捕されないとでている桜井を逮捕させてあげるために元の世界に戻ることを決意する。元の世界に戻るため、〈転移〉の魔法を求めて異世界を無双する。ただ案外異世界ライフが楽しくてちょくちょくそのことを忘れてしまうが…… なろう、カクヨムでも投稿しています。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

どうも、賢者の後継者です~チートな魔導書×5で自由気ままな異世界生活~

ヒツキノドカ
ファンタジー
「異世界に転生してくれぇえええええええええ!」  事故で命を落としたアラサー社畜の俺は、真っ白な空間で謎の老人に土下座されていた。何でも老人は異世界の賢者で、自分の後継者になれそうな人間を死後千年も待ち続けていたらしい。  賢者の使命を代理で果たせばその後の人生は自由にしていいと言われ、人生に未練があった俺は、賢者の望み通り転生することに。  読めば賢者の力をそのまま使える魔導書を五冊もらい、俺は異世界へと降り立った。そしてすぐに気付く。この魔導書、一冊だけでも読めば人外クラスの強さを得られてしまう代物だったのだ。  賢者の友人だというもふもふフェニックスを案内役に、五冊のチート魔導書を携えて俺は異世界生活を始める。 ーーーーーー ーーー ※基本的に毎日正午ごろに一話更新の予定ですが、気まぐれで更新量が増えることがあります。その際はタイトルでお知らせします……忘れてなければ。 ※2023.9.30追記:HOTランキングに掲載されました! 読んでくださった皆様、ありがとうございます! ※2023.10.8追記:皆様のおかげでHOTランキング一位になりました! ご愛読感謝!

チートを極めた空間魔術師 ~空間魔法でチートライフ~

てばくん
ファンタジー
ひょんなことから神様の部屋へと呼び出された新海 勇人(しんかい はやと)。 そこで空間魔法のロマンに惹かれて雑魚職の空間魔術師となる。 転生間際に盗んだ神の本と、神からの経験値チートで魔力オバケになる。 そんな冴えない主人公のお話。 -お気に入り登録、感想お願いします!!全てモチベーションになります-

処理中です...